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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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水中での冒険?

「おい、大丈夫だから目を開けてみろよ」

 ハスフェルの笑った声が聞こえて、俺は恐る恐る目を開いた。


 何とそこには、完全に夢の世界が広がっていた……。


「うわっ。何これ、めっちゃ綺麗じゃん。それより、俺の体濡れてない!すっげえ!」

 自分の体を見ると全く濡れていない。

 周りを見ると、俺とフランマは綺麗なまん丸の泡に包まれていて、息も普通に出来るし体も動く。

 どうやらフランマが歩くみたいに軽く足を動かすと、泡がそのまま前に進んでいるみたいだ。

「へえ、こりゃあすげえや」

 不思議に明るい水中を見回して、俺は小さく呟いた。

 それに、俺の足はアクアゴールドがしっかりホールドしてくれているから、うっかり落ちる心配もない。

 ちょっと安心して、俺は余裕を持って周囲を見渡した。



「なあ、光の差さない洞窟の中にある地底湖の中なのに、こんなに明るいのはどうしてなんだ?」

 そう。さっきから気になっていたんだが、不思議に周りが見えるくらいに明るいのだ。

 確かに、普通よりも夜目が利く俺の目だから見えるのかもしれないけど、それにしてもこの全体にぼんやりとした明るさはどう言う訳だろう?

 首を傾げる俺の質問に、振り返ったベリーが笑って教えてくれた。

「この地底湖の天井部分にも、ヒカリゴケが沢山張り付いていたでしょう」

「ああ、確かにいっぱいあったな。おかげでランタンがいらなかったものな」

「そのヒカリゴケの胞子が水中に落ちて繁殖しているんです。とても小さな胞子ですが、僅かながら光っています。その胞子が、この湖には大量に沈んでいるですよ。なので、底に行く程こんな風に水自体がほんのり光っているように見えるのですよ。ある程度水中で大きくなったヒカリゴケは、コロニーを作って水面へ浮かび上がります」

「コロニー?」

「そうです。要は塊ですね。だいたい小指の爪の半分位の大きさです。それらは自らの放つ光で、夜光虫と言う洞窟内にいる羽虫を引き寄せます。寄って来た夜光虫がヒカリゴケのコロニーに触れると、体にくっ付いて連れて行かれるんです。そして洞窟の壁面に夜光虫が留まったら、そのまま壁に張り付いてそこで繁殖するんです。ある程度以上の大きさにまで成長すると、まとまった胞子を放出します。ごく軽い胞子は、空中を漂って水のある場所に落ちるとまたそこで成長するんです。ね、上手く出来ているでしょう?」

「へえ、すごいな……ええと、じゃあもしかして洞窟内の空気にそのヒカリゴケの胞子がいっぱいあるって事だよな……俺達、そのヒカリゴケの胞子を吸い込みまくってるんじゃね?」

 急に不安になった。そんな未知の胞子を体に入れても大丈夫なのか?

「ああ、ご心配無く。もちろん一番最初に洞窟内部の空気は調べましたよ。ヒカリゴケの胞子は人には無害です。体内に入ったヒカリゴケの胞子はそのまま排出されますから、もしかしたら、出したものが光ってるかもしれませんね」

