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ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】  作者: 大野半兵衛
侵食

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ガベージブレイブ(β)_076_希望1

 


 ゾンビは腐った人間の死体だ。

 人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族など多種多様な種族の腐った死体が生者を襲う。

 ゾンビなので若さは関係なく、ハイハイができるていどの赤ん坊から、腰が折れ曲がった年寄りまで、とても多くの死体が俺たちの前に現れてはベーゼに使役されていく。


「もう一時間はたっていると思いますが、ゾンビは途絶えることがありませんね」

「ゾンビに関してはベーゼに任せて、俺たちはあの石碑を調べるとするか」

 ぼーっと待っているのも飽きた。

「さんせーい! ご主人様、早くいきましょう!」

 カナンも暇を弄んでいたようで、石碑に走っていく。


 俺たちも石碑に近づく。

 御影石に似た石に何かが刻まれているように見える。

「ご主人様~。見たこともない文字です~」

 カナンの声にアリーも近づいて、その文字を見る。

「たしかに見たこともない文字ですね」

 俺と一ノ瀬はその石碑に刻まれている文字を見て、立ち止まる。


「ツクル君……」

「ああ、間違いない」

「「日本語(だ)」」

 俺と一ノ瀬の声がハモった。


「ご主人様、スズノさん。どうかされましたか?」

 俺たちのそばに控えていたハンナが心配して声をかけてくれた。

「あの石碑の文字は私たちの世界の文字なの」

「え? それは……」

 ハンナも困惑しているようだが、俺も困惑している。

 こんな異世界で日本語の石碑を発見するとは思わなかったからだ。


「過去に召喚された日本人が残したのかな?」

 一ノ瀬の言っている可能性はある。

 だけど、この大陸は数千年も前にラグナロクがあって、その際に死の大地に変わり果ててしまった。

 それ以来、生者の住めない大地になってしまったはずだ。

 日本人がきたことがあるかもしれないが、こんなところに石碑を建てる意味が分からない。


「とにかく近づいて、よく見てみよう」

 俺、一ノ瀬、ハンナが石碑に近づく。

 カナンとアリーはすでに石碑をぐるりと回って、触ったりしている。

 何かの罠だったらどうするんだか。まったく。


「復讐は何も生まない。復讐するは心を失う行為であり、戦うは己に勝つためである」

 一ノ瀬が石碑に刻まれている言葉を読み上げる。

 今までに聞いたどんな声よりも心地よい。なんでこんな感覚になったのかな?

 刻まれているこの文章が俺へのメッセージに思えるのはなんでかな?

 いったい、この石碑は誰が建てたんだ?


 復讐か。今の俺の行動をお見通しって感じだな。

 復讐の何が悪いんだ。やられたらやり返す。その一心で俺は生き延びた。

 復讐こそが俺の力の源なんだ。それを否定されるのは気に入らない。


「スズノさんはこの文字が読めるのですか?」

「ええ、これは私やツクル君の生まれ育った国の言葉なの」

「それはつまり、異世界の言語ということですよね?」

「うん……」


 一ノ瀬が石碑の裏に回る。

「異界の我が子らへ。……これはなんて読むのかな? だいにちにょそん?」

 どうやら裏にも言葉が刻まれていたようだ。

 俺も裏に回ってみる。

 文面からすると、一ノ瀬が「だいにちにょそん」と読んだ人物がこの石碑を建てたようだ。

 しかし、「異界の我が子らへ」か。意味深な言葉だ。


「大日女尊なんて妙に時代がかった名前だな。現代人じゃないのか?」

「かなり昔の人物のような名前だね。でも石碑はまだ新しいように見えるけど?」

 一ノ瀬は石碑をぺたぺた触る。

「普通の石碑よね? 建てられてから数年くらいにしか見えないよ」

「たしかに、真新しい石碑だ。俺たちより前に召喚された日本人が建てたのか?」

 俺も石碑に触ってみる。

 すると、視界がホワイトアウトした。


 ▽▽▽


「………」

 なんだここは?

 今、俺は長閑な風景の中にいる。桃のような果物が生る木々に、すぐ横を流れる小川、小川にかかっている朱塗りの太鼓橋、それに可愛らしい水車が水の流れによってゆっくりと回っている。

 風景は日本に似ているが、どこか日本ではない感じだ。

 俺自身も四阿(あずまや)のような壁のない朱塗りの建造物のそばに立っている。

 どう考えても死の大陸ではない。

 それに、一ノ瀬たちもいない。転移か?


