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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第3部 迷宮管理

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3-5 合同調査




 ハーマンに呼び出されて三日後の早朝、私とエリーは迷宮の入口に立っていた。

 普段は市場なみに賑わってるここも、さすがに朝もやが立ち込めるこの時間は静かだ。探索者は基本的に活動開始が遅いから商人たちの姿もない。ちょっと新鮮な感じね。

 そしてそんな時間だから私もエリーもめちゃくちゃ眠い。


「ふわぁ……これはミレイユさんのせいッスよ」エリーがあくびをしながらぼやいた。「集中できるからって、基本的に夜に魔道具作り始めるじゃないッスか」

「しょうがないじゃない。夜中の方がアイデアが湧いて出てくるんだから……って、どうやら他の人も来たみたいよ」


 エリーと話してると、朝もやの向こうに薄っすらと人影が三つ見えてきた。あれ、あの三人は……?


「ミレイユさんもギルド長に呼ばれたのか」

「やっほー、こないだぶりね」

「ガイアスさんにメルディアさん、それとゼナスさんじゃないッスか」


 もやを破って出てきたのは、異変が起きた時に迷宮で会った三人だった。パーティ「シルバー・シールド」の二人と、穴の奥で蟹もどきに襲われてたゼナス。なるほど、迷宮の異変に遭遇した人間にハーマンは声を掛けたみたい。

 だけど他のパーティメンバーがいないわね。


「パーティの他の人たちは一緒じゃないの?」

「アイツらはまだDランクだからさ。ちょーっと今日の調査には厳しいかなって。だからBランクの私たちだけで参加することにしたんだ」

「こっちも同じような理由だ」ゼナスが頭を振った。「俺はもう大丈夫だが、他の奴らはまだ少し時間が必要そうだからな」


 ゼナスのパーティは、仲間が一人亡くなっちゃったからね。妥当な判断かしら。


「あれぇ、僕が一番最後かい?」


 そうこうしてると少し間が抜けた声が響いた。この声は……ひょっとしてハーマン?

 まさかそんな馬鹿な、なんて思いながら振り向いたんだけど、残念ながら予想どおり黒い探索者用のマントを羽織ったギルド長がニコニコしながら頭を掻いていた。

 いやいやいや、アンタさぁ……


「ギルド長直々にわざわざお見送りに来てくれるなんて気が効くじゃない? でももう大丈夫よ。だからさっさと帰りなさい」

「はっはっは。そう邪険にしないでくれよ、ミレイユ。今日一日、僕も一緒に潜るんだからさ」

「本気ですか、ギルド長」

「うん、本気も本気だよ、ガイアス」


 全員が「マジか……」という目で見てるんだけど、ハーマンは気にした様子はない。ギルド長直々にとか、何考えてんのよ。


「だってさ、こういう調査って本来ならAランクのパーティに依頼するもんなんだよ? でもランク的に一番高いのはガイアスとメルディア君のB。頼めるAランクパーティがいないからしょうがないんだけど、体裁上ちょっとそれはまずいんだよ」

