表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第2部 新生活と迷宮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/52

2-9 交渉



コホン、と軽く咳払いをすると、私は余所行きの微笑みをジャンパルドに向けた。


「貴方の申し出、受けてもいいわ。ただし、条件をつけさせてもらうわよ」

「ほう? 条件をつける、だと?」

「ええ。たいした話じゃないわ。それに、そちらにとっても悪い話じゃないわよ?」


 そう言いながら、手頃な用紙を取ってサラサラと条件を記載していく。


「製造・販売権の代わりに私から基本設計仕様書を譲ることにしましょう。ただ単に私が指定した方法で製作するより、設計仕様まで把握して製造する方が良いでしょう? アレンジも可能になるし」

「ふむ、確かにな……」

「当然、そっちで製造した製品の売上に対する報酬は要らないわ。好きに作って好きに利益を上げてちょうだい。私は一切関与しないし、名前も出さなくていいわ。他には……」


 説明していくにつれて阿呆の目がモノクルの奥で輝いた。そして手を口元に当ててブツブツと呟くと、ニヤリと脂肪たっぷりの顎を歪めた。

 

(設計書さえ手に入れば、息のかかった工房に一斉に声を掛けて大量生産させる。そうすれば、安値で販売して今の市場を独占できる。その後で値上げすれば……グヒヒ)


 ――とか思ってるんでしょうね。ふふふ、うまくいくといいわね。


「ただ、もし製造の過程で何かしら私の手助けが必要になったら声を掛けてくれて構わないわ」

「ほう、そこまでやってくれるのかね」

「中途半端は嫌いなの。アフターサービスまでキッチリやるのが私の流儀よ。それに」

「それに?」

「偉い魔道具ギルド長様にこれ以上にらまれたくないもの。媚は――」微笑みながらジャンパルドの手を覆う。「売れる時に売らなきゃ。もちろん報酬はもらうけど」

「ふ、ふふふ、ふはははははははっ! ようやく気づいたかね! よろしい、君の条件を飲もうではないか!」


 まいどありー! 心の中でそう叫ぶと、笑みを崩さないまま畳み掛ける。


「ならこのまま契約を結んでしまいましょう。最初にご提示頂いた額の現金はお持ちかしら?」

「もちろんだとも。そのつもりでここに来たのだからな」


ジャンパルドが護衛に目配せした。すると、金貨の入った大袋を護衛の人がドンと重量感のある音を立ててカウンターに置く。けれどまだ手元からは離さず、ジトッと私の方を警戒するようににらんだ。そんな怖い顔しなくても、奪い取ったりはしないわよ。


「オーケー。なら契約成立ね。契約方式は魔法契約で良いかしら?」


 デブの阿呆は鼻の下を若干伸ばしたままうなずいた。対照的に、エリーの顔に緊張が走った。

 魔法契約は厳格な契約に使われる契約方式のことだ。破れば魔法によって胸が締め付けられ最悪死ぬし、財産も即座に商業ギルドに没収される。けど、逆に言えば契約を遵守する限りノーリスク。だからそれなりの金額が動く場合はよく使われる方式だ。


「じゃあまずは私から」

「待て」


護衛の男が私を止めた。一瞬、静寂が走ってドキリと私の心臓が跳ねた。でもどうやら手を拭く布を準備したかっただけみたい。ふぅ、脅かさないでよ。

 気を取り直して軽く指先を傷つけ、血がにじむ。どうかバレませんように、と心臓の鼓動を抑えながら自分のサインを擦る。誰かの固唾を呑む音が聞こえた。けどジャンパルドは何の疑問も持たずに、同じように名前を血でなぞった。

 緊張が解けて小さく息を漏らす。これで一安心。だけど……契約書の内容もちゃんと読まず契約結んじゃうなんて、コイツもこれでよくギルド長になれたわね。自分が騙して金儲けすることばっかりで、まさか自分が騙されるとか思いもしてないんでしょうけど。


「じゃ正式契約成立ってことで――はい、これどうぞ」


 紙が淡く光って契約を成立したことを示したところで、下の工房から持ってきた紙の山をドン、とカウンターに置いた。あら、そんなに顔を引き攣らせてどうしたの?


