トラブル発生?
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
「おう、起きる……よ……」
ニニの腹毛に気持ち良く埋もれていた俺は、半分寝ぼけたまま無意識に答えていた。
そして当然のように、そのまま二度寝の海にダイブ。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
「……」
起こされているのは分かっているが、若干昨日の酒が残っているようで、軽い頭痛がしてどうしても目が開かない。
ザリザリザリザリ!
ジョリジョリジョリジョリ!
「うわあ! ごめん! 起きる起きる!」
最終兵器コンビに起こされて、悲鳴を上げて飛び起きる。
「ご主人起きた〜」
「起きた起きた」
ソレイユとフォールが、俺を起こして喜んでる。
「相変わらず、本気で身の危険を感じるレベルのモーニングコールだなあ。お前らは」
笑って二匹の顔をしっかり両手で挟んで、思い切りモミモミしてやる。
捕まった二匹は、嬉しそうに目を細めて喉なんか鳴らしてるし。
「おはようご主人」
タロンが、嬉しそうに俺の腕の間に頭を潜り込ませてくる。
「おう、おはよう。まだちょっと眠いよ」
そう言って大きな欠伸をした俺は、ニニと並んで大きく伸びをしてから、まずは顔を洗いに水場に向かった。
「宿にいる時は、スライムウォーターベッドはいらないよな」
足元で跳ね飛んでいるソフトボールサイズのレインボースライム達を順番に撫でてやり。まずは自分の顔を洗う。
「ご主人、綺麗にするね」
サクラがそう言って一瞬で綺麗にしてくれる。
「いつもありがとうな。じゃあ遊んどいで」
そう言って、最初にアクアとサクラ、それからレインボースライム達を順番に水場に放り込んでやる。
嬉しそうに歓声を上げてバシャバシャ遊んでる。ファルコとプティラも足元に来て流れる水で水浴びをしている。
「程々にな」
笑ってそう言い、一旦部屋に戻る。
「おはようベリー、果物は?」
「おはようございます。ええ、少し出しておいてもらえますか」
「了解、じゃあいろいろ出しておくから、欲しい子達は食ってくれよな」
適当に、いろいろ箱ごと出して並べておく。
ベリーが蓋を開けて中身を取り出すのを見て、俺はまず自分の防具を装着することにした。
身支度を整えていた時にハスフェルから念話が届いた。
『おはよう。もう起きてるか?』
「おう、おはようさん。今胸当て装備中」
思わず口に出して答えると、笑った気配がした。
『了解。じゃあ、それが終わったら朝飯食いに行こうぜ』
『だな、俺は腹が減ったよ』
ギイの声も聞こえて、オンハルトの爺さんの笑う声も聞こえた。
おお、複数同時会話の出来る、トークルーム状態だな。
「了解。じゃあすぐに出るよ」
返事をしながら胸当てをしっかりと締めて剣帯を装着した。
笑った三人の気配が消える。
「それじゃあ行くか。お前らはまた、留守番よろしくな」
マックスやニニ達を順番に撫でたりもふったりしてから、足元に置いた鞄を手にして、丁度アクアゴールドに合体して水場から飛んできたのを、そのまま鞄でキャッチする。
「ナイスキャッチ!」
「おう、ナイスキャッチだ」
鞄の中から嬉しそうな声がそう言っているのを聞き、笑ってそのまま鞄の口を閉じて背負う。
ファルコが俺の肩に留まり、モモンガのアヴィも左腕にしがみ付く。こいつらなら、一緒に来ても邪魔にならないな。
「私も行く!」
それを見たタロンが、そう叫んで俺の右肩に飛び乗って来た。
「あれ、お前も行くのか?」
「だって留守番していてもつまらないもの。たまには良いでしょう?」
「別に構わないけど、それなら落ちないように気を付けてな」
喉を鳴らすタロンの頭を笑って撫でてやり、廊下に出る。
「おはようさん」
「おはよう、今日はちょっと曇ってるな」
「おはよう、じゃあ行こうか」
廊下にはもう三人とも出ていて、揃って中央広場に向かった。