「ようこそ、我が庭へ」

 不意に後ろから声がした。まさか俺が後ろを取られるとは……しかもまったく気づかなかった。

 黒霧に手をかけようとしたが、黒霧がない! どういうことだ!?


「警戒しなくても大丈夫ですよ。私は敵ではありませんから」

 敵ではないと言われて警戒を解くなんてしないものだ。それで気を緩める奴がいたら、そいつは短命だと思う。

 警戒を緩めずに声がする方に向き直ると、時代がかった衣装の女性が立っていた。


「……日本人?」

 カラスの羽のように艶めかしい黒髪を地面につくほど伸ばしたその女性は、若々しい十代後半の日本人女性に見える。


 着ている服は室町時代や平安時代どころではなく、もっと以前の古墳時代の衣裳(きぬも)のような感じだが、その生地は麻や綿ではなく、日差しを浴びて光り輝くシルクのように見えた。

 そこに光り輝いて宙に浮いている羽衣のような物まで纏っているから天女に見える。


「お前は何者だ?」

 その女性は妖艶な笑みを浮かべ、俺を手招きした。

「立ち話もなんですから、こちらでお茶でもしましょう」

 使い古されたナンパの手法である。だが、現状を把握するには彼女の誘いに乗るしかないだろう。


 俺は返事もせずに四阿の中に入り、木でできたベンチに座った。目の前には丸テーブルもある。

 どちらも質素な造りだが、間違いなく高級な素材だと分かる存在感を放っている。

 すると、どこから現れたのか、俺に話しかけていた女性とは別の女性が液体の入った真っ白で重厚感のある茶碗を俺と彼女の前に置いて下がっていった。

 また後ろを取られた。落ち込むぜ。


「なかなか高そうな茶碗だな」

「それほどでもありませんよ。さぁ、冷めないうちにどうぞ」

 茶碗の中にはキラキラと輝く液体が入っているが、これがお茶なのか?


 茶碗を持ち上げ、香りを確認する。

「っ!?」

 驚いた。なんて芳醇な香りなんだ。ハンナの淹れてくれたお茶もいい香りがするけど、これはそういったお茶とは違う芳醇な香りがする。

 いったいこれはなんなのだ? お茶なのは香りで分かるが、お茶というにはあまりにも複雑怪奇、奇想天外な香りだ。

 茶碗に口をつけ液体を飲んでみる。喉越しがよく、すっきりとした飲み口だが、ガツンときて嫌味のない苦味と甘さ……。

 これが毒なら、俺はこんな毒で死ねることに幸せを感じてしまうだろう。


「お気に召したようですね」

「ああ、これほど美味いお茶をいただいたのは初めてだ。感謝する」

 彼女は「うふ」と笑い頷いた。仕草がとても色っぽい。

「では、話を進めましょうか」

「ああ、頼む」

 あのお茶のせいか、いつの間にか警戒心が消えていることに俺は気がついて背筋を伸ばす。


「まずは私の自己紹介からしますね」

 俺は軽く頷き、彼女から目を離さない。

「私は大日女尊(おおひるめのみこと)と申します」

 大昼寝のみこと? 不思議な名前だな。

「昼寝ではなく『ひるめ』ですよ」

 む、俺の考えが漏れていたのか? まさか読心術か?


「私は日本の神の一柱です」

 俺の疑問は無視されたようだ。

 古事記とかに出てきそうな古めかしい名前だからもしかしてと思っていたが、本当に神様だったとはな。

「俺は皇創だ」

「ええ、知っています。私はツクルさんを見ていましたから。あ、ツクルさんとお呼びしていいかしら?」

「好きなように呼べばいい。俺はあんたのことをどう呼べばいいんだ? 大日女尊は言いにくいから勘弁してくれ」

「お好きなように呼んでいただいて構いませんよ」

「そうか、なら……ひるめ、さん。でいいか?」

「はい、構いません」

 ひるめさんは口元を隠し嬉しそうに笑った。


「それで、ひるめさんは俺になんの用があって呼んだんだ?」

「ツクルさんにいくつかお願いがあるのです」

 お願いだと? どんな頼みが出てくるやら。

「その前に、なぜツクルさんなのか、ご説明しますね」

 頷いて了承する。


「私はさきほども申しましたように、日本の神です。ですから、ツクルさんと他の百七人があちらの世界に召喚されたことも知っています」

 やはり知っていたんだな。そうすると、なぜ召喚を防がなかったのかが気になる。

「防がないのではなく、防げないのです。召喚を防いでしまうと行き場を失った召喚のエネルギーが暴走してしまい、日本を丸ごと吹き飛ばすくらいの次元爆発が起きてしまうのです」

