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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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大切な仲間達

「なるほどなあ。見事なもんだ」

「確かに。時折屋台では見かけていたが、あそこまでだと、どこの店でも大歓迎してくれるだろうさ」

「さすがだな」

「うむ、全くもってさすがだわい」

 宿泊所へ戻る道すがら、俺の後ろを歩く三人が、また主語の無い会話で妙な事を言って感心し合っている。

「なんだよ? 何が、さすがなんだ?」

 振り返って尋ねると、妙に優しい笑顔の三人が、揃って俺を見つめている。

「だからなんだよ。さっきから気になるぞ」

「どうやら無自覚みたいだと思ってな、それで尚のこと感心しておったのだ」

 オンハルトの爺さんに笑顔でそう言われて俺は首を傾げる。

「また何か、俺の事で噂してるな。だけど、悪いけど何の話かさっぱり分からないぞ?」

「ほら、やっぱり無自覚だ」

「まあ、でも店主達の気持ちもわかる気はする」

「確かになあ。わかるわかる」

 妙にうんうんと頷き合っている三人を見て、俺は右肩に座るシャムエル様を振り返った。

「なあ、あれって何の話か分かる?」

「気にしなくていいよ。良い事なんだからさ」

「うわあ、そんなこと言われたら、余計に気になるよ」

「まあまあ、君が可愛いって話だからさ」

「おい!」

 ハスフェル達が揃って慌てた様に止めに入ったが、俺の耳は聞き逃さなかった。

「はあ、俺が可愛い? なんだそれ?」

「ほらやっぱ無自覚じゃん!」

 何故かドヤ顔のシャムエル様にそう言われて、俺は三人を振り返る。



 その瞬間、三人は同時に吹き出しやがった。



「良いよ、お前はそのままでいてくれ」

「そうだよ、気にするなって」

「そうだぞ、まあ、可愛がられるのは良い事じゃからな」

 オンハルトの爺さんの言葉に、若干思い当たる節があった俺は、ちょっと考える。

 高校時代はあまり思わなかったんだけど、大学に入って学生寮に入り、バイトしながら仲間達とワイワイ楽しく過ごしてて思った。この世界には優しい人がいっぱいいるって。

 必死でバイトして貯めたお金でボロバイクを買って、野宿しながらあちこち旅した時も思った。

 この世界には、優しい人がいっぱいいるって。

 だから俺も思ったんだ。俺がしてもらったみたいに、俺も出来るだけ優しい大人になろうって。

 理想論かもしれないけど、俺は本気でそう思ったんだよ。

 だけど、そんな事はここでは言わない。これは俺の密かな誓いだもんな。




「つまり、お前らが言ってるのって要するに、俺が誰とでも、それこそ初対面の人とでも平気で仲良く話が出来るって事だろう?」

 笑顔で頷くオンハルトの爺さんに笑って肩を竦め、俺は空を見上げた。

「それは単に、以前の俺の仕事がそういう仕事だったからだよ」

「お前さんの仕事?」

「そう。ええと……営業ってわかるか?」

「店を営むって意味だろう?」

 真顔のギイの答えに、小さく笑う。

「まあ答えとしては間違ってない。だけど俺の言う営業ってのは、多分ここでは……ああ、行商が一番近いかな。自分の勤めていた会社が作った品物を、あちこちに売る仕事をしていたんだよ」

「ああ、なるほど。それなら分かる」

 三人が揃って頷く。

「とにかく、人に顔と名前を覚えてもらい、また会ってもらう。営業の基本だよ。呼ばれたらどこへでも行ったし、それこそクーヘンの店で手伝ったみたいに、開店の手伝いなんかも沢山やったよ、俺は人と会って話をするのは子供の時から平気だったし、知らない人の話を聞くのも好きだったからさ。確かに沢山のお客様に可愛がってもらったよ。営業成績が上がらなくて苦労している同僚はたくさんいたけど、俺は営業の仕事自体を嫌だと思った事は無かった。自分は営業には向いているとも思ってたくらいだからな」

