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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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292/2115

無事の帰還と和風ステーキ

 はるか遠い水面へと上昇する水中でも、やっぱり俺の周りを円形に囲む様にして神様達は隊列を組んで守ってくれている。

 俺の周りだけで無く、上下にもレオとエリゴールがいてくれているので、文字通り三百六十度取り囲まれている状態だ。

『フランマが一緒だから万が一も無いだろうけど、ケンは怖がりだもんね』

 俺の右横に陣取るシルヴァのからかう様な声に、苦笑いするしか無い。

 だって、この湖に入るのは正直言って本当に怖かったもんな。



 だけど、今見える景色は、俺の思いとは裏腹に、いつまでも見ていたくなるくらいに本当に綺麗だ。

 水自体がほんのりと光っていて、湖底に近い深い位置の方が明るいのだ。

 つまり、上昇している俺達にしてみれば、明るい湖底から薄暗い水面へ向かっている訳で、下を見れば本当に足元が光っている様に見えるのだ。

『まあ、こんな経験、やろうと思っても早々出来ないだろうけどさ』

 ため息と共に念話でそう言うと、周りから笑う気配がする。

『大丈夫よ、ちゃんと守ってるからね』

 慰める様なグレイの声も聞こえて、俺はもう一度笑うしかなかった。


「へたれなもんで、どうもすみませんねえ」


 誤魔化す様に小さく呟いたが、どうやら全員に聞こえていたらしい。

『大丈夫よ』

『知らないんだから怖くない訳がないじゃない』

 などと、シルヴァとグレイからまた慰められてしまった。



 そのまま、時折現れる巨大なシーラカンスやアンモナイトを当然のようにやっつけながら、ゆっくりと上昇を続けた。



「おお、ようやく水面だ!」

 頭上にようやく水面が見えて来て、俺は心底ほっとしたよ。

 そりゃあ、三重に守られているのだと言う泡を信用していない訳じゃ無いけど、やっぱり俺は水の中では息が出来ない人間なんだから、出来ればもう潜水は勘弁して欲しいと思うよ。

 ちょっと泳ぐってのと、訳が違うもんな。



 そのまま岸に無事に上がり、フランマの背から飛び降りた俺は、久し振りの地面に転がった。

 見上げる遥か遠い天井にも、ヒカリゴケが一面にびっしりと張り付いてほんのりとした光を放っている。

「ああ、無事に戻って来たよ……」

 まだ巨大化したままのフランマが、面白そうに上から覗き込んでくる。

「ね、ちゃんと帰って来たでしょう?」

「ああ、ありがとうな。怖かったけど、本当に綺麗な世界だったよ」


 手を伸ばして、もふもふの首元をそっと撫でてやる。

 ああ、安定のこのもふもふ感。同じ大きさになったら、フランマがモフ度はダントツだね。



「「「「「「「「「「「ご主人帰って来たー!」」」」」」」」」」」



 突然、留守番組の従魔達全員ほぼ同時の叫び声と共に、マックスとニニを先頭に、全員揃って俺に向かって突撃して来た。

「ちょっ、待て、お前ら! なんで、全員揃って巨大化してるんだよ!」

 転がっていた水辺から勢いよく腹筋で飛び起きて、そのままフランマの影に隠れようとした。

 しかし半瞬遅く、俺はマックスとニニの二匹に勢いよく押し倒された。

 当然倒れた先は、水の中だ。


「ぶわあ! 待て、待てって、お前ら! ここ水辺だって。濡れてる濡れてる!」


 しかし俺の叫びも虚しく、興奮度最高値のマックスとニニだけで無くソレイユとフィール、タロンやウサギコンビ、セルパンにプティラにアヴィ、ファルコまでもが巨大化して飛びかかって来た。

