特製リンゴのジュース
早送り映像のようにどんどん大きくなるリンゴを眺めていて、俺はふと思いついた。
「なあ、良い事思いついた。サクラとアクアちょっとこっちに来てくれるか」
二匹を呼んで、まずは机と椅子を出す。
それから、今集めたばかりのリンゴとぶどうを取り出してもらう。
ハスフェル達は、何をするのかと側に来て興味津々で覗き込んでいる。
「なあ、このリンゴをまずは綺麗にしてくれ。それで、こんなふうに切って芯を取り除いてくれるか」
まず綺麗にしてもらったリンゴを一つ、見本で大きなナイフで八等分にして、真ん中の芯の部分を三角に切って取り出して見せる。
元気良く返事をしたアクアとサクラが、用意したリンゴ五つ分をあっという間に綺麗にして切り分けてくれた。今回は皮は食べられるのでそのままだ。
サクラが出してくれた大皿に、山盛りのリンゴが並ぶ。
「それで、このリンゴをいつものミンチを作る時みたいに細かくすりつぶして欲しいんだよ。そうしたらジュースになるだろうからさ」
上手くいくかどうかの自信は無かったが、器用なこいつらなら出来るだろうと踏んでのお願いだ。
「リンゴを細かくすり潰して液状にすれば良いんだね。何処に出す?」
「とりあえず、俺のカップに入れてくれるか」
サクラに預けていたマイカップを取り出してもらい、二匹は切ったリンゴを素早く収納して、何やらモゴモゴと動き始めた。アルファ達は興味津々で二匹のする事を見ている。
「出来たよ。これで良い?ちょっとザラザラしてるけど砕いた果肉はそのままで良いかな?」
サクラがそう言って、触手を伸ばしてまるで蛇口のように先端部分から潰したリンゴジュースをマイカップに少しだけ出してくれた。
とりあえず飲んでみる。
「美味い!めちゃめちゃ美味しい! うん、果肉もこのままで良いよ。最高だ」
「飲ませてくれ!」
三人が同時に叫んでマイカップを一瞬で取り出す。
俺も空になったカップを差し出し、二匹が手分けしてそれぞれのカップに入れてくれた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!じゃん!」
盃を取り出したシャムエル様まで大はしゃぎで踊っている。
今回はタップダンスみたいに盃を振り回してるだけで、身体はそれほど動かさずに、短い足が細かなステップを踏んでいる。
毎回思うけど、これ、自分で考えてるのかね?
「はいどうぞ。めっちゃ美味いぞ」
サクラに盃にちょっとだけ入れてもらってそれを渡す。
豪快に一口で飲み干したシャムエル様は、いきなり踊り出した。
「美味しい美味しい美味しいよ〜! 美味しいよったら美味しいよ〜〜!」
盃を右に左に振り回しながら、奇妙な調子をつけて歌付きで踊っている。
「新作、美味しいダンスいただきました!〜」
笑った俺が手を叩くと、何故だかシャムエル様がドヤ顔になる。
「おかわり!」
満面の笑みで差し出す盃に、机の上にいたサクラが、またちょこっとだけ入れてくれる。
俺もおかわりを入れてもらって顔を上げると、同じく満面の笑みの三人も、すっかり空になったマイカップを揃って差し出している。
「おかわりお願いします!」
笑って頷き合い、サクラに全員分のリンゴジュースを入れて貰ったところで、サクラが俺を見る。
「ご主人、今ので作った分が半分ぐらい減ったよ。どうする? もう少し作っておく?」
机の上には、取り出したリンゴとブドウがまだ山盛りになっている。
「あ、待ってくれるか。せっかくだから、こっちも……」
ぶどうの房を手にしてちょっと考える。
「そう言えば、ぶどうのジュースってそのまま絞ると苦くなるって聞いた覚えがあるぞ。じゃあ、どうやって作るんだ?」
俺の呟きに、三人も考える。
「すまんが、さすがにそれは俺も知らんな」
ハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも揃って苦笑いしている。
「あ、マギラスなら詳しく知ってるんじゃないか?」
