表彰式でも大騒ぎ
「やりましたー! 早駆け祭りの最後を飾る三周戦の勝者は、ヘルハウンドのマックスに乗った魔獣使いのケン! あの最後のもの凄い追い込みを君は見たか!」
司会者の大声が響き渡る。
だけど俺は、呆然としたままだった。
マジで? マジで俺が勝ったのか?
割れんばかりの大歓声の中、ハスフェルとギイが笑顔で駆け寄って来て俺の腕や背中を手を伸ばして叩く。クーヘンは、手が届かなかったので笑顔で拳を突き上げてくれた。そして、何故かウッディさんが来て、満面の笑みで手を伸ばして俺の足を叩いて行った。
よく見ると、彼らの胸元にもうっすらとそれぞれ違う色が付いている。
係の人達が馬に乗って駆け寄って来た。
俺に、彼らは笑顔で大きな金の縁取りの付いた真っ赤なマントのようなものを被せる。
そしてマックスの首の辺りに大きな布を被せて行った。何だこれ?
ハスフェル達にも係の人が何か渡している。
「さあ、勝者の顔を観客の皆様に見せてあげてください」
「はあ……」
マントを渡してくれた係員にそう言われたが、何しろ初めての経験でさっぱり状況が掴めない。
ええと、テントに戻るのか? それとも、このまま表彰式なのか?
どうしたら良いか分からず呆然としていると、目を輝かせたクーヘンが駆け寄って来た。
彼は金色の縁取りの付いたタスキみたいなのを右から左に斜めに掛けている。そして、チョコの首筋、丁度、鞍の前に大きなバスタオルくらいの大きさの銀色の縁取りの布が掛けてある。
そこには、左右に大きく『第四位』と書いてあった。
振り返ってハスフェルとギイを見ると、彼らはクーヘンがしているのと同じ細長いタスキみたいなのを首からぶら下げている、それはどちらも銀色の縁取りがしてあった。
クーヘンみたいに斜めがけになっていないのは多分、あの長さでは、彼らはたすき掛け出来ないんだろう。胸板分厚過ぎで……。
そして彼らの従魔にも同じように大きな布が掛けてあり、ハスフェルのところに『第二位』、ギイのところに『第三位』の文字が大きく描かれていた。
って事は、俺が一位でハスフェルが二位、ギイが三位でクーヘンが四位だって事か。
成る程。さっきマックスに掛けた布は、順位が描かれた布な訳だ。
少し身を乗り出して横から掛けられた布を見てみると『第一位』の文字が確かに見えた。
ウッディさんの乗った馬のレーラーには『第五位』と書かれた布が掛けられている。またウッディさんにも、クーヘンとは違う白い縁取りの付いたタスキが掛けられていた。
彼の後ろにいるウッディさんよりも、もう少し歳上っぽいロマンスグレーの髪の男性にも白い縁取りのタスキが掛けられていて、乗っている栗毛の馬には『第六位』と書かれた布が掛かっていた。
ああ、確かあの人はウッディーさんとコンビを組んでる同じ大学の助教授だって言ってた、確か名前は……人情派だけど怒ると怖い、鬼教授のフェルトさんだった筈。
「ケン、行きましょう。貴方が一番先頭です」
まだ呆然としていると、目を輝かせたクーヘンに言われて目を瞬く。
ええとそれはつまり、ウイニングランって事か?
ようやく頭が回り始め、周りを見回すと殆ど全ての人が俺を見ていた。
どこを向いても、人、人、人だ。
皆、笑顔で拍手している。
中には賭け券を握りしめて何か叫んでる人がいて、ちょっとしたカオス状態だ。
不意に俺は、全財産を賭けると言ったあのおっさんを思い出して、ちょっと笑った。
大歓声に応えて手を振ると、これまたもの凄い大歓声が沸き起こってちょっと怖かったのは……内緒な。
係の人に案内されて、さっき全力で走った道を、ゆっくりと六人並んで一周した。
どよめきと、大歓声と、拍手と花吹雪。そして舞い飛ぶ紙くずになった賭け券の束。
ようやく勝ったんだって実感が湧いて来て、大歓声に応えて手を振り続けた。
俺達がウイニングランで一周回っている間に、本部前の舞台には即席の表彰台が設けられていた。
とは言っても、オリンピックの表彰台みたいに段差は無く、広い舞台の前側に、観客が下がって広い空間が出来ているのだ。舞台の上には一段高い台が作られている。
「おかえりなさい!新たなる勝利者達よ。さあどうぞ。従魔と共に表彰台へ!」
司会者の声に頷き、俺達は全員乗っていた従魔から降りる。
舞台では、司会者の人と一緒に、豪華な服を着たエルさんが待っていた。
「ではまず、個人戦の表彰式を行いたいと思います。まずは第六位! 人情派の鬼教授フェルトと馬のナーデルだ! 念願の初の表彰台だぞ! ご祝儀テストは本当に実施されるのでしょうか? 学生諸君。報告は冒険者ギルドまでお願いだ! 私も気になるぞ!」
司会者の言葉にどっと会場が沸き、笑いと拍手が起こった。
「ご祝儀テスト? あ、つまり簡単な試験で単位をくれるって事か?」
ちょっと考えてそう呟いたら、近くにいた職員が笑いながら教えてくれた。
「そうなんですよ。フェルトさんはずっと参加する度、自分が表彰台に登れたら、誰でも分かる問題の試験をしてやるって言い続けてたんです」
「そりゃあ良いや。じゃあ今年は、単位に苦労する学生が減りそうだな」
