2-6 再会
「そのコンロ、アタシが知ってるのとは違ってずいぶんと小さくなるみたいだけど、どこで手に入れたんだい?」
「ああ、これか? 最近販売されたばかりの新商品らしいが、迷宮の入口でたまたま行商人が売ってたのを見かけてな。試しに買ってみただけだったんだが、今やすげー人気でなかなか手に入らないみたいだぜ」
「へえ、そうなのかい。使ってみてどうだい?」
「革命だね」尋ねられた探索者は即答した。「これまでのやつに比べりゃ段違いに軽いし、魔力石さえ取り外せば圧縮カバンにいれても圧縮率が格段にいい。長く迷宮に潜るんなら買って損はない代物さ」
「おい」そこにクーザリアスが割って入った。「ならちょっと使わせてみろよ。どうせ使い終わったんだろ?」
不遜な言い方に男は顔をしかめ、首を振った。
「悪いが俺たちはもう行くんでな」
「そう言うなって。ちょっと使うだけさ」
「なら人に物を頼む言い方っていうのがあるだろうが」
男が言っていることはジャンナからしても至極真っ当だ。クーザリアスにもそれは分かったのか、盛大に舌打ちこそしたものの、笑みを取り繕った。
「悪かったな。ちょっと気が立っててな。使わせてくれよ。な?」
クーザリアスにしては低姿勢なのだが、それでも男の方は貸したくないのか、渋る仕草を見せた。
するとクーザリアスが大きく息を吐き出した。頭をボリボリと掻いたかと思うと、鋭くにらみつける。そして一気に距離を詰めると、男の手に持っていた小型コンロを強引に奪い取ってしまった。
ジャンナが呆気に取られ、男も取り返そうとする。だがクーザリアスは彼の首に剣を突きつけた。
「クー!?」
「A級探索者の俺が使ってやるって言ってんだ! つべこべ言わずに貸せってんだよ!!」
あまりにも強引なやり方。だが、たかがコンロで怪我などしたくない。不満と憤りを覚えながらも男が引き下がると、クーザリアスも荒く鼻息を吐きながら剣を収めた。
だが。
「あ? これはどうすんだ?」
ガチャガチャと弄くっていくが、組み立てさえままならない。やっとのことで組み立て終えてつまみを回すも火が付く様子はなく、「壊れてんじゃねぇのか?」などと言いながら乱暴に何回もつまみを回しだしたところで、たまらず男が口を出した。
「専用の魔力石ケースと説明タグを引っ付けてねぇと火がつかねぇ仕組みになってんだよ。ただ――」
「それを早く言えってんだよ!」
「あ、ちょっと待て――」
魔力石カートリッジを男の手から奪い取ると、説明が終わってないにもかかわらずそれらをコンロにセットしてひねりを回した。
その途端、コンロから火柱が立ち上った。
「あちちちちちっ!!!???」
クーザリアスがのけぞるも、間に合わず彼の前髪から盛大に火が昇る。地面に転がりながら叩き消すも彼の輝くような金髪は真っ黒な炭に変わって、居丈高だった顔が煤で真っ黒になっていた。
周囲から忍び笑いが漏れ、クーザリアスは黒ずんだ顔を真っ赤にしてコンロを思い切り蹴飛ばした。
「クソッタレが! こんな欠陥品要らねぇよ! ダレス、ジャンナ! 行くぞ!!」
「ちょっと、クー! 待ちなって!! アンタ、本当にゴメンよ!」
足を踏み鳴らしながら去っていくクーザリアスにダレスが続き、ジャンナもコンロの持ち主に謝りながら慌てて追いかけていった。
セーフティスペースに訪れた嵐が去り、残った全員が大きくため息をついた。
「噂どおり、か。連中もすっかり落ちぶれちまったもんだな」
誰かがつぶやき、それを誰も否定をしなかった。
王都の探索者の中で、すでにグランディス・ソードの悪名は知れ渡っていた。依頼の達成率も大きく低下し、ギルドからの信頼も揺らいでいるという。そう遠くなく、彼らの募集に応じる者はいなくなるだろう。
「傲慢さが招いた結果か。ああはなりたくないもんだな」
俺らも気をつけようぜ。そう仲間とうなずき合い、彼らもまた出立の準備に戻っていった。
翌日。
「――はい、今回も依頼は失敗ですね」