ギイがそう言い、ハスフェルも同意するように頷いている。
マギラスさんは、以前、クーヘンと一緒に食べた、ハスフェル達の元旅仲間の西アポンのめちゃ美味しかった店の料理人だ。確かに彼なら、この超美味い果物で何か作ってくれそうだな。
「あ、そう言えば、グラスランドブラウンブルやグラスランドブランボアの肉で出来そうな料理を、マギラスさんに教えてもらおうと思ってたんだ!」
突然思い出してそう叫ぶと、驚いた三人がほぼ同時に振り返って悔しがる俺を見て笑っている。
「それならこの後、カデリー平原へ行く前か、行った後に西アポンにも立ち寄って聞いてみればいい。西アポンなら転移の扉も近いから、移動の心配はしなくて良いぞ」
笑っているハスフェルの言葉に振り返ると、まだ小さかったリンゴとぶどうは、もう見事な実を見事に実らせていた。
「うわあ、本当にあっと言う間に実っちゃったよ。じゃあ、せっかくだからもう一面収穫するか」
苦笑いして立ち上がった俺達とスライム達は、またしてもせっせとリンゴとぶどうの収穫を続けたのだった。
足元では、ラパンとコニー、それから椅子の背にしがみ付いていたアヴィ達草食チームが、それを食べたいと自己主張を繰り広げ、笑った俺はぶどうを房ごと渡してやり、大きなリンゴはナイフで切り分けて食べさせてやったのだった。
そして、それを見ていたマックスとシリウスまでもが食べたいと騒ぎ始めた。
そっか、犬は雑食だからたまに果物も食べていたよな。
って事で結局、いつの間にか戻って来ていた猫族軍団と恐竜達や、ファルコやセルパン達、完全な肉食チーム以外は全員、マナがタップリと含まれたリンゴとぶどうを満喫したのだった。
「あれ? ぶどうって犬が食べても大丈夫だったっけ?」
確か駄目だって聞いた覚えがある。
慌ててマックスを見たが、平然としている。
「ええと、ぶどうは食べても大丈夫だったか?」
心配そうな俺の言葉に、マックスとシリウスが驚いたようにこっちを見て首を傾げる。
しばらくして、納得したようにマックスが教えてくれた。
「ご主人、大丈夫ですよ。この世界での食事は以前の世界と根本的に違います。狩りをして食べる獲物と違って、私達がこれを食べて吸収するのは、中に含まれる大量のマナですから。それにこれだけマナを食べれば、今日はもう狩りに行かなくても良いですよ」
「そっか、大丈夫なら良いよ。だったら好きなだけ食べてくれよな」
笑ってむくむくのマックスを撫でてやり、またリンゴの収穫に戻った。
「そう言えば、テントを建てるために刈ってもらった草も、凄く美味しいってスライム達が大はしゃぎしていたもんな」
大きなリンゴを収穫しながら、感心したように周りを見回す。
ようやく、終わりが見えてきて俺は大きく欠伸をした。
「うん、そろそろ眠くなってきたよ。空が暗くならないから分からないけど、もしかして今って真夜中だよな」
そう考えたら、なんだかおかしくて、ぶどうを収穫しながら笑いを堪えるのに苦労したよ。
真夜中に、おっさんとスライム達が揃って何やってるんだってな。
結局、二面クリアーどころか三面、四面までクリアーしたところで俺の眠気が最高潮に達して脱落した。
多分、もう当分果物は買わなくても良いくらいに大量に収穫出来たと思う。
巨大なリンゴとぶどうがまだまだ実っている茂みを横目に、俺は、退屈そうにしているニニの腹毛の海に潜り込んだのだった。
すぐ横にマックスが転がり、しっかり身体を挟んで支えてくれたくれたお陰で、俺は地面に直接寝なくて済んでいる。
背中にラパンとコニーのウサギコンビ、そして胸元にはタロンが潜り込んでくる。
癒しのもふもふパラダイス空間の完成だ。
「ごめん、じゃあちょっと寝るよ」
欠伸をしながらそう言うと、笑ったオンハルトの爺さんに、ゆっくり寝てろと言われた。
どうやら神様軍団は、ちょっとくらい寝なくても平気なタイプみたいだ。
ごめん。俺は夜は寝たい派なもんで、休ませてもらいます。
もふもふ達に囲まれて、あっという間に気持ちよく眠りの海にダイブして行ったのだった。




