2‐5 グランディス・ソード
「クソが! なんで俺までこんなことしなきゃなんねぇんだ!」
倒したモンスターの素材を剥ぎ取りながら、クーザリアスが大声で悪態を吐いた。
苛立ちをぶつけるようにナイフを突き刺す。しかし乱暴に作業を続けたせいで剥ぎ取り用ナイフの刃が折れてしまい、忌々しそうににらみつけて地面へ叩きつけた。
「文句言ったってしょうがないだろ?」
「口を動かす前に手を動かせ」
「うっせぇ! おい、新人! 予備のナイフを寄越せっ!!」
ジャンナとダレスがなだめるも、怒りが収まらないクーザリアスは新たに「グランディス・ソード」に加わったメンバーに八つ当たりをする。怒鳴られた彼は眉を潜め、けれどすぐに腰のナイフをクーザリアスに放り投げた。
だが受け取ったクーザリアスはなおも「遅ぇんだよ、ノロマ!」と悪態を続けながら、再びモンスターにナイフを突き刺した。
ミレイユから三行半を突きつけられた彼らは、迷宮探索で苦戦を強いられていた。
彼女への扱いの悪さがギルドに広まった彼らだが、それでもA級の探索者。ミレイユの穴を埋める人員を募集するとすぐに加入希望者が現れ、補充には事欠かなかった――様に見えた。
(どいつもこいつも使えねぇ……!)
だが加入した探索者は、クーザリアスにとって不満しか無かった。身体強化や敵へのデバフ魔法は発動が遅いし、その種類も少ない。そちら方面が得意な探索者を招き入れたこともあるが、その場合は索敵や罠の感知方面で役に立たず、まともに探索が進まなかったのですぐに解雇した。
したがって斥候が得意な人間を何人か試してみたが、その誰もが「あの」ミレイユ以下でしかなかった。
(それもこれも――)
全部ミレイユが抜けたせいだ。あれだけ目をかけて、しかも自分の女にまでしてやったというのに、跡を濁すどころか泥までぶっかけていきやがった。それ以来、迷宮探索もギルドの依頼も、何もかもが上手くいかない。
「あの恩知らずが……!」
忌々しげに吐き捨てたクーザリアスの声をジャンナは拾った。彼を一瞥し、けれど無言でナイフを動かし続けた。
「やっと終わったな」
ダレスが剥ぎ取った素材の入った圧縮カバンを新人へと放り投げ、時計を見た。時間はすでに夕刻に差し掛かろうとしている。以前ならばもう七階層辺りまで進んでもおかしくないが、まだ四階層目。ダレスもまた苛立ったように小さく舌打ちした。
「……とりあえず休憩にしよっかね。この先に休憩用のセーフティスペースがあるはずだよ」
みんなが殺伐としているのは、腹が減っているせいだ。ジャンナは自分にそう言い聞かせながら、努めて明るく振る舞いつつ先導していき、迷宮に設置されたセーフティスペースへと辿り着いた。
休憩用に先人たちが設置したそこには、数組のパーティが滞在して体を休めていた。装備も外し、思い思いに休憩を取っている彼らの間を、クーザリアスは遠慮なく乱暴な足取りで突っ切っていき、一番奥のスペースにどっかりと腰を下ろした。
周囲から冷たい目が向けられ、ジャンナは居心地の悪さを覚えた。が、クーザリアスとダレスは気にも留めてない。二人を羨ましく思うと同時にため息を禁じ得なかった。
「……ちっ、今日もまたこのレーションか」
各々の圧縮カバンからスティック状の食事を取り出しかぶりつく。レーションはギルドで販売されている簡易食料だ。かさばらず栄養や腹持ちはいいが味は二の次で、まさに栄養補給という意味しかないものだった。
「以前はこの時間が楽しみだったんだがな」
「それもこれも何処かの誰かが魔導コンロを持ってこねぇからなぁ」
聞えよがしにクーザリアスが言いながら、新人メンバーを見た。
「しかたないだろ。いくら圧縮カバンとはいえあんなかさばって重い物、持ってこれるかっての。だいたい、アンタらが荷物を分担して持ってりゃ俺だって持ってくるさ」
「俺たちはな、モンスターを前にして命張ってんだよ。体力はできるだけ消耗しねぇようにしなきゃいけねぇんだ。戦闘中は後ろでちんたらしてるテメェが荷物を持つのは当たり前だろうがよ」
「その代わり俺は、アンタらがちんたら歩いてる間に気力と体力を使ってるんだよ」
「どうだか!」クーザリアスが鼻で笑った。「ちょっとした罠でもいちいち進むのを止めるし、モンスターに気づくのも遅ぇ。まだミレイユの方が役に立ったな」
「ちょっと、止めなよ、クー――」