 笑って言われて、俺は無言になった。


 体から出てくるってことは、アレだよな。つまりは光る液体と光る固形物……。


 頭の中でその様子を想像した瞬間、俺は堪えきれずに大きく吹き出した。

 駄目だ。絶対そんなの出たら誰か呼んで見せたくなる。

 だけど、それは人として駄目だよな。うん、しばらくは、出したら見ないでソッコー埋めよう。

 周りでは俺達の会話を聞いていた神様軍団も、揃って大笑いしている。




 そんな感じで緊張感の全くない会話を交わしていると、不意に大きな影が近づいて来た。

「うわっ。まじでアンモナイトだ。ってか、アレはそのまま巨大オウムガイじゃんか」

 近づいて来たのは、貝の大きさが50センチ程のアンモナイトだ。

 そのアンモナイトは、まんまオウムガイみたいに、モジャモジャの大量の触手を伸ばしてこちらに向かって来た。

「もう、ウネウネは嫌なの!」

 怒ったようにフランマがそう言い、前脚を軽く払うように振った。

 水中で小さな爆発がして、オウムガイじゃなくてアンモナイトが吹っ飛ばされる。

 そのままジェムになって貝殻と一緒に落ちるのを見て、近くにいたベリーが手もとに引き寄せるしぐさをした。

 すると、落下したジェムと貝殻が、紐で引っ張られたみたいに、一気にこちらに向かって飛んで来たのだ。

「はいどうぞ」

 それを受け止めたベリーは、当然のように近づいて来て泡同士がくっ付く。

 くっ付いた泡の中に入ってきたベリーにアンモナイトの殻とジェムを渡されて、無意識で受け取った俺は目を輝かせた。

「なあ、今のって何をしたんだ? ジェムと貝殻が引き寄せられるみたいにしてこっちに飛んで来たよな」

「だって、捕まえないと、せっかくのジェムや素材が下に落ちてしまいますよ」

「いや、それは勿論そうだから確保してくれるのは有り難いけど、どうやって引き寄せたのかなって思ってさ」

 話しながらもらった素材とジェムを、アクアゴールドに飲み込んでもらう。

「ああ、そう言う意味ですか。魔力を縄のように()り合わせて目的のジェムや素材に絡めて引き寄せるんです。まあこれが出来るのはそれなりに魔力がある者でないと出来ませんけれどね」

 ほお、成る程。うん、さっぱり分からん。

 いつもの如く、明後日の方向にぶん投げようとしたその時、ベリーの言葉を聞いた俺は慌てて投げるのをやめた。

「ケンの魔力も相当高いですからね。せっかくですから教えて差し上げましょうか?」

「ええ? それが俺にも出来る?」

「そうですね。魔力的には充分可能ですよ」

「教えてください!」

 身を乗り出す俺に、ベリーは笑って頷いてくれた。



 話をしている間も、俺達は湖底に向かってどんどん進んでいて、気がついたらもう湖底に到着していた。

 頭上を見上げると湖面は見えない。周り中全部水の中だ。


 ええと、のんびり話してる間にどれくらい沈んだんだろう?

 ちょっと本気で怖くなったが、今更ここで騒いでも何の役にも立たない。迷惑になるだけだから涙を飲んで我慢するよ。



「それで、目的のお宝は何処にあるんだ?」

 周囲を見回すが、少なくとも見える所には何も見えない。

 割れた鍾乳石がゴロゴロ転がっているだけで、俺のいる少し先に、割れた鍾乳石の合間に巨大なアンモナイトの貝殻が挟まっているのが見えた。

「アレって拾っても良い?」

「ええ、勿論ですよ。中々の大物ですね。せっかくですから頂いて帰りましょう」

 ベリーにそう言われて、俺はフランマに合図して巨大なアンモナイトの貝殻に向かってもらった。

「デカい。直径10メートルはあるぞ」

 やや斜めになったまま鍾乳石の隙間に挟まったそれは、ちょっとしたビルくらいはあった。

「うわあ、これ、どうやって取れば良いんだ?」

「じゃあ、丁度良いですから、彼らがお宝探しをしている間に、ちょっと練習してみますか?」

 そう言われて周りを見ると、手を上げた全員があちこちに広がっていくのが見えた。

 成る程。ローラー作戦で地底湖の湖底を調べる訳だな。

「俺は参加しなくて良いのか?」

「まあ、良いんじゃないですか」

 にんまりと笑ったベリーに何だか嫌な予感がしたんだが、今更断るのも変なので、とにかくその魔力を縄にするって言うやり方を教えてもらう事にした。


 だけど、これがもう全くイメージ出来なくてかなり苦労したよ。

 まず、自分の魔力と言われても、俺には何の事だかさっぱり解らない。

 しばらく考えて、俺は背中の鞄から手を拭くときに使っている布を取り出した。薄い、シンプルな手拭いみたいな感じのやつだ。


「これを、撚り合わせる……」

 手にした布を、雑巾を絞る時みたいに捻って握る。

 頭の中では、言われた通りに自分の中にあると言う魔力を探す。


「あ……これかな?」


 何と無くだが、何かあるような気がする。

 目を閉じたまま、握った手拭いをイメージしてそれを細長く捻っていく。

「良いですよ。そのまま投げてみましょう」

 嬉しそうなベリーの言葉に、俺は目を閉じたまま、出来上がった紐を軽くアンモナイトに向かって投げる映像を思い浮かべた。

 こう言うのって、ネットで映像を見ているんだと思えば、容易く想像出来るよ。そのまま軽く引っ張ってみる。



 ガン! って感じにもの凄い衝撃が走り、ベリーの感心したような声が聞こえる。

 恐る恐る目を開いた俺が見たのは、泡にへばり付くみたいに俺の視界一杯に広がるアンモナイトの渦巻きだった。


「ええ、ちょっと待ってくれよ! それは駄目だって!」

 叫んだ俺は間違ってないと思う。

 だって、その瞬間、巨大なアンモナイトに圧迫された泡がパチンと音を立てて弾けたのが見えたんだぞ。



 水中で命の綱である空気の泡が弾けたらどうなるか……。

 駄目だこれ。

 俺の異世界人生、終わったかも……。

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