2-14 襲撃
「俺たちはただ、いつもどおりこの階層でモンスターを狩ってただけだったんだ」
モンスター部屋から助け出した男の人はゼナスと名乗った。穴から脱出後、少し休憩して彼に回復魔法を掛けつつ私たちは穴を見つけた状況について尋ねた。
彼も半ば放心状態だったけど、それでも傷が癒えるに伴って少し余裕が出てきたのか、顔を伏せたままとつとつと語り始めてくれた。
「そしたらさっきの穴を見つけたんだ。みんな興奮したよ。未発見のエリアを見つけたと思ったし、上等な魔力石が中でゴロゴロ転がってたからよ。懐が寂しかったこともあって、俺らは魔力石集めに飛びついた。そしたら突然アイツらが現れて……」
彼は大袋に詰められた、仲間の遺体を一瞥した。そして下唇を噛み締め、嗚咽を漏らした。
「どうしてこんなことに……ちくしょう……」
力なく地面を殴る。生き残った他の仲間の人たちも同じく沈痛な表情だった。慰めてあげたいところだけど正直、言葉がない。
「……とりあえず一旦地上に戻るッスかね。いつまでも狭い袋の中じゃ可哀想ッス」
「ああ、そうするよ」彼は目元を拭って立ち上がった。「お二人さんにも感謝するよ。それと巻き込んでしまってすまなかった」
「いいのよ。貴方たちは運が無かった。ただそれだけ。自分を責める必要は無いわ」
慰めつつ促すと、彼らも重そうに脚を動かし始めた。
「なんて言うか……たまんないッスね。こういうの。何回経験しても慣れないッス」
彼らの前を歩きながら漏らしたエリーのつぶやきに小さくうなずく。
日本だとこうして誰かの死に居合わせることはほとんど無かった。でも迷宮に潜ってる限りは珍しくない。グランディス・ソード時代にも何度か経験したけど、犠牲になるのはたいていが真面目で善良な探索者。ホント、いたたまれないわ。
重苦しい雰囲気で地上へ向かう。だけど、程なく突然手元で「ピー」と音が鳴った。
「モンスターッスか!?」
「索敵くん(仮)」からの通知に戦闘態勢に入る。四方に注意を払い、けれどモンスターの姿はいつまで経ってもやってこない。
「誤報ッスか?」
「そんなことは無いと思うけど」
「索敵くん(仮)」を呼び戻して抱え上げ、モニターの表示を見る。原理としては現代のレーダーとほぼ同じなそれは、確かに何かの存在を感知したことを示していた。
緩やかにカーブを描いている道に隠れる場所はない。表示されている十時の方向に目を凝らしても迷宮の壁があるだけだ。
それでも私は、何かの存在を確信していた。魔法の類じゃ視覚情報や魔力情報は阻害できても、物理的な反射までは阻害できないはず。ってことは、だ。
(そう、出てくる気はないってことね)
ならいいわ。みんなに私の後方に少し離れるよう告げて小さくつぶやく。
コンソールが開き、風魔法の壁を展開。そのうえで――無人の何かがいる場所へ魔法をぶちかましてやった。炎の矢が次々と地面に刺さり、爆発。爆風で押し寄せる煙が風の壁に沿って立ち昇る中、やがて薄っすらと人の影が現れた。
「あら、ごめんなさい。コソコソと隠れてるからモンスターかと思っちゃったわ」
「これでも隠れることには自信があったのだがね」
私の皮肉にも応じることなく、淡々とした口調で男が喋る。黒いローブを頭まで被っているせいで顔は見えない。けれど、顔には何か赤黒い仮面のようなものをつけていることは分かる。
(おまけに)
一見普通のローブに見えるけど、あれは相当な魔道具だ。コンソール画面に表示された術式コードをパッと見ただけでも、魔法防御や認識阻害など複数の魔法陣が刻まれてることが分かる。
しかし……どうもこの声と淡々とした抑揚の無い口調、聞き覚えがあるのよね。
「隠れて待ってたのは、私たちを後ろから襲うためかしら?」
「いや、私はただ観察していただけだ」
「観察? 私たちを?」
「ある意味不正解で、ある意味正解と言える。だが――『実験』から生き延びてしまった以上、事情が変わった」
淡々とした口調のまま、けれど男の纏う空気が変わっていく。
口元が高速で動く。そして次の瞬間、いくつもの魔法陣が彼の前に浮かび上がった。
「高速詠唱だとっ!?」
ゼナスたちから驚きの声が上がった。無理もない。
高速詠唱は通常の五分の一まで詠唱を圧縮する高度な技術だ。魔法に対する造詣が相当に深くなければできない代物で、それをあんな一瞬で複数の魔法に適用できる魔法使いなんて、それこそA級探索者くらいかしら。
つまりコイツは――相当にやばい敵ってことね。緊張で、背中に汗がにじんだ。
「君らには死んでもらわねばならない」
彼は短くそう言い放ち、私たちへと魔法を放った。
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