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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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252/2115

お疲れ様でした!!

 ボアカツサンドの昼食を早々に食べ終えた俺は、果物を少しだけ食べて、万能薬入りの水も飲んで体力を完全回復させた。

 少し早めに売り場に戻るつもりだったのだが、その前に気になっていた外のチョコの様子を見ておく事にした。



 裏の扉を開けて裏庭に出て通路を見ると、何とチョコとタロンが本当に遊んでいたよ。

 チョコの大きな足の間を、まるで八の字を描くようにタロンがスルスルと通り抜けては足首に擦り寄っている。

 チョコがゆっくりと歩き回る時には、お互いの顔を見ながらまるでステップを踏むかのように、前に後ろにこれまたタロンがまるで踊っているかのように足の間をすり抜けながら動き回っている。

 時折、チョコが頭を大きく下げてタロンの前まで持って行き、仲良しの挨拶、鼻チュンまでしているではないか。

 あの子達が何かする度に、行列している人達からは歓声が上がり時に拍手まで沸き起こっている。


「可愛い!」

「あんなに大きさが違うのに、仲良しなのね」

 二匹の大きさの違いにも関わらず、仲睦まじい様子に、皆感心しているようだ。

 俺も正直言って驚いた。

 いくら、言葉が分かるって言ったって、あれだけ大きさが違えば一歩間違えたら大惨事だろうに、タロンは全く怖がる様子が無い。


「この子達を見たい為に、もう一度並んじゃったわね」

「だって、可愛いんですもの」

 顔を見合わせて笑い合っているのは恐らく二十代くらいの女性二人連れだ。

「今度は髪飾りを見たいんだけど、まだあるかなあ」

「私は指輪欲しかったんだけど見当たらなかったから聞いてみたの。そうしたら、有るのだけれど、今日は試着出来ないから出してないんだって、試着出来るから後日改めて来てくださいって言われたわ」

「そうなの? 私も、石は付いてなくていいから、ちょっと細かい飾りのある綺麗なのが欲しいのよね」

「じゃあ、今度一緒に来ましょうよ。他にも沢山あったから、じっくり見たいもの」

「そうね。来週くらいには、もう落ち着いてるわよね」

 楽しそうな女性の会話が聞こえてきて、俺は嬉しくなった。

 オンハルトの爺さんのアドバイスで、急遽追加した単価の安い髪飾りやペンダントは大好評のようだし、予想通り、シンプルな指輪が欲しいという方も多いみたいだ。

 安心して中に入った俺は、急いで店に戻った。



 まだまだ表には途切れる事なく人が並んでいる。心配していたような混乱もなく、何とか上手くいきそうだ。

「さて、もうひと頑張りするとしますか」

 大きく伸びをしてから裏方に入った。商業ギルドから来てくれた応援の人達はさすがに手馴れていて、次々と品出しをしてくれている。

 交代して時々休みながら、途切れないお客様の波を、ひたすら捌き続けた。



 日が暮れても全く人の波は途切れず、見兼ねたギルドマスターの提案で、閉店の為今日はここまで。と、途中で行列に並ぶのを止めてもらい、ようやく終わりが見えたのだった。

 最後の一人にお帰り頂いた後、ほぼ全員がその場で言葉も無く座り込んだのだった。

 無言で休憩室に行った俺は、サクラに頼んで万能薬入りの水を出してもらい、その水でお湯を沸かして紅茶とコーヒーを大量に入れた。

 ちょっと考えて砂糖を入れて甘くしてやり、氷を大量に作って砕き一気に冷やしてやる。

「疲れた時は、甘いのが良いもんな。おおい、冷たいお茶とコーヒーを用意したから、こっちへ来て飲んでくれよ」

 店に座り込んでいる全員を、なんとか呼び寄せて万能薬入りの飲み物を振る舞った。

 手持ちにあった、屋台の揚げ芋やお団子みたいなのも出しておくと、皆喜んで食べていたね。

 途中で思い出してログインボーナスチョコとメロンパンも出してやった。



「夕食はどうする? 何でもよければここに出すけど?」

 動けないなら、ここで食べても良いかと思っていたのだが、万能薬入りのお茶の威力は凄かったみたいです。

 死んだ魚の目みたいになっていたクーヘン達も一気に元気になり、相談の結果、閉店作業が終わったら、商人ギルドのアルバンさん達も一緒に、ホテルハンプールにチケットを使って夕食を食べに行く事にした。