「そうだな」
不穏な雰囲気を感じ取ったジャンナが止めようとする。しかし、そこにダレスも加わりますます空気が剣呑とした。
「バフ魔法も使えない、素材の剥ぎ取りも遅い、雑魚モンスターの露払いもできない。この『グランディス・ソード』のメンバーとして十分な働きができてるとは言えないな。ジャンナもそう思わないか?」
「そ、そりゃミレイユほどじゃないかもしんないけどさ……でも、この子だって――」
「ダレスもジャンナもそう思うよな! ほら、見ろ! テメェの仕事はその程度の評価なんだよ! 文句はちゃんと役に立ってから言えってんだ」
「……そうか、よく分かったよ」
「そうそう、分かったんならこれからも――ガフッ!?」
文句をぶつけて満足そうなクーザリアスだったが、その顔面にカバンが投げつけられた。もんどり打って倒れ、だがすぐに歯をむき出しにして怒りを露わに新人をにらみつける。しかし新メンバーの彼もまた、クーザリアスに向かって大きくため息を漏らし立ち上がった。
「もう十分だ。この場で俺は脱退させてもらう。A級探索者パーティだって言うからどんなもんかと思ってたけど、噂どおりとんだクズパーティだったな」
「なんだと!」
「知らねぇのか? 斥候役界隈じゃアンタら有名だぜ? 荷物も持たねぇ、探索の準備もしねぇ、戦闘はゴリ押しで戦略も戦術もあったもんじゃないってな」
「誰だ、そんな噂を言いふらしてる奴はっ!?」
「噂も何も事実だろ? 俺は噂を鵜呑みにしない主義なんで入ってやったが……噂どおり、いや、噂以上だったな。素材の剥ぎ取りも下手くそだし、よっぽどそのミレイユって人に頼りきりだったんだろうな」
「はぁ? 何言って――」
「とにかくこれでアンタらとはバイバイだ。前の人もこんなパーティ抜けて今頃せいせいしてるだろうよ」
じゃあな、と新人メンバーは吐き捨てて立ち去っていった。
「……マジかい」
「クソッタレがっ!!」
「怒るな。根性無しが負け惜しみを漏らしたに過ぎん」
彼を呆然と見送り、ジャンナは崩れ落ちるように座り込んだ。
また三人になった。もうこれで何人目か。呆れと怒りでクーザリアスとダレスをにらみつけるが、二人とも何が悪いとばかりにふんぞり返って反省の色もない。
(これも、罰なのかねぇ……)
いかにミレイユがこのパーティーで重要だったかが、今になって痛感する。
お荷物だ、と彼女自身ミレイユのことをそう思っていたし、クーザリアスたちが彼女をまるで奴隷のようにこき使っていても、いつのまにかそれが当たり前に思っていた。
さすがにクーザリアスがアースドラゴンもろとも彼女を刺し殺そうとすると聞いた時は耳を疑ったが、それも生き残るためにはやむを得ないことだと本気で信じていた。しかし、その選択は誤りだったと思わざるを得ない。
なぜ、彼女のことをもっと慮ってやらなかったのか。後悔ばかり募るが、すでに後の祭りだった。
「まぁいい。どうせミレイユの代わりすらできなかった野郎が抜けただけだ。いてもいなくても変わりゃしない」
「そうだな」
「それよか腹ごしらえだ。ジャンナ、お前のレーションをもう一セット分けてくれ」
未だミレイユの「優秀さ」を理解していない二人にため息をつきつつ、ジャンナはレーションを投げ渡した。
「しっかしこのレーションもいい加減飽きてきたな」
「ミレイユがいた頃は、アイツがモンスターの肉とかも焼いたりしてたからな。温かい料理が恋しくなってきてもおかしくない」
ぼやきながら三人でスティック状のそれにかぶりついていると、次第に部屋に良い香りが充満してきた。見れば、他のパーティはみな魔導コンロを持ち込んでいるらしく、各々道中で狩ったモンスターの素材を料理していた。
「あの野郎……当たり前にみんなコンロ持ち込んでんじゃねぇか」
「……いや、ちょいと待ちな」
片付けを始めた他のパーティのコンロを観察していると、ジャンナが知るそれとは違うことに気づいた。小さく手のひらサイズまで折りたたまれて、魔力石も小さく取り外しまでできている。見た限りずいぶんと軽そうで、なるほど、あれならば迷宮探索の邪魔にもならない。
ジャンナは立ち上がると、「ちょいといいかい?」と気さくな様子で話しかけた。
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