「だと良いですね」
周りでも、皆笑っていた。
フェルトさんは舞台に上がり、係員が手綱を引いて舞台の前の空間に、馬のナーデルを引いて行った。
「第六位の副賞は、ホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケット10枚!」
花束と一緒に、一通の封書が手渡された。
それを見た舞台手前側に陣取っている学生達が大喜びしている。だけど、どう考えても数が足りないぞ。
「次は個人戦第五位! 走る知性派! プロフェッサーウッディと馬のレーラー! こちらも念願の、初の表彰台だ!」
同じく係員が馬のレーラーの手綱を引いて舞台の前に出て行き、ウッディさんも満面の笑みで舞台に上がった。
「第五位の副賞は、同じくホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケット30枚!さあ、誰が貰えるのか、学生諸君のチケット争奪戦も興行に出来そうです」
司会者の言葉に、また会場がどっと沸いた。
「そして第四位! クライン族の小さな戦士。クーヘンとイグアノドンのチョコレートだ! 最後の追い込み及ばず!しかし、見事な第四位です」
呼ばれたクーヘンは、まずチョコを引いて舞台の前に進み出て、二頭の馬から少し離れた所にチョコを並ばせた。
「良い子だから、ここにいてくれよな」
優しい声でそう言い、チョコの額にキスを贈ってから舞台へ上がった。
チョコの隣には係員が立っているが、手綱は垂れたままだ。
「第四位の副賞は。同じくホテルハンプールの宿泊券と、同じくホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケット30枚だ!」
花束と一緒にクーヘンにも封書が渡される。
笑顔でそれを受け取るクーヘンにも大きな拍手が贈られた。
「さて、それでは第三位! 金髪の戦神ギイとブラックラプトルのデネブ! いやあ、惜しかった。正に僅僅差の第三位でした!」
笑ったギイも、デネブの手綱を引いて舞台前へ自分で行き、チョコの隣にデネブを並ばせた。
額を叩いて、そのまま舞台正面に手をついてヒラリと跳んで上がった。
どっと拍手が起こる。学生達も大喜びしている。
「何をやってるんだよ、子供か。あいつは」
文句を言いながらも笑ってるハスフェルも楽しそうだ。
「第三位の賞は、ホテルハンプールの宿泊券と、ホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケット40枚だ! そしてここから賞金も出るぞ! 第三位の賞金は金貨30枚!」
拍手が起こり、ギイにも花束と一緒に封書が渡された。
「そして第二位! 銀髪の戦神ハスフェルとグレイハウンドのシリウス! 戦神の名に恥じぬ見事な戦いぶりでした!」
ハスフェルも自分でシリウスの手綱を引いて出て行き、デネブの横に並ばせた。
そして、またしても舞台正面から手も付かずに軽々と跳び上がった。
大喜びの観客から拍手が沸き起こる。
ちょっと待て、お前ら!
何、俺の登場ハードル爆上げしてくれてるんだよ!
「第二位の副賞は、ホテルハンプールのスイートルームの宿泊券と、ホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケット50枚だ! そして、第二位の賞金は、金貨50枚!」
大歓声と拍手が沸き起こる。
平然と花束と封書を受け取るハスフェルは、舞台袖で一人残された俺を見てニンマリと笑って舞台を指差したのだ。
……俺に一体、何をしろと?
呆然としていると、無情にも司会者が俺を見た。
「では皆様! お待たせ致しました。早駆け祭りの最後を飾る三周戦の一位は、魔獣使いのケンとヘルハウンドのマーーーックス! 最後の本部前の大接戦を制しての勝利です。いやあ、最後の加速は本当に見事でした! どうぞ皆様、勝者に拍手を!」
仕方がないので、マックスの手綱を引いて舞台前に進み出た俺は、とにかくシリウスの横にマックスを並ばせた。
「じゃあ行ってくるよ」
鼻面を撫でてやると、いきなりシャムエル様が右肩に現れた。
「勝者に祝福を」
そう言って頬にキスを贈り、唐突に消えてしまった。
「あれ、消えちゃったぞ? まあ良いや」
仕方がないので、俺も舞台正面から両手を突いて跳び上がった。
一度で上がれる自信は無かったんだが、軽く跳んだだけで一気に舞台に上がることが出来た。
「おお、やるじゃん俺」
小さく呟いたら、聞こえたらしくハスフェルとギイが笑ってる。
「第一位の副賞は、ホテルハンプールのスイートルームの宿泊券と、同じくホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケットなんと100枚! そして賞金は金貨100枚だあ!」
これまた大歓声が沸き起こって、舞台の床が振動するぐらいだったよ。
エルさんから花束と封書を受け取りながら、こんなに沢山豪華料理のチケットをもらっても、絶対使いきれないのになあ、なんて呑気に考えていたのだった。




