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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第3部 迷宮管理

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3-4 ギルド長




 フリオから召喚状を受け取った翌日、私とエリーは探索者ギルドへと向かった。


「お待ちしてました、ミレイユさん、エリーさん。どうぞこちらへ」


 召喚状をカタリナさんに見せると、いつもどおりたおやかな笑みですぐに三階に案内された。彼女の後ろに付き従って私たちも階段を昇る。


「ミレイユさんはギルド長と会ったことあるんスか?」

「もちろん」


 グランディス・ソード時代はちょくちょくギルド長の指名依頼も受けてたからね。細かい調整は全部私に押し付けられてたし。


「どんな人なんスか? やっぱ強面なんスか? 筋肉ムキムキのマッチョなんスか?」

「なんでそんな急に目をキラキラさせてるのよ……ハーマンは近接戦闘もできるけど、魔法がメインよ。だから体つきは至って普通のおっさんね」


 そう教えてあげると露骨に目から輝きが失われた。そんなにムキムキが好きなの?


「後はなんというか……苦労人と言うべきかしらね?」

「下積みが長かったって事スか?」

「それもあるけど、面倒事を背負いたがるというか、寄ってくるというか……まぁ、彼と絡んでると追々分かってくるわ」


 そんな会話を交わしているとギルド長室に到着した。カタリナさんがノックをすると、中から「入ってくれ」ってハーマンの声がしてカタリナさんが扉を開けた。

 その途端、中から冷たい風が一気に吹き付けてきた。


「な、なんスか、この陽気な季節にこの冷気は……?」


 エリーが寒さにガタガタ体を震わせた。これは……ハーマン、言いつけを破ったわね?

 中に入れば部屋はキンキンで、室内だってのに吐いた息が白い。

 奥の机では、私が作った魔道具――冷却タバコをくわえた無精髭のハーマンが、目をバキバキに血走らせて書類の山と格闘していた。


「ちょいと待っててくれ」


 ハーマンは私たちをチラッと見てそう言いつつ、ペンを動き続ける。

 そんな彼の言葉を無視して近づき、冷却タバコを口から取り上げると恨めしそうな目で見られた。そんな目で見たってダメよ?


「頼む、返してくれ! それが無いともう耐えられないんだ!」

「だーめ。連続使用は禁止って渡す時に言ったでしょ?」


 しかもアンタ、こんだけ部屋が冷え切ってるってことは、連続してるの一回や二回じゃないでしょ? 明らかに依存してるじゃない。


「これ以上無茶な使い方するなら、交換用カートリッジ渡さないわよ」

「それだけは勘弁してくれ。それが無いと眠気でぼーっとして仕事が進まないんだ」

「ならさっさと休みなさいよ」

「それが出来たら苦労しないよ……」


 言いながらハーマンが書類の上に倒れ込んだ。散らばった書類を拾い上げてやりながら確認すれば、ギルド長会議の報告資料に王国政府からの要望書、商人からの依頼書に探索者同士の諍いの報告書とまあ、内容も多種多様だ。そりゃ万年過重労働になるわよね。


「あー、なんで僕、ギルド長なんて引き受けちゃったんだろう……」

「アンタは断るの苦手なくせに、自分から巻き込まれに行くからじゃない」


 突っ伏したまま虚ろな目でぼやいたハーマンに、私はため息で応えた。

 エリーに教えたとおり、ハーマンはいわゆる「苦労性」なタイプだ。前任のギルド長が忙しいのを見かねて手伝ったらそのまま仕事を押し付けられて、なし崩し的に新たなギルド長に担ぎ上げられたらしいわ。半分は自業自得だけど……私も人のこと言えないのよね。グランディス・ソード時代は似たような状況だったし。


「はぁ……しょうがないわね」


 使いすぎて劣化しちゃった物の代わりに、新しい冷却タバコを渡してあげると、ガバっと体を起こして顔をほころばせた。


「ありがとう、ミレイユ! 愛してる!」

「はいはい。調子の良いこと言ってないで、紹介状なんて大層なものを発行してまで私たちを呼んだ理由をさっさと教えてほしいんだけど?」

「仕方ないだろ。君はそうでもしないとここに来てくれないじゃないか」


 机の正面にある来客用のソファに私たちが座ると、冷却タバコをくわえたハーマンが私たちに向かい合う形で座る。口からは相変わらず白い冷気を吐き出し続けてたけど、エリーが寒そうにしているのに気づいて、名残惜しそうにテーブルの上に置いた。


「二人に来てもらったのは他でもない。迷宮の合同調査に参加してもらいたいんだ」

「合同調査、スか?」

「そう。先日君らが報告してくれた迷宮の異変。にわかには信じられないけど、君らが嘘を言うとも思えない。探索者たちの安全にも直結する話でもあるし、探索者ギルドとしてはさすがに注意喚起だけで終わらせるわけにはいかないだろ?」


