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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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待ちの時間と遅い朝飯

 前回と違い、四匹しかいないゴールドスライム達は、二匹ずつ合体して順番に手分けして、せっせと壊れた机や椅子を再生してくれている。

 石の河原に立ち尽くす俺達の目の前には、先程と見かけは変わらない背の高い緑の草原が延々と広がっていた。

 そして頭上には、やっぱり太陽の無い、妙にのっぺりした平らな空が広がってる。



「なあ、これって……あれ、シャムエル様がいない?」

 さっきまで俺の右肩に座っていたはずなのに、姿が見えなくなって慌てて周りを見渡す。だけど、どこかに落っことした様子も無い。

「どうした、何をしている?」

「いや、シャムエル様がいつの間にかいなくなっててさ……」

 しかし、俺の心配をよそに、ハスフェルと元の姿に戻ったギイ、オンハルトの爺さんの三人は平然としている。

「ああ、それなら心配いらん。ここの確認に行ったんだろうさ。さて、それならもう入っても良いんだろうか?」

 まさかのギイの発言に俺は目を見開く。

「ちょ……おま、今何つった? ここに入る?」

「当然だろうが。お前、まさかとは思うがこのまま帰るつもりだったのか?」

「いや、何でそこでまた戻るって選択肢が出るんだよ。あれだけ酷い目に遭っといて、戻る? 普通ここは大人しく撤収するところだろうが!」

 しかし、三人は不思議そうに俺を見る。

「だって、シャムエルが言っていただろうが。ここはもう新しい空間に置き換わってるから安全だよ。逆に言えば、ここが本当に安全かどうかを万一の時に対応出来る俺達が確認しておくべきだ」



 真顔のハスフェルに言われて、俺は気が遠くなった。

 だけど、納得もしたよ。

 確かに、万一またあんな事態になったら……普通の冒険者は確実に死ぬ。もうこれ以上無いくらいに確実に死亡するよ。となると神様達に下調べしてもらうのが良いんだろうけど……そこに俺を混ぜないで欲しい。

 何でも俺は頑丈に作られてるらしいけど、戦闘経験なんて全く無いただのサラリーマンだったのにさ。

 本当にどうしてこうなった?

 無言で頭を抱えていたが、彼らの中では俺も一緒に行くのは確定事項らしい。

 もうこれ以上無いくらいに大きなため息を吐く。

「了解、確かにその通りなんだろうよ。でも、少なくともこいつらの修理が終わるまで待ってくれよな」

 まだ一つ目の机と椅子をモゴモゴやってるゴールドスライム達を見て、俺はまたため息をついて立ち上がった。

 そして気分を変えるように思いっきり大きな伸びをして三人を振り返った。

「で、その前に確認なんだけど、お前ら、腹減ってないか?」

 四人同時に吹き出し、三人がこれまた同時に手を上げた。

「はい! 腹減ってます!」

 見事に揃った元気な返事に、俺達はもう一度盛大に吹き出し大笑いになったのだった。




 机も椅子も修理中なので、そのままその場で石の地面に座り込んだ。

「ええと、作り置きのサンドイッチで良いな。サクラ、忙しいところ悪いけど俺達に朝飯出して欲しいよ」

 俺の言葉に、動きを止めたゴールドスライムからニュルンって感じでサクラが抜け出して来てくれた。

「へえ、そんな事も出来るんだ」

「うん、だけどサクラが抜けると今やってる以上の作業が出来なくなるからね」

 そう言って、次々とサンドイッチやバーガーを色々と大きなお皿に取り出してくれた。

 コーヒーの入ったピッチャーも出して俺を見る。

「後は何がいる?」

「そうだな、ベリー達に果物を出してやってくれるか。後はええと……お前らは大丈夫か? 腹減ってないか?」

 横で寛いでる肉食チームを見ながら質問すると、大丈夫だと揃って元気な返事をされたよ。

「じゃあこれだけだね。一応、大きい方の水筒も置いておくね」

 最初にシャムエル様からもらった、いくらでも水の出て来る水筒も一緒に出してくれて、果物の入った大きな木箱を置いてそそくさとサクラは皆のところへ戻って行った。またスライム達が動き出す。成る程、全員揃わないとゴールドスライムになれないから、作業が止まっちゃうんだ。