「それでAランクのハーマンさんが来たってこと? そりゃ確かに助かるけどさ……」

「だからってギルド長が来ていい理由にはならないでしょう」

「そうだよ、アンタに何かあったらどうすんだ」

「心配してくれてるのは分かるけど、もう限界なんだよ!」


 メルディアを始め口々に苦言を呈されたハーマンだったけど、いよいよ悲鳴にも近い声でガイアスにすがりついた。


「毎日毎日書類と格闘して、お偉いさんに頭下げまくってさ! たまには現場で体を思いっきり動かしたいんだ! 君らの脚は引っ張らないからさ! お願いします!」


 終いにはとうとう頭を地面に擦り付けて懇願し始めた。もはやギルド長の威厳もクソあったもんじゃないわね。

 だけど気持ちは……うん、痛いほど分かる。私だって書類仕事や営業の仕事よりも、プログラム書いてる時の方がよっぽど楽しかったしね。

 痛々しい叫びと醜態に、さすがに私たちはがハーマンに同情せざるを得なかった。


「え、えっと、まぁアタシたちもハーマンさんがいてくれれば心強いし!」

「ここまでギルド長に頼まれちまったら、嫌とは言えねぇよな……」

「……分かりました、ギルド長。その代わり、無茶はしないでくださいね」

「ありがとう、みんな! よし、んじゃさっさと進もう!」


 ガイアスがうなずくと、ハーマンがガバっと顔を上げて破顔した。釘を刺されたのを聞いてないのか、颯爽と先頭を切って迷宮に入っていく。

 その様子に私たちは全員が肩をすくめてハーマンに続いていったのだった。






「どうなってんだ、こりゃ……」


 第三階層から第四階層への階段を降りきったところで、ゼナスがうめいた。だけどそれは彼だけじゃなくって、私たち全員が同じ思いだった。

 私たちの知ってる第四階層は、まるで屋外のような湖畔が広がるエリア。気持ちよさそうな湖の周りには木々が林立していて、モンスターに襲われることを除けばのんびりリラックスできる場所だったはず。

 だけど私たちがいるのは、ゴツゴツとした岩肌が四方を囲む洞窟エリアだった。


「ねぇガイアス。ここって第四階層のはず、だよね?」

「ああ、間違いなくそのはずなんだが……」


 「索敵くん(仮)」の表示階層は確かに「4」。けど見覚えがある地形に、前に記録した第七階層のマップと並べて表示させると――


「一致したッスね……」

「報告書にはこんなこと書いてなかったと思うけど、前の時もこんなことが?」

「いいえ、少なくとも第四階層の段階でここまで明らかな変化は無かったわ」

「だとしたら相当にまずい事態ってことだよねぇ……」


 そうね。またイゴールたちが何かしたのかは不明だけど、静観して大丈夫な状態では無さそうね。

 少し進めば、前方の「索敵くん(仮)」が反応する。それに伴って全員が戦闘態勢に入って待ち構えてたけど、緩やかなカーブの先から出てきたのは。


「オーガだと!?」


 ズシン、と大きな足音を響かせながら、本来なら第十階層にいるはずのモンスターが現れた。手には巨大な棍棒のようなものを持って唸りながらこっちに迫ってくる中、その横の壁がうごめいた。

 壁の一部が裂け、肉感的な塊を押し出す。そして――それから手足が伸びた。


「オーガが……生まれた……?」


 小石をまといながら転がったそれはゆっくりと起き上がると、赤い目を光らせて先に迫ってきてた個体の後ろに続いて私たちへと近づいてくる。モンスターが生まれるところは初めて見たけど、まさかこんな出産みたいな生まれ方するとは想像してなかったわ。


「落ち着こう」ガイアスが盾を構えた。「ミレイユさんとエリーさんが左、俺とメルディア、ゼナスさんが右に当たろう。ギルド長は状況を見ながら援護をお願いします」

「承知した。バックアップは任せてくれ。ただ、無茶はしないように」


 ハーマンの言葉にうなずくと、私たちは左右に分かれてオーガたちへと走っていく。

 身体強化魔法を全員に掛け終わると、私は魔法で巨大な氷塊を作り上げた。


(こいつに構造強化のコードを追加して風魔法で加速。それらを多層構造にして――)

「■■■■ォォォ――!!」

「お前の相手は私ッスよ!」


 重なっていく魔法陣に脅威を覚えたのか、オーガが私目掛けて走り出してくる。けどその前にエリーが立ち塞がってくれた。振り回された棍棒をひらりと避け、懐に潜り込んで魔法をまとった拳を硬い脇腹にめり込ませると、オーガから悲鳴が上がった。


「はあぁぁっ!」


 怒りに震えながら振り回される棍棒の軌道を見切って正面に回り込むと、もう一方の拳も振り抜く。たまらずオーガが後退したところで、私は叫んだ。


「エリー!」

「ほいさぁっ!」


 エリーが横にズレると同時に、魔法を解放した。

 鋭く先端の尖った氷塊がオーガの腹に突き刺さる。その上に連続して巨大な氷塊がぶち当たってハンマーで叩くように氷塊が深くめり込んでいった。


「■■、■■――……」


 オーガの力ない悲鳴が上がった。磔刑みたいに両手を左右に広げてゆっくり倒れ、紫に近い血が地面に広がっていく。

 ふぅ。このレベルの相手にも私の魔法はまだ通じるみたい。その事実に安心しつつ、エリーとハイタッチしてもう一方に視線を送ると、メルディアたちの戦いも佳境に差し掛かってるみたいだった。






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