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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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シルバーレースバタフライ狩りとその後

「じゃあ、足元は守ってくれよな」

 俺の足をしっかりと押さえてくれている真っ赤なデルタにそう言って、俺は大きな花びらの隙間から持っていた槍を突き出した。

 丁度花に止まったところだった蝶の胴体を上手く貫く。

 ジェムになって消えた蝶の背にあった透明な翅が、フワリと浮き上がって落ちる。その瞬間、ニョロンと触手が伸びて、一瞬で四枚の翅とジェムを収納した。

「おお、上手いもんだな」

 笑ってそう言い、また降りてきた蝶を腕を伸ばして突いた。



 確かに聞いていた通り、次から次へと蝶が降りてくるので、俺はせっせと槍を突き出しているだけだ。

 何、この楽な狩りは。

「いやいや、飛び地のジェムモンスターを甘く見てはいけない。油断していると、いきなりデカくて凶暴なのが出てきたりするかもしれないじゃないか」

 慌てて首を振ってそう呟き、深呼吸をしてから槍を握り直した。



 しかし、そう思って身構えている時って、絶対大丈夫なんだよな。

 俺の不安なんて関係無いと言わんばかりに、切れ目なく岩の隙間から飛び出してくるシルバーレースバタフライ達。

 いくら楽な狩りだとは言っても、ずっと腕を上げ続けているわけだからそれはそれでキツイ。いい加減俺の腕が痺れ始めた頃、ようやく目に見えて出現する数が減ってきた。

『なあ、そろそろ一面クリアーかな』

 槍を下ろして念話でそう言うと、三人の笑う声が聞こえた。

『お疲れさん、そろそろ終了みたいだな』

『かなり頑張ったぞ』

『うむ、確かにかなり確保出来たな』

『確かにそうだな。これなら、クーヘンの所に渡しても、まだかなり余裕が出来たな』

 念話で話しながら、飛んできた最後の一匹を突いてジェムに変える。

 身を乗り出して辺りを見回したが、本当に、これでどうやら一面クリアーしたみたいだ。



「お疲れ様、かなり確保出来たみたいだね」

 右肩にいつの間にか戻っていたシャムエル様にそう言われて、俺は持っていた槍を一旦収納した。

「おう、頑張ったぞ。それじゃあ戻る……」

 いつものようにそう言って、うっかり下を見てしまった俺はその場で恐怖のあまり固まった。



 地面が遥かに遠い。



「うわあ……見なきゃ良かった。これ、降りられるかなあ……」

 あらぬところがヒュンってなって縮こまる。

 今まで高所恐怖症なんて思った事は無かったが、これは駄目だ。

 無理やり顔を上げて必死になって深呼吸をする。

「なあ、シャムエル様……」

 思いっきりビビりながら震える声でシャムエル様を呼ぶ。

「何、どうしたのさ」

「これ、ここ、から、降りるの、って……どう、やるか、知ってる?」

「そんなの来た時と同じだよ。茎沿いに、葉を伝って降りるだけだよ」

 あまりにも予想通りの答えに、俺は悲鳴を上げて空を見上げた。

「やっぱりそうだよな。それしか無いよな。うああ……マジで降りられるかな俺……」

 ちょっと本気で魂がどこかに飛んでいったぞ。

「まあ、もう一つ方法はあるよ」

 シャムエル様の言葉に、俺は飛びついた。

「何々、何か出してくれるの?」

「まあ、それならケンは何もしなくて良いんだけどね」

「ふおお、是非是非、是非ともそれでお願いします!」

「了解。じゃあ、ハスフェル達もそれで良い?」

『別に俺はどっちでも構わんが、一体何をするんだ?』

 ハスフェルの念話が聞こえて、俺も首を傾げた。



「じゃあ、お願いね」

 しかし、俺が何かを言う前に、シャムエル様はいつの間にか金色合成したアクアゴールドに向かって手を上げた。

「はあい、それじゃあご主人を下へ降ろしてあげま〜す」

 そう言った瞬間、俺は自分の足元を見た。

 当然だが、金色合成が完了しているって事は、今の俺の足元には真っ赤なデルタがいない。

 恐怖に硬直したまま、目の前でパタパタと飛んでいるアクアゴールドを見た時、なんとアクアゴールドは、目の前でいきなり薄く伸びて大きく広がった。

 両端から伸びてきた細い触手が、するりと俺の両腕に絡みつく。

「待て待て。お前、何する気だよ!」

 嫌な予感に俺が叫んだ瞬間、広がってパラシュートみたいになったアクアゴールドは、俺を掴んだまま葉から飛び出したのだ。



「ふぎゃあああああああ〜〜〜〜!」



 またしても、情けない俺の悲鳴が響き渡る。

 ハスフェル達の吹き出す声に文句を言う間も無く、見事に空気を含んで広がったアクアゴールドに確保された俺は、スライムパラシュートでゆっくりと地面に降りて行ったのだった。



 はい、正直に言います。

 あらぬところが……本日二度目のべしょ濡れになりました。

 もう、ここから消えてなくなりたい……。




「到着〜!」

 得意気なアクアゴールドの言葉に、俺は地面に投げ出されてそのまま起き上がれません。

 はい、完全に腰が抜けたよ。

「あ、ご主人汚れてるね。綺麗にしま〜す!」

 いっそ無邪気なアクアゴールドの声に、涙目になって転がっていた俺は、その涙まで一瞬で綺麗にされました。

「ありがとうな……あはは、地面って素晴らしい……」

 大の字になって地面に寝転がり上を見上げる。

 遥か上空に見える大きな花に、さっきまであそこにいたのかと考えたらまた泣きそうになったので、転がって横を向いた。

「うう、マジで立てるかな。俺……」

 なんとか手をついて座るところまでは出来たが、立てない。

 完全に膝が笑ってます。

「全く、何をやってるんだお前は。ほら、しっかりしろ」

 苦笑いしたハスフェルとギイが来てくれて、手を引っ張って起き上がらせてくれた。

「あはは。ありがとうな」

 誤魔化すように笑って、何度か屈伸をして震えている身体を解した。



「なあ、もう戻るのか?」

 ようやく落ち着いて息が出来るようになったので、大きく伸びをしてから振り返った。

「あれ、あそこ……もしかして、取り損なった翅が落ちてるのか?」

 俺が指差したそこは、緑の雑草の茂みの中に、明らかに色が違う白いレース模様がちらりと見えていたのだ。

「ええ、全部集めたよ?」

「一枚も落として無いよ!」

「落として無いよ〜!」

「全部集めたもんね!」

 アクアゴールドの言葉に続き、三人が連れているゴールドスライム達も口々にそう言っている。

「ええ、それならあれは何だよ。明らかにレース模様だぞ? 勝手に羽だけ落ちて残る事なんてあるのか?」

 時間切れで消滅した蝶を思い出して、首を傾げながらそう呟いて近寄って覗き込んだ。



 その瞬間、レース模様が動いて俺は悲鳴を上げた。



 そうだよな。いい加減学習しろよ。

 知らないものに、迂闊に近付くなよな。俺……。

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