 そりゃあ、ね。あの蟹もどきみたいなのがわんさか出てきたり、地面が崩れるみたいな変化したら大変なことになるし。


「ようやく各所への調整に目処がついてね。実施は三日後。複数パーティから選抜した計六人の臨時パーティで潜る。君ら二人は実力も申し分ないし、現場で当時のことを改めて説明してくれると助かるんだけど」

「それは別に構わないんだけど……」


 むしろ、落ち着いて素材のサンプル回収ができるんであれば研究材料も増えるし、ウェルカムだわ。ただ、一つ確認しておきたいの。


「合同調査って言ったわよね? つまり他パーティの人と共同で潜るってことだけど――」

「安心してくれ。グランディス・ソードには声を掛けてないから」


 なら良かったわ。ジャンナはともかく、クーザリアスやダレスと一緒に潜って平静でいられるか自信がないもの。そういえば最近、アイツらどうしてるのかしらね?


「気になるかい?」

「ならないって言えば嘘になるわね」

「そうか。まぁ僕から言えることはあんまり無いんだけどね。残念ながらこのままだと、彼らはB級へと降格することになりそうだ」

「へえ、そうなの?」

「ここのところずっと依頼が完遂できてなくてね。個々の戦闘能力はあるんだが、それを活かせてない。普通なら昇格していく中で、自分の実力を発揮できるよう状況に応じた術を学んでいくもんなんだが……彼らはそうじゃなかったみたいだ」


 でしょうね。三人とも戦闘にしか興味がないもの。


「君が抜ける前後で大きく達成状況が変わったことから考えても、その役割を君が果たしてたんだろう? だからこそ彼らはA級探索者でいられて、そして愚かにも彼らは君を手放してしまった」


 何よ急に。面映ゆくなるじゃない。ま、ハーマンに褒められるのは素直に嬉しいけど。できればあんなことになる前に、クーザリアスたちに私の価値を認めてほしかったと思わないでもないけど、今言っても栓のない話かしら。

 そんな風に思いを馳せていると、徐ろにハーマンが頭を下げてきた。ちょっと、いきなりどうしたの?


「今さらだけど謝罪させて欲しい。彼らを増長させたのも、君を守れなかったのも僕らの責任だ。本当に申し訳なかった……」


 声からもハーマンが心から悔いているのが伝わってきて、私は頭を振った。


「ハーマンのせいじゃないし……それに、もう過ぎてしまったことよ。でも、謝罪は受け入れさせてもらうわ。ありがとう」


 探索者は基本自己責任。増長して間違った方向に成長してしまったのも彼らの責任、そしてそれを受け入れてしまった私の責任でもある。

 ただ、ギルド長であるハーマンが私を案じてくれた。そのことでまた少し救われた気持ちがした。


「とにかく話は分かったわ。他ならぬハーマンのお願いだし、迷宮の異変は魔道具作りを生業にした私にとっても他人事じゃないもの。協力させてもらうわ。エリーはどう?」

「私も特に異論はないッスよ。こっちも異変には興味があるッスから」


 エリーの場合は、まさに自分の使命に直結するかもしれないものね。今回の調査でまた何か分かればいいけど。

 っと、そうそう。


「イゴール――私が報告した男については調べてみた?」

「ああ、そっちについても調べてみた。黒いフード付きのローブで顔を隠した人間がここ一ヶ月、北第三通りと西第五通りの魔道具点で探索用の魔道具を買い漁ってるって目撃情報が得られた。それと大量の食料も」

「そうなの?」

「背の高さや声から判断するに、どうやらそれぞれ違う人間みたいだ。しかも信用取引で決済してる。記録も見せてもらったから間違いないと思う」


 それって、つまり。私の想像を、ハーマンはうなずいて肯定した。


「そうだ。相手はそれなりに組織だって存在みたいだ。確信はないけれどね。だから、というわけでも無いけど、合同調査の際は十分に気をつけて欲しい。ちょうどそのタイミングで向こうが何かしでかす可能性もゼロではないからね」


 そうね。油断するつもりはないけど、いつも以上に注意することにするわ。

 さて、そうとなれば帰って色々と準備しないと。話は終わったみたいだし、ハーマンも忙しいだろうからさっさと退散しましょ。

 席を立ってエリーと一緒に部屋を出ようとする。と、ハーマンが私を呼んだ。振り返れば、真剣な面持ちで私を見つめていた。


「少なくとも僕は君の味方だ。だからこれからは、困ったことがあったら遠慮なく相談してくれ」


 ああ――ここにも私の事を心配してくれてた人がいたのね。

 過去の自分への疼痛と、嬉しさによる温もりが胸の中で交差した。


「……ありがと」


 表現が難しいその思いを、短い感謝の言葉で返して私はハーマンの部屋を後にした。





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