212話勇者と入国
「え?勇者がいるんですか?」
レンがアルファードに聞き返す。それは馬車での移動の途中にしていた何気ない会話だ。
「ああ、今リディエル神聖国に来ているらしいぞ。神聖国の学校で学んでるとか」
特に興味はなさそうにアルファードが言う。もう他の話題になりそうだが、レンは話を聞きたくなった。
「勇者って、どんな人か知ってますか?」
人柄によっては関わりたくはないと思わずにはいられないのだ。
「ああ、そうだな……聞いた話だと、正義感が強いやつだとか言ってたか?」
「それは真面目な方なんですね」
アルファードの言葉を聞いてアルキア王子が反応する。
『マスター、もしかして……』
(ああ、下手したら地雷勇者かもしれないよな……)
リディエル神聖国にいるという勇者は、もしかするとラノベなんかでの主人公を邪魔する系の勇者なのではないか?と思ってしまう。
正義感も強すぎても空回りしてしまう。なのでレンは、ただひたすらに面倒ごとに巻き込まれないように願うのだった。
「その神聖国の学校って、聖騎士になるためのものなんですか?」
興味はあるので話だけでも聞いてみようと思う。まあ学校に通おうという気はないが……
「なら私が説明しますよ!レンさんの予想通りですが聖騎士になるために学ぶ人が多いですね。中には、力をつけたら国を出る者もいます」
兜を取り長い髪を流しているカルナールが説明してくれる。鎧を着ていたため今まで気づかなかったが、カルナールは女性なのだ。
「勇者ってのも修行中なのかね〜」
とアルファードが欠伸しながら言っている。本当に興味がないようだ。彼からしたら勇者なんてのはそこまで大した称号ではないのだろうか?
「レンさんもなんなら行ってみますか?学校」
とカルナールが言ってくる。
「俺は、遠慮しておきましょうかね。面白そうですけど他にやらないといけないこともありますから」
このまま行けば学園編でも始まりそうな勢いではあるが王子の警護もあることなのでやめておく。恋人エリアスもいる中での学園編には、特に期待は持てないなと思うのだった。
エリアスやルティア、ミラの騒がしいメンバーとの冒険ではないため寂しさを感じるかもしれないと思っていたが、勉強になることも多く良い経験だとレンは思うのだった。
「もうそろそろ着きますね」
とカルナールが言ったのを聞いて、レンは新しい国に楽しみだという感情を抱いた。王都を出立して1週間以上立っていた。
馬車から外を見てみると、遠くの方に建物が見えた。
「凄い……」
レンの目に映ったのは、辺境フェレンスの壁よりもさらに高い二重の壁に守られるように広がる住居や城などだ。
「立派なもんだろ?」
「はい!」
アルファードの問いかけにレンは答える。まさしく城塞都市と言えるものが見えていた。
真っ白で綺麗な建物が多く、まさしく神聖な国だと感じられる。
レン達は、王国の使者として訪れているため丁寧な対応がなされて都市に入ることが出来た。そしてそのまま城のほうに馬車で向かっていく。
入国の手続きをしたのも全身鎧を着た聖騎士だった。
「スティグマのことですので、すぐに話し合いの場を設けることが出来ていますのでこのまま向かいます」
とアルキア王子も気合を入れている。彼の王子としての役割を果たすべきタイミングだ。
馬車が止まった感覚があり、直後に馬車の扉が開かれる。一同が降りるとそこでは聖騎士達が綺麗に整列してこの国のものであろう敬礼のポーズを取っていた。
「遠くより我が国にようこそおいで下さいました。アルキア王子殿下、そしてお付きの皆様」
と言ったのは、煌びやかな鎧を身に纏った灰色の長い髪の人物だった。
「お出迎え感謝いたします。聖騎士長殿」
とアルキア王子が挨拶を行う。さすがに王族だけあって無駄のない所作だなとレンは思う。
「お疲れの所早速で申し訳ありませんが、聖王様の元にご案内させて頂きます。私に続いてください」
と一度頭を下げてから、聖騎士長と呼ばれた男が後ろを向き歩き始める。それに合わせてレン達もついて行くのだった。
城の中も外と同じように綺麗なものであり、歴史的に価値のありそうな物が多くとても興味をそそられた。
少し歩くと大きい扉があり、聖騎士長が叩くと扉が開かれていった。
中には、かなり体格の良い40歳過ぎくらいの男性と美しい女性がいた。壁の方には聖騎士達が待機している。
「聖王陛下、アルキア王子殿下ご一行をお連れしました」
と言いながら、聖騎士長が横にずれる。
「この度は、我々王国との協議の場を設けていただきありがとうございます。父アルセンティア国王に代わり、アルキア・ファン・アルセンティアが参らせていただきました」
とアルキア王子が挨拶を行う。
「久しぶりだな、アルキアよ。立派に成長しておること、アルセンティア国王もさぞお喜びのことだろう」
と聖王が嬉しそうに話す。
「まだまだ未熟な身ではありますが日々学んでおります」
「うむ、励むと良い。それでは早速だが本題に入ろう。椅子にかけなさい。我々は対等に話さなければならない」
とアルキア王子の前の椅子を指す。
「失礼します」
と言いながらアルキア王子が座る。レン達は当然ながら立っている。
「申し訳ないが、ここで私と聖騎士長、アルキア王子とアルファード殿を除いて退出を願いたい。大事な話もあるため悪いが席を外してくれ」
と聖王が言う。
そのままレン達は部屋を出て別の部屋に案内されることになった。別に敵対国ではないためもしもはないがアルファードもいるため安全と言える。
カルナールは、他の聖騎士達と話をしている多分同僚とかなのだろう。
話を聞けないのは残念ではあるが、仕方がないためどう過ごそうかと思っているとレンのほうに人が向かってくるのを感じた。
「初めまして、私はマルテリア・クラム・リディエルと申します。神女なんて言われてますが、よろしければあなたの名前もお聞かせ願えませんか?」
聖王の部屋に入った時にいた美しい女性だ。レンの同じ歳かそれ以上だと思う。
「初めまして、神女様。レン・オリガミと申します。ただの冒険者です」
と挨拶をする。
「素敵なお名前ですね。あなたにもリディエル神のご加護がありますように!」
と言いながらレンの前で祈る仕草を行う。すると、身体が少し暖かくなった。
『彼女の祈りにはバフ効果もあるようですね』
とナビゲーターさんが説明してくれる。
「ありがとうございます。私などに祈りを下さり光栄です」
とレンは答える。
「いえいえ、それでは失礼します。また後ほど」
と言いながら神女様は、レンから離れていった。あの人がアルキア王子の婚約者なのだなと思いながらレンは、再び1人になったのでどうしようかと考え始める。
「レン・オリガミ……きっと彼が神託による英雄ですね」
微笑みを浮かべながら呟いた神女の言葉は小さく、レンには届かなかった。