「それじゃあ、これはこっちで頂きますね」

 ベリーが嬉しそうに木箱の蓋を開けて、フランマやウサギコンビ、アヴィ達に果物を配っている。

 それを見ながら、俺はサクラが出してくれた山盛りのサンドイッチを見る。

「どうした、取ってくれよ」

 タマゴサンドといつものベーグルサンドを取った俺は、マイカップにコーヒーを入れて振り返った。

「ああ、そうだな。じゃあいただくよ」

 何やら三人で顔を寄せて話をしていたが、俺の言葉に振り返ってそれぞれ幾つも手にとって食べ始めた。

「いつも机があるのに慣れていたから、無いと何だか変な感じだな」

 俺の呟きに三人も笑って頷いている。




 しかし、何も考えずに今の状況だけ見れば、良い天気の川原で弁当食ってる図だよ、これ。

 暑すぎず寒すぎず、優しい風が吹き抜ける川原で、皆で弁当食ってる。

 ちょっと昼寝したくなるくらいに気持ち良いんだけどなあ……。

 ついさっき、ここで何があったかを考えなければな。



 タマゴサンドを半分食べたところで手を止める。

「うん、ちょっと置いておこう」

 戻って来て、また拗ねたら可哀想だもんな。

 苦笑いして、タマゴサンドを半分そのまま一旦自分で収納しておく。

 よし、もう出し入れはほぼ自由に出来るようになったぞ。

 ベーグルサンドを齧りながら、時折コーヒーを飲む。そんな感じで、俺達はのんびりと遅い朝食を楽しんだのだった。




「で、この後ってどうする? もう行くのか?」

 幾つか残ったので、皿ごとこれも一旦俺のところに収納しておく。

 ピッチャーと水筒も収納してゴールドスライム達を振り返ると、今まさに机と椅子を吐き出してくれた所だった。

「次はテントだね。えっと、一緒にやった方が早そうだね」

 アクアゴールドの声に、クシーゴールドとカイゴールドがくっ付き、そこにユプシロンゴールドが突っ込んで行った。

 四匹分になった大きなゴールドスライムがまず俺の大きなテントを丸ごと飲み込んだ。

 モニョモニョと動いているのを見て、苦笑いした俺達は、もう一度その場に座り込んだ。

「まあ、こいつらの作業が終わるまで、しばらくのんびりするとしようか」

 その言葉に、皆も笑って頷くのだった。




「なあ、気になってるんだけど、一つ質問しても良いか?」

 何となく、足元の石を転がしながらそう尋ねると、また揃って何か話をしていた三人がこっちを振り返った。

「ああ、良いぞ。どうした?」

「あそこで収穫した激うまのリンゴとぶどうって食っても大丈夫なのか? マジであれは美味しかったので、もう食うなと言われたらちょっと悲しいぞ」

 何を聞かれると思っていたのか、いきなり脱力した三人がほぼ同時に吹き出した。

「大丈夫だよ。あれはそのまま食って良いぞ。しかしまあ、もう手に入らない貴重な果物だからな。俺達で大事に食うとしよう」

「ええ、マギラスさんにレシピ聞く気満々だったのに」

「ああ、そっちか。その程度なら構わないぞ。あいつももう手に入らないって言えば、無茶は言わないよ」

 さすがは元冒険者仲間。その辺りの信頼感は大きいみたいだな。

「じゃあ、この後は予定通りに東西アポンだな」

「どっちが先でも良いぞ。カデリーで何とかって食材を探すんだろう? それを手に入れてから西アポンへ行った方が良く無いか? それならマギラスに、新しい食材でのレシピだって聞けるかもしれないしさ」

 ギイの提案に、俺も納得して頷いた。

「じゃあ、ここの安全確認が終われば、カデリー経由で西アポン、それでその後ハンプールだな」

「何処かへ行くたびに、予定が狂いまくってるけどな」

 オンハルトの爺さんの渾身の混ぜっ返しに、ほとんど全員同時に笑い出して大爆笑になる。


 まあ、何であれ飯が美味くて笑ってられるって最高だよな。

 俺も笑って、側に来てくれたマックスに抱きついたのだった。

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