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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第2部 新生活と迷宮

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2-8 迷惑な客





男はジットリとした視線で店内を見回した。

 高級そうなタキシード姿だけど、でっぷりと飛び出た腹のせいでベルトが悲鳴を上げてそう。鷲鼻の上には金ピカ縁のモノクル、口にはぶっとい葉巻で、いかにも成金って格好ね。後ろは護衛かしら、屈強で強面な男が二人でおっさんを挟む形で控えてた。


「ふん、ここが噂の魔道具屋か。さえない店だな」


そして入ってくるなりこの評価である。随分と失礼な評価に、隣にやってきたエリーもムッとした顔をした。

 そりゃボロ家を改装した店だからね。分かっちゃいるけど、それにしたって失礼にも程があるわよ。逆にアンタはたいそうご立派なセンスをしてることで。


「さえない店にようこそ。商品なら勝手に見ていってちょうだい。さえない商品しかないでしょうけど」

「ふん、商品など見る必要はない。私は貴様に用があってわざわざ足を運んでやったのだからな」

「私に?」


 いちいち物言いが偉そうだけど、まあいいわ。この手の輩に真面目に付き合ってても疲れるだけだし。クーザリアスみたいにね。

 おっさんが「おい」と呼ぶと、護衛の人が何処からとも無くこの店に不釣り合いな椅子を持ってきて、それにドスンと重そうな音と一緒に座ってふんぞり返った。


「そうだ。我輩はジャンパルド・ガンビーノ。王が住まうこの王都の魔道具ギルド長をしておる」


 彼の名乗りを聞いて、こないだのフリオの話を思い出した。ああ、そう、コイツが「あの」魔道具ギルドの長なの。ホント、噂どおりなのね。


「そ。私はミレイユ。この店の店主をしてるわ。それで、そのお偉いギルド長様がこんな辺鄙な店に何のご用かしら?」

「我輩は忙しいからな。単刀直入に言おう。

 貴様が最近販売している探索者向けの魔道具があるな?」

「ええ。おかげさまで、店を維持できるくらいには売れてるわね」

「あれの権利を買い取りたい。製造から販売まで、すべてだ」

「っ、それは……」


 隣のエリーが困惑顔で私を見てくる。

 なるほど、そう言うこと。つまりは、私の作った魔道具がいわゆる「金のなる木」だと判断したわけか。成金趣味な格好してるだけあって、金の匂いには敏感ってわけね。


「もちろんタダとは言わん。この値段でどうだ?」


 こちらを見下しながら葉巻の煙を吐き出して手を上げると、護衛の一人が私の前に紙を一枚差し出した。それくらい自分で渡しなさいよ。

 心の中でツッコみつつ紙を確認すると、そこにはどうやら権利を買い取る対価が書かれているらしかった。それを見て思わず私の眉間にシワが寄り、エリーが不安そうに私を覗き込んだ。


「えーっとぉ……この額ってどうなんスか?」

「そうね、一言で言うなら――一昨日来やがれってとこかしら?」


 ぞんざいに私は紙をカウンターに放りだした。

 書かれていた額だけ見ればそれなり。だけど権利を一切合切買い取るにしては「ふざけてんの?」って言いたくなるくらいの安さだ。目先の金に困ってるなら応じてもいいでしょうけど、あいにく困ってないの。自分の技術を安売りなんてするつもりないのよ、私は。


「ハッキリ言って検討にも値しないわね」

「ほう? いいのかね? そんなことを言って」

「何が言いたいのかしら? まどろっこしい言い回しは結構よ」

「なに、つい先日の話だ。貴様は我がギルドに所属してない『モグリ』のようだが、同じような魔道具店が一つ、物が売れずに潰れたのだ。何故だろうな?」


 ジャンパルドがモノクルを光らせた。


「おっさん! まさかアンタ、圧力を掛けて店を潰したんスかっ!」

「口を慎み給え。そのようなこと、我輩は一言も言っておらんよ? だがまぁ、そうだな……もしかすると魔道具制作に必要な素材を、どの店も売ってもらえぬようにはなるかもしれぬなぁ?」

「脅すつもりッスか……!」

「おや、そう聞こえたかね?」


 そう、そう来るの。エリーの顔が強張り、護衛がカウンターに置いてあった素材をこれみよがしに手にとってみせた。


「それは困るわね」

「だろう? 私としても才能ある魔道具師がそのような事態に陥るような損失は、極めて避けたいところなのだ」

「お気遣いに感謝するわ。ありがたすぎて反吐が出そうよ」


 皮肉を吐き捨てた私に、デブはニンマリと勝ち誇った笑みを浮かべた。

 隣ではエリーが青筋を浮かべて、今にもつかみかからんばかり。気持ちは分かる。私もこいつの鼻っ柱にキセルの中身を押し付けてやりたいくらいだもの。

 だけどそれは今じゃないわ。私はスッと手を上げて彼女を制止した。


「止めないでください、ミレイユさん。大丈夫ッス。こういう輩は一発ぶん殴ってやれば大人しくなるッス」

「大丈夫じゃないっての。ちっとは落ち着きなさい」


 まったく、この子は。ヒーロー願望と正義感が強いのは良いことだけど、短絡的なのよね。

 私も深くキセルを吸い込んで煙を吐き出し、冷静に考えを巡らす。

 魔道具ギルドの長たるこのおっさんに嫌がらせされるのは確かに面倒だ。今みたいに気軽に端材を売ってもらえなくなるだろうし、売上にも影響は出るかもしれない。

 だけど。


(商品の殆どは行商人で商業ギルド所属のフリオ経由で売ってるから、他の街で売れば問題ないのよね……素材も今までどおり自分で取ってくればいいし、加工だって私もできる)


 もっとも、加工は超面倒だからやりたくはないんだけどね。


(魔道具師は基本的に探索者じゃないから、おっさんは私が困ると思ってるんでしょうけど……)


 正直さっぱり脅しになってないのよね。そもそも、私の情報をその程度も持ってない時点でおっさんのレベルが知れるってものよ。

 とはいえ、だ。


(こういうクソッタレがのさばってるのも迷惑なのよねぇ……)


 阿呆に権力握らせるとロクなことにならない。日本でもいたのよね、親の後を継いだだけのボンボンが好き勝手やって優秀な会社を潰したり、業界ルールを無駄に変更しようとしたりとか。

 すでに魔道具師を何人も潰してそうだし、そうなると魔道具業界全体が歪んでしまって、他の人が作ったまだ見ぬ魔道具に出会えなくなっちゃう。それは魔道具好き、いえ、愛してると自負できる私にとって面白くもない話だ。

 なにより――私自身がこいつを気に食わない。さて、どうしたものか。


「……あ」


 そうだ、どうせ私を見くびってくれてるんだし、契約を逆手に取ってしまいましょ。

 妙案を思いついた私は、ジャンパルドを見てニンマリとした。

 そしてそんな私の顔を見たエリーがブルリと震えた。







お読み頂き、誠にありがとうございました!


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