「溺れる! すてひ……おぼふぇー!」

 何がなんだか分からないまま揉みくちゃにされて、為す術もなく水面に沈む。



「おいおい。お前ら揃ってこいつを殺す気か」



 ちょっと、本気で命の危険を感じた時、いきなり襟首を引っ掴まれて引っ張り上げられた。

「ハスフェルか……あはは、ありがとうな。ちょっと本気で死ぬかと思ったぞ」

「俺も死んだかと思ったぞ」

 笑みを含んだ優しい声でそう言われて、もう一度礼を言ってから、俺は手を伸ばして胸元に頭を突っ込んで来たニニの大きな頭を抱きしめてやった。

「ただいま。皆のおかげで無事に帰って来たよ」

「ご主人、ご主人、ご主人」

 背中側から俺の脇の下に、大興奮のマックスが、ひたすらそう言いながら鼻先を突っ込んで来る。

 笑った俺は、順番に全員を撫でて抱きしめてやりそれからようやく起き上がった。

 せっかく濡れずに上がって来たのに、ここまで来て全身びしょ濡れだよ。

 笑った神様軍団に俺も笑いながら顔をしかめて見せ、アクアゴールドに濡れた身体と装備を綺麗にしてもらった。



「なあ、腹が減ったけど、どうする? またここで食べるか?」

 そう言ってハスフェルを見ると、ギイと顔を寄せて話をしていた二人が揃って振り返った。

「ああ、それなら一つ上がろう。ここは狭いしな。上へ上がった階段の近くに広いグリーンスポットがあるようだ」

 ハスフェルの言葉に、好きに寛いでいた神様軍団も立ち上がった。

「じゃあ行くとするか」

 笑ってニニの首筋を撫でてやり、また俺を真ん中にして通路を歩いて階段を上がって行った。



 そろそろ足が痛くなって来た頃に、ようやく上の階に辿り着いた。

 そのまま通路を進んでグリーンスポットへ向かった。

 ベリーとフランマは、またいなくなってしまったようで、気配を探ると、また最下層の下にいるのが分かった。

「もう、ジェムも素材も充分過ぎるくらいにあるのにな」

 笑いながらそう言って、とにかく足元を確認してからテントを設置する。


 無事に最下層から上がって来たお祝いに、今日はがっつり肉を焼く事にした。


「今日のメニューは、グラスランドブラウンブルでステーキにするぞ!」

 全員から拍手が起こり、手分けしてお皿やカトラリーを並べてくれる。

 レオがサラダとスープを用意してくれている間に、俺はサクラに切ってもらった厚切りステーキを軽く叩いて、筋を切ってからスパイスをしっかり振りかけておく。

 並べたコンロにフライパンを乗せて、牛脂を入れて火にかける。

「じゃあ、焼いて行くぞ」

 もう一度拍手が起こり、レオがフライパンの側に来てくれたので焼くのは任せて、その間に俺は、アクアに玉ねぎのすり下ろしを作ってもらってソースの準備をしておく。

 今日のステーキソースは和風の醤油風味だ。

 材料は、醤油とみりんとお酢、お酒、砂糖と塩、それからすり下ろした玉ねぎだ。

 別のコンロにフライパンを乗せて、調味料を全部まとめて入れて火に掛ける。沸いて来たら玉ねぎのすり下ろしを投入。強火で一気に火を通したら完成だ。



「そろそろお肉が焼けるよ」

 レオの声に返事をして、それぞれのお皿に焼けたステーキを並べてから、今作った和風玉ねぎソースをかけてやる。

「ご主人、このフライパンはどうするの? 綺麗にして良い?」

 肉の焼き終わった汚れたフライパンを見て、アクアとサクラが綺麗にする気満々で俺に聞いてくる。

「ああ待って。その油は使うから置いておいてくれるか」

「分かった。じゃあまとめておくね」

 そう言って、全部のフライパンの油を一つにまとめてくれた。

「おお、ありがとうな、じゃあ他のは片付けておいてくれるか」

 コンロと油の入ったフライパンだけを残して、後は片付けてもらう。

「じゃあ、俺も食べようっと」

 席に着くと、ハスフェルがグラスに入った赤ワインを渡してくれた。

「無事の帰還に乾杯」

 受け取ってそう言ってグラスを上げると、全員が笑いながら唱和してくれた。

「無事の帰還に乾杯」



「おお、この濃厚な肉の味に和風ソースが合うよ。めっちゃ美味え」

 今日は俺もがっつり分厚いステーキだ。

 丸パンと一緒に食べていると、お皿を持ったシャムエル様が、最近流行らしい新もふもふダンスを踊りながら俺の腕に尻尾を叩きつけてくる。

「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜じみっ!」

 ポーズを取って止まったところで、笑ってステーキを切ってお皿に乗せてやる。

「わーい、今日はステーキだ」

「グラスランドブラウンブルの肉だぞ、高級品だぞ」

 胸を張ってそう言いながら、付け合わせもちょっとずつ取り分けてやる。

 嬉しそうに顔面からお皿にダイブするシャムエル様を見ながら、俺は残りのステーキを平らげた。



「やっぱ、締めはこれだよな」

 立ち上がった俺は、油が集められたフライパンを見てニンマリと笑い、サクラに、グラスランドブラウンブルの肉を切った時の切り落としの破片を集めて刻んであったのを出してもらった。

「何をするんだい?」

 興味津々で、レオが覗き込んで来る。

「締めの炒飯だよ。肉を焼いた時に出る旨い油を使ったシンプルに肉と米だけのな」

 笑ってサクラが出してくれた刻んだ肉をさっと油の入ったフライパンで炒める。火が通ったら、炊いてあったご飯を山盛り出してもらい、そのままフライパンにぶち込んで炒めていく。

 油の焼ける良い匂いが辺りに一気に香る。



「何それ、めっちゃ美味しそう!」

 目を輝かせたシルヴァが、すっかり空になったお皿を持って俺の横に並ぶと、慌てたように全員がお皿を持ってその背後に並んだ。

「一口ずつだぞ」

 笑いながらそう言い、せっせとフライパンを揺すってご飯をバラバラにする。

 塩胡椒をちょっとだけ足して、最後に黒胡椒を多めにふれば完成だ。


「はいどうぞ。って言っても一口ずつしかないぞ」

 嬉々として差し出すお皿に、そう言いながら少しずつ入れてやる。

「これはケンの分ね」

 レオが俺のお皿も取ってくれたので、お礼を言って自分の分もしっかり確保する。

「はい、シャムエル様にもちょっとだけな」

 フライパンに残ったご飯粒をせっせと全部綺麗に集めてお皿に入れてやった。


「何これ、美味し過ぎる……」

「肉の旨味が凝縮されとるな」

「これ、何杯でも食えるぞ」


 神様達の感激の声を聞きながら、俺も自分の分を口に入れる。

「うん、美味い。やっぱ、締めはこれだよな」

 残りの赤ワインをぐっと飲み干し、大満足の食事は終了したのだった。


 ご馳走様でしたー!

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