受付カウンターでカタリナが、ボロボロになったグランディス・ソードの三人に淡々と事実を突きつけた。
メンバーを一人失った彼らは、あの後も強硬に進んでいったものの、第七階層で立て続けにC級モンスターと遭遇し、あえなく撤退せざるを得なかった。
一匹目を倒したはいいものの、続くモンスターに群れで背後から急襲されて敗走。撤退途中の休憩中にもまた別モンスターに襲われて、食料などが入ったカバンを放棄せざるを得なかった。
料理道具など持ち込んでいないためモンスターの肉を食料にすることもできず、空腹で倒れそうになりながらも、なんとか脱出してようやくギルドへと舞い戻ることができたという有り様だ。
「今回はペナルティこそありませんが、このままですとランク降格もあり得ますので気をつけてください」
「ンなことは分かってる! 分かりきってる事を一々言わなくていいんだよ!!」
分かってるならその態度を改めろ。そう言いたいのをグッと堪えたカタリナに見送られ、三人はギルドを後にした。
「……これからどうする?」
「とりあえずは探索用の魔道具を揃える。俺ら三人でも探索できるようにな」
ダレスが尋ねると、鼻息荒く前を進むクーザリアスはそう返事をした。
「もう新しいメンバーは入れないのかい?」
「どいつもこいつも無能ばっかりだ。邪魔にしかならねぇなら、新メンバーを入れるのはもう無しだ。最近は便利な魔道具が売られてるみたいだしな」
無能だと断じることには疑問だが、ジャンナとしても魔道具を買い揃えることには賛成だ。四人目を入れるにしても無駄になることはないだろう。金銭面では痛いが、今の状況を鑑みればやむを得ない。
迷宮から撤退するまでの道中でも多くの新しい魔道具を見かけ、そのどれもが随分と便利そうであったし、使っていた探索者に尋ねると概ね良好な反応だった。探索者一人前を埋めてくれるほどではないにしろ、きっと今よりはまともになるはずだ。
「なら腹ごしらえしたら早速行くとしようか」
使っていた彼らの多くは行商人から買ったと言っていたが、ここ最近は見ていないらしい。だが幸いに、その中の一人は行商人ではなく開発元の店舗で買ったと言っていた。そこならば自分たちも手に入れることができるだろう。
かくして三人は食事もそこそこに魔道具を売っている店探しに出かけた。先程の探索者の話によれば、店は王都北西部にあるとのこと。その話と行き交う人に尋ねながら、件の店舗を探していった。
だがその店は中々見つからない。苦労してようやく近所まで辿り着いた頃には、日が傾き始めていた。
「……本当にこんなところにあるんだろうな?」
「そのはずなんだけどねぇ」
辿り着いたのは王都でも貧しい区域の裏路地。探索者相手に大儲けしてるだろう店があるとは到底思えない所だ。
三人とも怪訝に思いながらも進んでいくと、やがて魔道具屋を示す絵が描かれた看板が見えてきた。
「ずいぶんと古そうな店だな」
「こんなボロい店があの最新魔道具を売ってんのか? ガセをつかまされたんじゃねぇだろうな?」
二人が疑いの目を向けるのも無理はない。店の外壁は剥がれ軒もくたびれて、嵐でもくれば潰れてしまいそうだった。
「合ってるみたいだよ。ほら、見てみなよ」
それでもジャンナが指差すとおり、窓辺には魔道具が並べられていた。いずれも昨日の探索者たちが使っていたもので、少なくともこの店で取り扱ってはいるらしい。
「こんにちは、邪魔するよ」
店の扉を開け、ジャンナが率先して入る。
だがそこで、彼女の足が止まった。それを不思議に思ったクーザリアスとダレスが後ろから覗き込み、そして固まった。
「あら、いらっしゃい」
カウンターには女性が座っていた。キセルをくわえ、ゆったりと白い煙を吐き出す。
くゆらせる煙の奥から、ミレイユは優雅な微笑みで三人に流し目を送った。
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