挿話1・新幹線のホームで
新幹線を待つ駅のホーム。
真っ青な空が、レールの上に広がっている。
そのレールに向かって、姿勢良く立つ2人の女の姿。
金色と銀色の女の髪が、風に嬲られて舞う。
ひとりは、きれいな鎖骨が見える胸元のひらいたデザインのワンピース姿の少女。
もうひとりは、小さな鞄を持ち、体の線が強調されたTシャツにデニム素材のペンシルスカートをはいた女。
遠くから見ると、2人の立ち姿が似ていて、血縁関係があることが推察される。
銀髪を軽くかきあげて、女が言った。
「元気ないって、聞いたけど。何かあった?」
金髪の少女は、まっすぐに線路に向けて体を向けたまま、答えた。
「別に、何もないよ。街で知らない男の人たちに絡まれて、嫌な気持ちになっただけ。雅樹が守ってくれたけど、頬を切って血が出た……それも、嫌だった」
「……雅樹くんに、女でも出来たの?」
少女がピクリと頬を歪める。
それを見て、女は顎を軽く上げる。
「それが原因か」
「……お母さんが言ったの?」
「うん。おとーさんが気づくわけないでしょ」
「うん、そだね」
「でもね、おかーさんもおとーさんも、悪かったと思ってる。もちろん、私も」
「別に、お母さんたちも、お姉ちゃんも、悪いことしてない」
「シーナの気持ちに気づかなかった。それは悪いことなの。今でもまだまだ未成年で、庇護を受けていいの。
……未就学児の、不安に気づかなかったのは、私たちに責任があるのよ」
まっすぐに少女の横顔を見る女には、消えない後悔と、それを自分の責めとして受け入れている強い意志が感じられた。
「だから、今みたいな時は頼ってもらえるように、誘拐するの」
「ふふっ、お姉ちゃん、誘拐ってダメじゃない」
「だって、いつものシーナなら、そういう服の時はキャミソール着てるじゃない。それなのに、いかにも胸をアピールするみたいな着方するなんて。
よっぽど焦ってるって、思うじゃない」
少女は、ぐっと喉を鳴らして、レールを凝視するように俯いた。
「……シーナ、私、前に言ったよね。雅樹くんはシーナが育てたようなものなんだから、ちゃんと思春期になって、自分の気持ちが育ってからだって。
その前に、既成事実を作るようなことはしちゃダメって」
「……覚えてるよ。ちゃんと」
「それなら、そんな誘惑するような服は、ダメ。まだ不安定な心と体の年齢なんだから」
「でも、ちょっとくらい、意識されたい」
「シーナに意識しているって、自覚する権限があるのは、雅樹くん本人だけよ。シーナが強制するものじゃない」
「だって、他の女の子が告白してこないように、いろいろ、今までがんばってきたのに。
他の女の子を意識する雅樹なんて、見たくない」
「シーナ」
「幼馴染で初恋で、そのまま結婚で、いいじゃない」
「シーナ」
「なんで、他の女の子を知る必要があるのよ」
「シーナ、恋してるかちゃんと自覚する必要があるのは、シーナも同じだからね」
「……恋、してるもん。雅樹がいいんだもん」
金髪の少女は、青い瞳を閉じて、寒さに凍えるかのように、両肩を抱いて俯いた。
新幹線のホームに、到着を知らせるアナウンスが流れる。
スピーカーの声が止んで、2人の後ろにも人が並び始めた時、銀色の髪を金色の髪に混ぜるかのように、頭を近づけた。
「シーナ、話、聞くから。一晩中ずっとでもいいよ」
「……うん、お姉ちゃん、ありがと」
こつん、と、互いの頭を当てて、2人はホームに到着した新幹線の扉が開くまで、寄り添って立っていた。
9月の爽やかな風が、高所にある新幹線ホームに吹きつける。それは、どこまでも青い空に向かって、吹き抜けていく。
爽やかな青空に、無機質な新幹線ホーム。
そこに立つ美しい姉妹。
(*´ー`*)なんかいいな、と思って。
(*´Д`*)次は、12月2日(金)の予定〜。