 日本を丸ごとって核兵器どころの話じゃないぞ。


「まぁ、次元爆発が起きたら日本どころか、この地球の核まで傷ついてしまいますから、天体として維持ができなくなって地球が崩壊してしまうでしょう。つまり日本人に限らず全ての人類は滅亡するでしょうね」

 人類どころか地球が滅びるんじゃねぇかよ!


「ですから、ツクルさんたちには申し訳ありませんでしたが、あちらの世界へ行ってもらったのです。ただ、今回の召喚では運のよいことに、ツクルさんに私の加護を与えることができました」

 加護だと……?

「そうです。私の加護ですよ」

 絶対俺の心を読んでいるよな。

「うふふふ」

 笑って誤魔化してもバレてるぞ!


「コホン。通常は私の加護を与えることさえできないのですが、今回の召喚ではツクルさんになんとか加護を与えることができました。『調理師』ではあり得ない力があったでしょ?」

 読心術のことを完全になかったことにしたな!

「俺のスキルがあり得ない能力を持っていたのは、ひるめさんのおかげなのか?」

「そうです! 私が加護を与えたことで、ただのスキルがぶっ壊れスキルになったのです! チートですよ!」

 神様がチートとか言うなよな……。

「しゅー」

 おい、目を逸らして口笛を吹くな! しかも口笛になってないし!


「チートならチートで、もっと分かりやすくしておいてくれよ」

「あら、ちゃんと目印をつけていましたよ」

「目印? そんなのあったか?」

「ほら、『ジョブ:調理師・レベル○○○』って、ちゃんと目印をつけているじゃないですか」

「………」

 ん……まさか……?

「そう、そのまさかです! 『調理師』の後ろ、レベルの前についている『・』です!」


 読心術を誤魔化しもしてねぇし。

 そんなことより……。

「分かりづれぇよ!」

「え? 分かりませんでした? 他の方のステータスと比べたら、明らかに違うじゃないですか。もっと注意深く見ないとダメですよ」

 注意深くって……そうなんだけど、なんか納得いかねぇ……。


「加護のことは分かった。一応は感謝する」

「一応だなんて、とても感謝していただいていいのですよ?」

 なんかムカつくわー。

「あら、お気を害しましたか? うふふ」

 完全に俺の心を読んでいるだろ!?

「しゅー」

 こら、口笛を吹くなって言ってるだろ! しかも、音、出てないから!


「でも私の加護はまだ完全に解放されていません」

 話を変えやがった!?

 いや、話は変わってないけど、読心術を完全無視か!?

「なんで完全に解放してくれないんだ? 最初から完全解放したら、もっと楽だったんだろ?」

「うふふ、レベル一で私の加護を完全解放してしまうと、その力にツクルさんの体と精神が耐えられなくて、崩壊してしまいますから」

 こわっ!? なに崩壊って? それ、呪いじゃねぇか!

「失礼なことを言わないでください。私は呪いなんてかけません!」

 ふんすと鼻息を荒くしたのはいいが、読心術を完全解放しているぞ。

「しゅー」

 目を逸らして口笛を吹いて誤魔化すな。

 それになんども言っているが、口笛になってないからな。しつこいぞ。


「今なら私の加護を解放しても大丈夫ですから、解放しますね」

 話を戻したひるめさんは、手で拳銃のマネをして「バーン」と言って、出てもいない煙を吹いた。

 何してんだか。

 見た目は女子高生くらいだけど、神様なんだから、かなりの年齢なんだろ? 年を考えろよ。年を……。

 って、おい、殺気を抑えろ!

「私の年齢がどうかしましたか?」

「い、いや、なんでもない……」

「そうですか。もう解放しましたから、帰ったらステータスを確認しておいてくださいね」

「もう解放したのか? 体と精神に負担がかかるんじゃないのかよ?」

「それはレベル一だった頃の話ですよ。今のツクルさんはあの頃とは違いますから」

 それもそうか。


 

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