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ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】  作者: 大野半兵衛
侵食

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75/88

ガベージブレイブ(β)_074_忍び寄る闇3

 


 アリーの【ソニックヴォイスIII】って、海の中にも効果があるんだな。

 ほとんど力を入れていないと思うけど、【ソニックヴォイスIII】を放つと魚がぷかぷかと浮いてくるんだ。

 基本的には音波だからあるていどは海の中も通ると思っていたけど、ここまでとは思っていなかった。


「色々獲れたから帰るぞ~」

「は~いです~」

「分かりました」

 今回はカナンは何もしていない。いつも活躍しているからたまにはいいし、俺の周りを子犬のようについてくるところが、可愛いんだ。


 岸につくと魔法の絨毯から降りて、歩いて帰ることにした。

 カナンとアリーの二人と、ちょっとした登山を楽しもうと思う。

 それに海岸から登山道を造っていこうと思ったんだ。


 登山道を造りながら山を登ること三十分。まだ旅館まではそこそこ距離がある。

「………」

 背筋がぞわぞわとして、立ち止まった。

「主様……」

 ベーゼが出てくる。

「ご主人様……」

 カナンも感じたようだ。

「どうかしましたか?」

 アリーには感知系のスキルはない。

 俺はカナンとアリーの前に立って、もうすぐ現れるであろう何かに備えた。

「この感覚は……」

 黒霧が何か言いよどむ。


 何もない空中から突然それは現れた。現れ方はベーゼのそれだ。

 ただし、俺たちの前に現れたのは、黒い霧のような不定形の何かだ。

 その霧のようなものが、木に触れると一瞬で木が枯れてしまった。

「何者だ? と聞いても口があるようには見えないな」

 誰何しても言葉が通じるようには思えないが……。

「ご主人様……これはなんなんですか?」

「俺にも分からないが、俺たちと仲よくしたいと思っているようには見えないな」

「ゴーストのように見えますが?」

「ゴースト? アリーはあれを知っているのか?」

「いえ、物語で出てくるような存在だとしか」

「物語か……」

「主様……この者は我に近き存在であるかと」

「ベーゼがそう言うなら、そうなんだろうな……」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 氏名:リムレイ

 種族:オールドゴースト レベル二百五十

 スキル:【生体感知II】【生気吸収II】【存在隠蔽II】【透過】【物理攻撃無効】【魔法攻撃耐性II】【転移術】

 能力:体力C、魔力A、腕力C、知力B、俊敏B、器用D、幸運E

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 オールド種か。

 能力は大したことないが、【物理攻撃無効】と【魔法攻撃耐性II】を持っているから攻撃は通りにくいだろう。

 それと、木が枯れた原因は【生気吸収II】だな。ベーゼも持っていないスキルだ。

「……こいつ」

「どうかしましたか?」

「食べられるのか?」

 カナンとアリーがずっこけた。


「だってさ、倒しても食えるところがないんじゃ、やる気にならないだろ?」

「ご主人様の戦う基準が食べられるかどうかってことなんだって、カナンは知っていました!」

「いや、カナンだってせっかくなら食いたいだろ?」

「もちろんです!」

「ツクルさんとカナンの基準が同じなのはよく分かりました」

「だって、あいつを倒してもレベルは上がらないぞ。アリーはそんな奴と何のために戦うんだ?」

「こういう場合は、防衛ではないですか?」

 どう考えても友好的には見えないから、防衛は当然だが……食料にならないのは気に入らない。


「我に従え……」

 リムレイというオールドゴーストが喋ったと思ったら、従えか。

「こいつ……バカだろう?」

「はい、脳みそないです」

「ツクルさんとカナンの仰ることも分かりますが、可哀そうなので表現を考えてあげてください」

「アリーが優しいのはわかるけど、俺たちの中でいい勝負ができそうなのはアリーだけだぞ? 後は瞬殺されるとも分からない雑魚でバカな奴だぞ」

「そうですが……」

 アリーは優しいね。

 だけど、こういう奴には言っても分からないと思うから、力を見せてやった方がいい場合もあるんだぞ。


「何をごちゃごちゃ言っている……」

「あー、そうだな。答えはNOだ。帰ってお前のボスにそう伝えろ」

 手をひらひらとさせて、早く消えろとジェスチャーする。

「ならば死ぬがよい……」

「あー、アリー。対応よろしく~」

「分かりました」

 アリーが一歩前にでると、リムレイがスーッと空中を移動してきてアリーに纏わりつこうとした。

 纏わりつかれたら【生気吸収II】によって生気を吸われて、先ほどの木のように枯れてしまう。

 アリーがお婆ちゃんになるのはさすがに勘弁だ。まだ新婚なんです!


