3-2 技術の価値
まったく、来て早々に騒がしいわね。ま、気持ちは分からないでもないけど、仮にもギルド長なんだから怒るにしてももうちょっと品性がある怒り方をして欲しいものよ。
「あら、これはこれはジャンパルド様。そんなに慌ててどうなされました?」
「どうなされた、ではないわっ!」
営業スマイルで応じたんだけど、ジャンパルドは顔を真赤にさせて短い前足……失礼、手をカウンターに叩きつけた。おお、怖い怖い。ほら、外に何事かって人が集まってきてるじゃない。
「貴様が我輩に渡した設計書! あの指示通りに作成した魔道具に大量のクレームが来ておる! どうしてくれる!!」
「はあ、クレームですか。どのようなクレームが?」
とぼけた顔をして尋ねてみたんだけど……予想してた以上にひどい出来だった。
コンロは火力の制御ができないしおまけにすぐに壊れる。浮遊照明はって言うと、魔力を注いだ瞬間に爆発四散するといった有り様。しかもそれが一件や二件じゃなくて大量に来てるっていうんだからもう呆れるしかない。
(一応は曲がりなりにも製品の形はできたってことなんでしょうけど……)
私が敢えてぼかしてた付与する魔法のところは一体どうやって解決しようとしたのかしら? たぶんだけど、ジャンパルドが業を煮やして考えられる適当な魔法陣を刻ませただけな気がする。
「探索者ギルドや王国政府からもクレームが届いておるのだ! おかげで大損であるうえに我輩の面子は丸潰れで、受注済み案件の白紙撤回までほのめかされてしまっているのだ! 責任を取れ!!」
「あらあら、それはおかしいわね。私や私が委託した工房の製品だと、そんなクレームは届いていないのだけれど?」
まさか安全性の検証もせずに販売したってことはありませんわよね?
そう尋ねるとジャンパルドの目が泳いだ。はぁ……ホント、呆れた話ね。あんまりにも無責任過ぎやしないかしら?
「と、ともかくだ! 貴様の渡した仕様書がデタラメだったせいでこのような事態になったのである! 今すぐに何とかするのだ!」
「要望はお渡しした仕様書では不足してた情報ということで良いのかしら? でしたら、契約書どおりの報酬を払って頂かないといけませんわ」
「なっ……!?」
「おや、お支払い頂けないんですの? であればお引き取りくださいませ。店の扉は開いてますわ」
たおやかに微笑んで見せながら、開きっぱなしの扉を指さしてやる。
ジャンパルドは真っ赤な顔で私を目一杯にらみつけて唸りながらも「いくらだ……?」と尋ねてきた。なので、先日交わした契約書を差し出す。
だけど当然ながら。
「貴様、我輩を舐めてるのか! 法外にも程がある! こんな金額、払えるわけがないだろうがッ!」
とほざきながら太い前足でカウンターを叩いた。まったく、予想はしてたけど帰った後でも契約書をちゃんと読んでなかったのね。ギルド長だってぇのに呆れたものだわ。
「法外、とおっしゃいますけれど」これみよがしにため息をついてみせる。「私の技術はそれなりに革新的だと自負してますの。それをあんなはした金で自分の物にしようなんてそれこそ技術に対する冒涜」
私は好きで魔法や魔道具の研究をやってる。新しい技術を作るために悩み、試行錯誤を繰り返すのも楽しんでるから苦でもなんでもない。だけどそれだって一朝一夕に出来上がるものじゃないんだから。
「技術とは、数多の人が積み上げてきた巨人の肩の上に、さらに時間とエネルギーと情熱を捧げて作り出したもの。安売りする道理なんてありませんわ」
「ふん、たかがこんな店の魔道具師ごときが……」
「その魔道具師ごときの技術を再現できなくて困っているのではなくて?」
そう言い返してやると、ジャンパルドが歯ぎしりした。でもギチギチと金歯を軋ませるだけで何も反論してこない。それはそれで良いんだけどさ。
「それで、金を払うの、払わないの、どっち?」
「く……! この、こんなもの……!」
「あら」
「ギルド長!? お止めくださ――」
ため息混じりに煽ってやったら、何を思ったかジャンパルドが契約書をつかみ上げた。そして護衛の人が止めるのも聞かずに一息に破り捨てる。
散り散りに舞っていく紙切れを鼻息荒く見下ろしながら満足気に口元を歪めてるけど、あーあ、そんなことしたらさぁ。
「ぐ、が、あぁ……!」
散らばった紙切れが光ってジャンパルドの胸に魔法陣が浮かび上がる。かと思うと突然胸を押さえてうめきながらその場に崩れ落ちた。ほら、言わんこっちゃない。
「魔法契約なのに、そんなマネするから」
「ふひ、ひ、ひぃ……」
「でも良かったわね。貴方が破いたのが、私のコピーで。本物の契約書だったら今頃――心臓が引き裂かれて死んでたわよ」
衝動的な行動だったんでしょうけど、魔法契約を甘く見てるからこうなるのよ。
それにしても、本当にお金払いたくないのね。あんだけ馬車やらアクセサリやらに金掛けてるんだから払えない額でもないでしょうに。
つくづく呆れること。まったく……
「ねぇ、ギルド長様?」
カウンターを出て、跪いてるジャンパルドに歩み寄る。私が彼を痛めつけるとでも勘違いしたのか、護衛の人たちが隠してたナイフに手を伸ばしたけれど。
「――動かない方がいいッスよ」
いつの間にかエリーが彼らの後ろに回り込んで、両手を魔法で光らせて黙らせてくれた。
彼女にウインクで感謝を伝え、私もひざまずいて未だ苦しげにうめいてるジャンパルドの顎を義手でつかみ上げた。
「貴方、簡単な魔道具を一つでも自分の力で作った事あるかしら?」
「ふ、ん……あんな物を作ることなど……我輩の仕事ではないわ……!」
「でしょうね。魔道具ギルド長って立場であっても、貴方がやってることは技術者じゃなくて商売人の真似事に過ぎないもの」
とはいえ、私はそれでも良いと思ってる。魔道具だって商売とは切り離せないものだから。
でもね。顔を寄せ、ジャンパルドに問うた。
「ジャンパルド魔道具ギルド長。教えてちょうだい。貴方が買い取ろうとしてる私の魔道具。どこが凄い?」
「そ、れは……」
「答えられない? でしょうね。だからこそ平気で工房や魔道具屋を潰そうとできるんでしょうし」
良い商人は取り扱う商品のことをよく知ってる。だって知らなきゃお客にアピールできないもの。そして、商品を知ってるからこそ、その凄さを理解してる。理解してるから作った人間に敬意を払う。敬意を払っていれば、粗雑に扱うなんてできやしない。そしてコイツにはその敬意が無い。
そんな野郎に私が掛けれる言葉なんて殆ど無い。あるとすれば。
「もう会うこともないでしょうし、餞別に一言だけ貴方に送ってあげるわ――モノ作りの一つもやったことがないボンボンが、技術者の前で粋がってんじゃないよ」
そう吐き捨てて身体強化の魔法を実行し、ジャンパルドの体を思いっきり店の外へと放り投げてやる。そして彼のまんまるな体が馬車の窓に突き刺さったのを見届け、私は中指を立ててやった。
「おととい来やがれ、ですわ」
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