平和な夜と朝
「ううん、この生姜焼きって美味しいね。私、気に入っちゃったよ」
相変わらず料理に顔面ダイブして食べてたシャムエル様は、どうやら生姜焼きが気に入ったらしく、この台詞はさっきからもう四回目だ。
しかも、早々に食べ終わったあとは、まだ食べてた俺の手元をずっとジト目で見ている。仕方がないからもう一枚、ご飯と一緒にさっきと同じくらい分けてやったよ。
あはは、俺のご飯、確実に三分の一は持っていかれてるな。次は俺も大盛りにしよう。
苦笑いして残りを食べ終えた俺は、焼きおにぎりを一つだけ取り出して、残りの揚げ出し豆腐といっしょにいただきました。
まあ、もちろん焼きおにぎりも一欠片、シャムエル様に取られたけどな。
ううん、しかし最近シャムエル様の食いっぷりが半端ないよ。太るぞ……あ、手触り良くなるだけだから別に良いのか。
その後、ベリー達に出してやった果物を俺達も少し貰い、食べ終わった後はもう早めに休む事にした。
「で、明日はどうするんだ?」
机を片付けながら振り返ると、ちょうど立ち上がったハスフェルが教えてくれた。
「この大岩に沿ってぐるっと回っていくと、水が湧く場所があるんだが、そこにも珍しいのが出るらしい。明日はそこへいくよ」
「へえ、珍しいのか」
三人は苦笑いして頷いた。
「今回、ここに出るジェムモンスターの多くは、影切り山脈の樹海に近い種類だな。どれも、かなり特殊で個性的なジェムモンスターばかりだよ。いやあ、本当にここは面白い」
嬉しそうなハスフェルの言葉に、シャムエル様も頷いている。
「良いでしょう? たまにこんな風に簡単には行けない特定地域のジェムモンスターが、多く出るように調整してみたんだ。面白いでしょう?」
「へえ、そうなんだ。じゃあせっかくだから頑張って集めていくよ」
とはいえ、スライム達の中にはもう幾つあるか分からないくらいに沢山のジェムと素材があるんだよな。まあ腐る訳じゃないから良いけどさ。
うん、ここはテイマーのランドルさんとドワーフのバッカスさんにも頑張って集めてもらおう。
机を片付けて広くなったテントの真ん中に、いつものスライムウォーターベッドが登場している。マックスとニニはもう横になってて寝る気満々。
飛び地では、地下洞窟のグリーンスポットと同じで、安全の為に防具をつけたまま眠る。なので、一旦防具を脱いで、サクラに綺麗にしてもらってから改めて身につけていく。
剣帯は外して、剣ごと収納しておけば万一何かあってもすぐに対応出来るからよし。
「それじゃあ、今夜もお願いしま〜す」
そう言いながら、二匹の隙間に潜り込んでいく。
ちょっともぞもぞ動いて、定位置に収まる。ラパンとコニーのウサギコンビが巨大化して俺の背中側に並んで収まる。
「すっかりこれで寝るのが定番になったよな。ああ、やっぱりこのもふもふは俺の最高の癒しだよ」
低い音で鳴らすニニの喉の音を聞きながらもふもふの腹毛の海に潜り込んで、サクラが出してくれた毛布を上から被る。
タロンがものすごい勢いで俺の腕の隙間にすべり込んできて、フランマをタッチの差で押し退ける。
「今夜は私が添い寝役なの。警備はソレイユとフォール達がやってくれるってさ」
こちらはもう少し高い音の喉を鳴らして、ご機嫌のタロンが嬉しそうにそう言って俺の顎に頭を擦り付けて来た。
「こらこら、髭がくすぐったいって」
笑いながら片手で小さなタロンの頭を押さえてやる。
片手にすっぽりと頭が収まったタロンは、どうやらそれが気に入ったらしくグリグリと頭を俺の掌に押し付けてすっかりご機嫌だ。
「それじゃあ消しますね」
フランマと並んでスライムベッドにもたれ掛かっていたベリーが、軽く指を鳴らすとその瞬間にランタンの火がきれいに消えてなくなった。
「ありがとうな。それじゃあおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
優しい声に笑って、タロンを撫でてやりながら俺な気持ちよく眠りの国へ落っこちて行ったのだった。
ううん、相変わらずの墜落睡眠だね。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
「うん、おは、よう……」
無意識に返事した後、やっぱりそのまま気持ち良く二度寝の海にダイブ。
二度寝って、気持ちいいよなあ。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
「うう、待って……」
まだ寝ていたくて、ニニの腹毛に潜り込む。
「ご〜しゅじ〜ん」
「お〜き〜て〜」
耳元で優しい声がした直後。
ザリザリザリ!
ジョリジョリジョリ!
こめかみと耳元を思いっきり舐められて飛び上がった。
「うわあ、起きます起きます! ゲフゥ!」
悲鳴を上げて転がり起き上がろうとしたところを、ちょうどニニの背中から落ちて来たソレイユに、見事に顔面を踏まれて悲鳴を上げる。
「あ、踏んじゃった、ごめんね〜」
絶対わざとだと分かる笑った声で謝られて、腹筋だけで起き上がった俺は両手を伸ばしてソレイユを捕まえる。
「踏んだのだ誰だ〜! ところでソレイユの肉球は硬いんだな。どれ、見せてみろ」
笑いながら細い前脚を捕まえてひっくり返して肉球を見る。
「やだ〜そんなところ見ないで〜誰か助けて〜」
笑ったソレイユに、フォールとタロンが突撃して来る。
「助けにきたわよ〜!」
「お助け参上〜!」
棒読みでそう言いながら、腕の隙間に顔を突っ込んで来る。それから背中を登って来た三匹に頭の上に乗られそうになり、俺は笑ってスライムベッドに転がった。
「降参〜! 参りました!」
「勝った〜!」
俺の背中で大喜びする三匹を見て、笑いながら思った。
あれ? これって勝ち負けの話だったっけ? と。
「おはよう、仲が良いのは結構だが、いい加減に起きないと置いていくぞ」
テントの垂れ幕を勝手にめくりあげて留めながら、ハスフェルとギイが笑っている。
「おう、おはよう。朝飯抜きで良いのならどうぞ」
笑って言い返してやり、ブーイングの声を聞きながらとりあえず、防具はそのままでサクラに綺麗にしてもらった。
「それじゃあさっさと食って撤収するか」
そう言って大きく伸びをしながら立ち上がり、サクラが取り出した机にいつものサンドイッチ各種とコーヒーそれから激うまジュースを並べたのだった。
さて、今日は何が出るんだろうね?