「控えなさい!」

 アリーがそう発した瞬間、リムレイが吹き飛ばされた。

 あれは【ヴォイスソニックIII】の効果で、リムレイが吹き飛ばされたのだ。

 15mほど吹き飛ばされたリムレイは表情なんて分からないが、その雰囲気から結構動揺しているようだ。

 まぁ、順当にいけばアリーが負けることはないだろう。


「何をした……」

「私たちに構わず帰りなさい。そうすれば、消滅しなくてもすむわ」

 普通の魔物や人間相手なら殺すとか死ぬという表現をするんだろうが、相手がオールドゴーストではすでに死んでいることから、消滅という表現をしたんだろう。

 アリーらしい細かい拘りだ。

 俺やカナンだと、そういうのは関係なくぶちのめすからな。


「ご主人様、今、カナンをディスリませんでした?」

「いや、俺と一緒だと思っていただけだぞ」

「そうなのですか!? ご主人様と一緒なのです!」

 単純な奴だ。

 それはそうと、アリーの忠告を無視したリムレイとアリーの戦いは一方的なものだった。

 アリーの【ヴォイスソニックIII】はリムレイにダメージを与え、アリーは【ヴォイスソニックIII】にさらに【言霊III】と【歌唱III】を上乗せする。


「跪きなさい!」

 すると、リムレイは浮いていた霧状の体を地面につける。

「犬になりなさい!」

「ワン。ワン……」

 一瞬で勝負がつく俺やカナンとの戦いよりも、よっぽどリムレイには惨い仕打ちなのかもしれない……。

「待て!」

 リムレイの動きが止まる。霧状の体の動きも心なしか動きが少ないように見える。


「ツクルさん、逃がしてやってもよろしいですか?」

 え? ここで俺に聞くの?

「えーっと……構わないよ……」

「ありがとうございます」

 いい笑顔のアリーはリムレイに向き直る。

 なんであんなにいい笑顔になれるんだろうか?


「リムレイ。ハウス!」

「ワン」

 何もない空間に溶けてなくなるようにリムレイの姿が消えていく。

 俺はベーゼに視線を向けて、リムレイを尾行するように目で命じる。

 すると、ベーゼは軽く頷いて消えていく。


「さぁ、帰りましょうか」

 アリーは何もなかったかのように振舞う。

 これはこれで、リムレイが哀れになる。

「ご主人様、早く帰ってご飯を食べましょう!」

「ああ、そうだな……」

 俺のこのもやもやとした気持ちはなんだろうか?

 リムレイへの哀れみなのか? それともアリーが意外とSだったことへの驚きなのか?


 もやもやとした気持ちを抱えながら旅館に帰った。

 ハンナ、一ノ瀬、ブラウニーがしっかりと会場を用意していてくれたので、俺は料理に腕を振るうことにした。

 心のもやもやは料理に集中することで忘れよう。


 夕飯は魚づくしである。最近、魚系の日本料理が多いので、今回はフレンチにしてみた。

 キュウリとカニのテリーヌ、魚じゃないけど鴨肉のコンフィ、(さわら)のポワレ、ビシソワーズ(ジャガイモの冷製スープ)、帆立のフルーツソース、デザートにレアチーズケーキだ。


「これはコンソメかな? カニの身が美味しいね」

「はい、ツクルさんの愛情を感じます」

 キュウリとカニのテリーヌは一ノ瀬とアリーに好評だ。

 キュウリとカニのテリーヌはグラスに盛りつけて見た目も美しい仕上がりになっているから、女子受けはいい。


「ご主人様、この鴨肉のコンフィをお代わりください!」

 カナン君や、フレンチにお代わりはないんだぞ。

 だが、そこは俺だ。カナンがお代わりすることは分かっていたのである!

「ほい。お代わりだ」

「ありがとうございます!」

 全部美味しいといってくれるが、カナンはガッツリ系の肉料理にお代わりが集中する。

 相変わらずいい食べっぷりだ。

 料理を作る側にしてみれば、中途半端に食べて残す奴はぶっ飛ばしてやりたい。

 だから、カナンの食いっぷりは見ていて気持ちがいいし、作る側としてとても嬉しい。


「ご主人様、ビシソワーズがとても美味しいです。これがジャガイモだなんてとても思えません」

「ハンナ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。お代わりあるから沢山食べろよ」

「うふふふ、カナンさんのように沢山は食べられません」

「いや、カナンのように食べられたら、作る量が倍になるから勘弁だ」

「はふはひはゆひゅはふひゅは?」

「カナン、口の中の物を飲み込んでから喋れよ」

「ゴクリ。お代わりもっとあるのですか?」

「多分、大丈夫だ……多分……」

「はいなのです!」

 た、足りるかな……?


 

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