「こ、これはなんだね……?」

「何って、基本設計仕様書よ?」


 コンロや浮遊照明なんて小さな魔道具でも、真面目に書いていくとこれくらいになっちゃうのよね。まぁ私が事細かく記録に残し過ぎるってのもあるんだけど。


「はい、持って帰ってどうぞ。それとも、この場で確認してく?」

「い、いや、結構だ。わ、私は忙しいからな! おい、お前! 馬車にコイツを運び込め! 一枚たりとも無くすなよ!」


 護衛に命令して紙束を馬車に運び込むと、ジャンパルドは金貨の大袋を私に向かって押した。中を確認すると、確かにぎっしりと金貨が詰まってた。良かった、いきなり契約違反で死ぬような自殺願望はないみたい。


「確かに頂いたわ」

「はっはっは! こっちこそ良い商いをさせてもらったよ」


 ニンマリとした、いかにもあくどい笑顔。それに私もたおやかな微笑みで返す。

 そうして去っていく金ピカの馬車を、エリーと並んで見送った。あー、良かった。これで当分は平和。魔道具や魔法書を買い漁るお金もできたし、ハッピーエンドね。

 と、まあホクホク顔の私とは裏腹に、エリーは終始不満そうにジャンパルドの馬車をにらみ続けてた。あら、どうしたの?


「どうしたの、じゃないッスよ! ミレイユさんは悔しくないんスか!? あの太っちょに言いなりの契約させられて!」

「別に? むしろとってもいい契約だったわ」


 満面の笑みを崩さない私に、エリーが「へ?」と間の抜けた顔をした。

 しょうがない、種明かしをしてあげましょ。


「私が渡したのはね、『基本』設計仕様書なの」

「はぁ……? ミレイユさんの技術を安く売り渡したことには変わりないんじゃないスか?」

「全然違うわ。つまり――」

「お嬢様は、いわゆる『肝』となる技術については一切渡しておられない、ということですね?」

「うわっ、ユフィさん!?」


 え? うわ、ホントだ! びっくりした!?


「いつからいたんスか?」

「実はずっと階段下でこっそりと話は伺っていたんです」


 ちょっと恥ずかしそうにユフィが話す。ああ、契約の時に感じた気配ってこの子だったのね 。ひょっとしてこの子、斥候役としての才能があったりしないかしら?

 それはともかく。


「ユフィの言うとおり、あの大量の紙束に書かれているのは、私が改良した探索者向け魔道具のあくまでベースの部分だけなのよ」


 多少設計し直したところもあるけど、基本は既存のものと殆ど変わらないの。

 もちろん軽量化や強度を増すために追加した魔法のことは記載してる。

 だけど。


「それを『どこに』『どんな魔法を』『どうやって』組み込むかとか、重要な情報は一切書いてないわ」


 その魔法だって私が改良をくわえた半オリジナル。だからどんな魔法使いもそこに辿り着くのはほぼ無理なのよね。


「しかも、魔法石の交換カートリッジの機構とかも書いてないし。良くて私の作ったやつの劣化版しかできないんじゃない?」

「あ! だから――」

「そ。追加情報には報酬が必要って明記させたわけ」


 しかも追加情報の受け渡しには莫大な額を記載しておいた。魔法契約のおかげで報酬を踏み倒せないし、技術を安く買い叩こうなんて考える輩が追加報酬を払うはずもない。

 とまあ訳知り顔で説明したけど、実はSE時代にやられちゃったのよね。営業の真似事させられた時に大損しかけて、それ以来、契約についてはたくさん勉強したの。

 ま、そういうわけで。


「そのうち、安全性もかけらもない不良品ばっかりが大量に出回って、大騒ぎになるんじゃないかしら?」

「そうなると逆に、お嬢様印の製品の価値が上がって大儲け、ということですね」

「そゆことー」

「だからそんなにニマニマしてるってわけッスか……」

「やーねー。ニマニマしてるなんて、そんな他人の不幸を喜ぶようなこと、するわけないじゃない」

「どの顔でンなこと言ってんスか」

「この顔よ」


 緩んだ口元を指差すと、エリーからため息を吐かれた。


「ホンット、ミレイユさんって悪魔ッスねぇ……」


 そりゃね。単なる善人じゃ食い物にされるだけだし。なにより。


「大好きな魔道具を、粗雑に扱うやつは嫌いなのよ」


 そう言って私は悪魔らしく口元を歪めてみせたのだった。




お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

リアクションだけでもぜひ!

どうぞ宜しくお願い致します<(_ _)>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「逆転生・ざまあ」逆張りもまた面白いです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