ハスフェル達は、広場の屋台で串焼きの大きな肉とか分厚い肉の挟まったハンバーガーを買ってるけど、若干昨日の酒が残ってる気がする俺は、さすがにそれはパス。
大人しく朝粥屋に行って、本日のおすすめの海老とわかめの卵がゆってのを買ってみた。
今日の付け合わせの小皿は、キャベツと塩昆布の浅漬けだ。うん、これは良い。是非真似しよう。
「何これ、めっちゃ美味い。よし、これも後で鍋に入れてもらおう」
思わずそう言いたくなるくらいに美味しかった。だけどこれは、お粥って言うより雑炊に近い感じだな。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! じゃじゃ〜〜〜ん!」
今日のシャムエル様の味見ダンスの最後は、これまた新ポーズだ。お椀で胸元を隠して身体を隠すみたいに尻尾を巻きつけてる。
「ああ、はいはい。朝からセクシーだな」
笑って尻尾を突っついてやり、持っているお椀を受け取る。スプーンで少し冷ましてから海老とわかめの卵がゆを入れてやった。
「はいどうぞ、熱いから気を付けてな」
「美味しそうだね。あ、本当だ、塩味が効いてて美味しいね」
そう言って、一口摘んで食べたあとは、嬉しそうに頭を突っ込んで豪快に食べてるシャムエル様を眺めながら、俺もやや塩味きつめのその粥を平らげた。
それからサクラに出してもらった鍋に、お願いしてたっぷり入れてもらった。付け合わせも、なんだか申し訳なくなるくらい別の皿に入れてくれたよ。
「あ、鍋の空のは……まだ有るなよしよし」
スープやシチューももう少し作りたいから、空いた鍋は確保しておかないとな。
それから、珈琲屋の屋台で本日のおすすめコーヒーをマイカップにもらい、これも美味しかったので空いているピッチャーにまとめて淹れてもらった。
「そう言えば飲み物も作っておかないとほぼ壊滅だもんな。今日は何からするかなあ」
のんびりとコーヒーを飲みながらそんな事を考えていた俺は、いつの間にかタロンと並んで座っていたはずのシャムエル様が、俺の肩からいなくなっていた事に全く気付いていなかったのだった。
「じゃあここで解散だな。俺はもう少し買い出しをしてから帰るよ」
そう言って鞄を持ち直したら、三人からものすごく驚いた顔をされた。
「えっと……どうかしたか?」
三人は揃って無言で顔を見合わせて黙って首を振った。
「まあ、ケンだからな」
「そうだな。まあ仕方無かろう」
「そうだな。ケンだもんな。まあ良いよ」
「ええと、その会話の主語は何?」
なんだかものすご〜く馬鹿にされているような気がするのは、気のせいじゃないよな?
「気にするな。じゃあ俺達は宿に戻るよ」
笑ったハスフェルにそう言って背中をたたかれ、三人は手を振って広場を出て行く。
「なんだよあいつら揃って。まあ良いや。ええとあとは何がいるんだったっけな?」
さっきハスフェル達が食べていたハンバーガー屋でいろいろ見繕って大量買いしてから俺は朝市の通りへ向かいながら、飲み終えたコーヒーのカップを鞄にしまった。
タロンは、俺の右肩に器用に座って始終ご機嫌だ。
「見晴らし良いだろう?」
「そうね。悪くないわ」
得意気なその様子に、笑って俺も辺りを見回す。
その時、いきなり背後から誰かに突き飛ばされた。
衝撃で弾かれたようにファルコが羽ばたいて舞い上がるのが見えて、俺は慌てて立ち上がろうとしたが、また膝裏を蹴飛ばされて転がされる。
「ちょっ、何するんだよ!」
大声で怒鳴って振り返ったが、背後には誰もいない。
「……え?」
周りの何人かが、まるで俺を不審者みたいな目で見て離れて行く。
「なんだよ今の……あれ、タロンがいない? え、ファルコは?」
アヴィは俺の左腕にしがみついたままだが、肩に座っていたはずのタロンとファルコがいない。それに、シャムエル様も。
慌てて上空を見上げたが、すくなくとも見える範囲にファルコは飛んでいなかった。
「ええええ? これって一体どう言う状況だ?」
地面に座り込んだまま、叫んだ俺は……どこで間違ったんだろう?