「戻ったら、在庫を確認してジェムをもう少し割っておくか」

 ガラガラになった在庫の棚を見て、ちょっと感心した。今日一日でどれだけ売れたんだよ。

「そうですね。今日一日で在庫はかなり減りましたからね。まだ大丈夫ですが時間があれば在庫の少ないものは割っておくべきでしょうね」

 俺の呟きに、クーヘンも苦笑いしている。

 彼の背中には空にした収納袋があり、とりあえずレジがいっぱいになったら、売上金はそこへ突っ込んでいたのだ。

 今日一日の売り上げが果たして幾らになるのか、気にならないといえば嘘になるよな。

「クーヘンは取り敢えず今日の売り上げを数えておけ。必要なら売上金はギルドで預かるぞ」

 ギルドマスターがそう言い、売上金の入金の為二人で一旦商業ギルドへ向かった。

 そうだよな。無用心だし、ギルドは基本24時間営業だから、売上金は口座に入金しておくべきだよな。

 二人を見送った俺達は、装飾品の在庫の確認と追加はルーカスさん達に任せて、その間だけでもジェムの在庫を確認する事にした。



 驚いた事に、グレイとシルヴァの二人が忙しい合間を縫って、足りなくなりそうなジェムを割って袋詰めをしてくれていたのだ。

「はい、これが追加で作ったジェムの数よ」

 ジェムの在庫帳に書く時間が無かったらしく、取り出した種類と数が全部別紙にまとめて書かれていた。

 それは確認してネルケさんが書いてくれるというので任せておき、俺達は在庫を数えて足りない分のジェムを取り出してはひたすら割り続けた。

 ギルドマスターとクーヘンが戻って来たところで手を止めて、とにかく夕食を食べにホテルハンプールへ向かった。従魔達は、ベリーが見てくれると言うので、今回はお留守番だ。

 大活躍だったチョコには果物をたっぷりと出し、タロンにはグラスランドチキンの肉を出しておいてやった。





「お疲れ様でしたー!」

 最初の乾杯の後は、もう各自好きに食べている。

 皆、昼は落ち着いて食べられなかったので、遠慮無く思いっきり食べさせてもらいました。うん、やっぱりここの料理は美味しい!

 またしても積み上がるお皿の数々に若干申し訳ない気持ちになったが、支配人さんが、これだけ残さず気持ちよく食べて頂けると、こちらまで嬉しくなります。と、満面の笑みで言ってくれたので、後半もがっつり美味しく頂きました。



「明日からはどうなるんだろうな? 本当に大丈夫か?」

 さすがにいつまでもは手伝っていられないから、何とかクーヘン達だけで回す方法を考えるか、新たに人を雇うことを考えるべきだと思う。

 今後を心配する俺に、ギルドマスターが笑って請け負ってくれた。

 何でも開始一年目は、今日のように臨時の応援で人を寄越してくれたりするんだって。もちろん後日、日当は支払わなければならないんだけど、それもギルドの補助が有るんだって。

 すげえぞギルド。経営初心者には有り難すぎる事だらけだ。

「しかし、まさかここまでの人出になるとは思いませんでしたからね。さて明日以降はどうなる事やら」

 笑って黒ビールを飲んでいたギルドマスターだったが、突然真顔になった。

「ところでケン。ちょっとお聞きしてもよろしいですか?」

「ええ、何ですか? 改まって」

 飲んでいた白ビールのジョッキを置いて振り返ると、身を乗り出すギルドマスターのアルバンさんと目が合った。

「あの、カウンターの背後にある値段と品名を書いた表や、ジェムの名前を書いた木札と受付用の赤い二枚ひと組の木札は、全て貴方の発案だと聞きました。あれは何処で?」

「いやあ、どうすれば良いかと思って色々考えた結果です。まさか、あんなに上手くいくとは思ってませんでしたから、正直言って俺もびっくりです」


 まさか、あれは異世界のファストフード店や食堂での食券方式だなんて言えませんって。


 しばらく沈黙していたが、アルバンさんは小さく笑って引いてくれた。

「私も商売をして長いですが、あのような効率的な販売方法は初めて見ました。大変失礼なお願いですが、真似させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ええと、どの辺りを?」

「カウンター上部での品物の金額や在庫品の表示方法、それから、あの木札を使った受注方法です」

 無言でクーヘンと顔を見合わせる。

「ええと、別に構わないよな?」

「そうですね。私達に断らなければならないような事でしょうか?」

「だよな?」

 何度か頷き合い、アルバンさんを振り返る。

「どうぞお好きに。あ、木札は入れる棚を含めて、全部リード兄弟に作ってもらいましたよ」

「成る程。後程彼らからも話を聞いておきます」

 真顔のアルバンさんは、そう言って何度か頷いたきり、また食べ始めた。

「……別に、特別な事はしてないよな?」

 色々と考えてみたが、特に問題は無いよな? って事で、この件はギルドマスターに任せる事にしたよ。

 さて、明日はどうなるんだろうね?

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