「なるほど。人の本質なんて、何があろうとそう変わらぬと言う事だな?」

 オンハルトの爺さんに、なんだかものすごく優しい声でそう言われて急に照れくさくなる。

「だあ! もうこの話はやめ!」

 誤魔化す様にそう叫ぶと、何故だか三人とシャムエル様から次々に頭を撫でられた。

「おい、三十過ぎのおっさんの頭を撫でて何が楽しんだ?」

 これまた照れ臭くて誤魔化す様に叫ぶと、先に歩きかけていた三人が、物凄い勢いで揃って振り返った。



 怖いって、そのシンクロ率。



「誰が三十過ぎだって?」

「へ? 俺だけど?」



 真顔のハスフェルの言葉に、俺が答える。

「異世界とここでは、歳の数え方が違うのか?」

「いや、そんなはずは無いぞ……?」

 何故だか、三人揃ってシャムエル様を見つめている。

「言いたい事はものすごくわかるけど、彼の実年齢は今言った通りだよ」

 シャムエル様の答えに、何故だか揃って吹き出してる。

「異世界人、恐るべしだな……」

「ふむ、まさかとは思ったが、これは興味深い」

 ギイとオンハルトの爺さんが揃ってうんうんと頷き合っている。

 ハスフェルは、もうこれは失礼なんじゃ無いかと思うくらいに、さっきからずっと座り込んで大笑いし続けている。

「もともと、若く見られてたけど、実年齢をそこまで笑われると、なんだか腹立ってきたぞ」

 と言いつつ俺も笑いながら、しゃがみ込んでるハスフェルの背中を蹴ってやる。

 うう、悔しい。このでかい体は、俺が蹴ったくらいじゃ微動だにしない。

「あれ、何か当たったかな?」

 素知らぬ顔で立ち上がりながらそんな事を言うので、またしても後ろから膝カックンしてやったよ。

 叫び声とともに崩れ落ちるハスフェルを見て、俺達三人とシャムエル様は揃って大爆笑になったのだった。





「全く、道端で何やってるんだよ。俺達」

 途中から完全にここが何処だか忘れてました。

 遠巻きに人が集まり出したのに気付き、慌てて俺達は宿泊所に駆け込んだのだった。



「はあ、それじゃあ飯食ったら俺はマギラスさんの店へ行くよ。お前らはどうする? 部屋で休憩か?」

 自分の分はおにぎりを取り、ご指定のタマゴサンドをシャムエル様に切ってやりながらそう言うと、ハスフェル達は揃って手をあげた。一緒になってシャムエル様まで手をあげてる。

「俺達も行くぞ!」

「はあ、お前らが行って何するんだよ。一緒に料理を一から習ってくれるのか?」

 コーヒーと自分用の冷えた麦茶を取り出しながらそう言うと、真顔のギイが俺の肩を叩いた。

「だって、あのブドウやリンゴでジュースを作るんだろう? 適当にケンが作ってもあれだけ美味かったんだから、最高クラスの腕前の料理人が作ったらどうなるのか、そりゃあ確認しないわけが無かろうが。なんなら、お前が作っている間は、俺達は荷物運びでもして待ってるからさ」

「なんだよそれ、まさかの試食希望かよ。でもまあ気持ちはわかるな。それじゃあ邪魔しない様にしっかり働いてくれよな」

 からかう様に言うと、飲みかけていたコーヒーを三人が揃って乾杯する様に上げて笑った。シャムエル様まで、一緒になっていれてやったコーヒーの杯で乾杯してるし。



「料理上手な仲間に乾杯!」



 満面の笑みでそんな事を言われて、不意を突かれた俺は、もうちょっとで感動のあまり泣くところだった。

 何だか悔しいので、誤魔化す様に大声で言ってやったよ。



「大食漢な仲間達に乾杯!」



 揃って大爆笑になったのは、言うまでも無い。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 皆はケンが何歳だと思ってたのか気になりますね。
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