参加者紹介!
「それでは皆様お待ちかね、早駆けレースの花形。三周戦の参加者の紹介に移らせて頂きます!」
司会者の声が会場中に響き渡り、物凄い大歓声が沸き起こる。
飛び上がったのを誤魔化すように、大きく深呼吸をする。
「単に、ちょっと面白そうだから出てみようって思っただけなのに……どうして、こんな大ごとになってるんだよ」
苦笑いしながら呟いた俺は……間違ってないよな?
「紹介は、申し込み順なんだ。で、エル曰く、一番最初はあの馬鹿二人らしい」
ハスフェルの遠慮ない言葉に、前にいたウッディさんが吹き出したよ。
「馬鹿って……言うなあハスフェルさん」
「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い?」
ニンマリと笑うハスフェルを見て、もう一度盛大に吹き出す。
幸いな事に会場の騒めきのおかげで、吹き出す音が聞こえたのはごく近くにいた人達だけだったみたいだ。
「最初は、前回大会の覇者にして、現在個人戦九連勝のカスティ。そして、チーム戦九連勝中の最強のチーム名は、テンペスト! 騎乗するのは、馬のストームだ! 早駆け史上最強と名高いその走りをとくと見よ!」
大声の司会者の紹介を聞いてから、椅子に座っていたうちの一人が立ち上がり、手を振りながら舞台前側の階段から一人で上がってきた。
振り返って会場に手を振る。
大歓声と、それに負けないぐらいのブーイングが聞こえて、舞台袖にいた俺達は、揃って吹き出しそうになるのを必死で我慢した。
会場中のブーイングにも、カスティは平然としている。
「次は、カスティと最強のコンビを組むポルタ! そして騎乗するのは馬のサンダーだ! 現在、彼は個人戦二位が九回! もう二位はいらない! 目指すは頂点のみだ! 二人のチーム名は、皆様ご存知テンペスト!」
またしても大歓声とブーイングが沸き起こる。
ポルタと呼ばれたもう一人の馬鹿も、立ち上がって舞台に上がってきた。
しかし、何、この暑苦しい紹介っぷりは!
まさかと思うけど……俺の時には普通に紹介してくれるよな?
だが、そんな俺の希望も虚しく、次々と壇上に上がる参加者達全員に、なんだか物凄い紹介をするのだ。
嵐を呼ぶ男だの、走る火の玉だの、正直言って、聞いてるこっちが恥ずかしくなるレベルだ。
もう、恥ずかし過ぎて聞いていられなくなり、途中から俺はマックスに顔を埋めて現実逃避したよ。
ああ、癒されるよ、このむくむくも……。
「次は、走る知性派! 現役の大学教授! プロフェッサーウッディ! 騎乗するのは馬のレーラー! チーム名はチームマエストロ!」
手を上げて舞台へ出て行く後ろ姿を見ながら、紹介を聞いて驚いた。
「へえ、ウッディは大学の先生なんだ」
見ていると、馬鹿共の椅子の後ろにいた四人が、彼が舞台に出て来た途端に、大きな旗を取り出して振り回し始めた。
「あ、旗に何か書いてあるぞ。なになに……がんばれ教授! 負けるな教授! 応援してます! 単位ください!」
最後の一人の旗に書かれた文字を読んで、俺は堪える間も無く吹き出した。
「おお、こっちの世界でもこう言う事する奴いるんだ。やっぱり学生は最高だな」
俺の呟きに、シャムエル様も笑っている。
旗に書かれた文字に気づいた近くにいた人達が揃って笑い出し、遅れて会場にいた他の人達も気付いて笑い出し、会場は大爆笑になった。
「応援ありがとう!だけど単位は自力で取れ! 馬鹿もんが!」
司会者のマイクみたいなのを強奪したウッディさんが、観客席で旗を振る学生さんに向かってそう怒鳴り、またしても会場は笑いに包まれる。
「あれ、毎年恒例なんですよ。それで、ウッディさんが怒鳴り返すところまでが様式美です」
横にいたスタッフの人が、笑いながら教えてくれる。
へえ、あれが毎年恒例なんだ。ウッディさん、最高だな。あんな教授の下にいたら毎日大学生活も楽しそうだ。
すっかり笑って和んでいたら、ウッディさんが司会者にマイクを返して馬と一緒に後ろに下がる。
そこで我に返った。
もう舞台袖にいるのは、俺たち達四人だけだ。
「さあ、ここから今年の大番狂わせを予感させる新しい面々です。順番に紹介しましょう。まずはハスフェル! この素晴らしき肉体美を見よ! まるで銀髪の戦神の化身だ! 騎乗するのはグレイハウンドの亜種のシリウス! チームは金銀コンビ!」
「うわあ、正体バレてやんの」
俺の呟きに、シャムエル様が大笑いしている。
「司会者恐るべしだな」
苦笑いしながらそう言い残し、シリウスと一緒に舞台へ出て行く大きな後ろ姿を見送る。
彼らが出て行くと、今までで一番大きなどよめきと大歓声が沸き起こった。
「次は、もう一人の戦神の化身!金髪の美丈夫ギイ! こちらも、ハスフェルに負けず劣らずの素晴らしい肉体美だ! 騎乗するのはなんと! ブラックラプトルの亜種、デネブ! ハスフェルとのコンビでのチーム名は、金銀コンビだ! これ以上無い最高のチーム名だ!」
ギイがデネブと一緒に出て行くと、先程よりも更に大きなどよめきが起こった。
「本当に恐竜よ」
「うわあ、すっげえ。本当にあれをテイムしたのかよ」
観客の声が聞こえて、俺は小さく笑った。
まあ、普通は恐竜なんて見る事無いんだから、そうなるよな。
「次は、クライン族からの参戦で、小さな戦士クーヘン! 騎乗するのは、これも恐竜のイグアノドンのチョコレートだ! チーム名は、愉快な仲間達!」
振り返ったクーヘンと手をハイタッチして、前を向いた彼の背中を叩いてやる。チョコと一緒に舞台へ出て行った彼を見て、またしても会場からの大きなどよめきと、チョコを見ての感想があちこちから聞こえた。
「クーヘン! 頑張れ!」
「ガーンーバーレー!」
突然マーサさんの声が聞こえて、その後にも何人もの応援する声が聞こえる。
舞台の近く、やや横側にマーサさんの姿が見える。
多分、隣で手を振り回して応援しているのが噂のお兄さん一家なんだろう。その周りにも、小柄な団体がみえるから、恐らくあれが、街にいるクライン族の仲間の人達なんだろう。
気付いたクーヘンが嬉しそうに笑ってそっちに手を振ると、また大歓声が沸き起こった。
次は誰だろう? なんて、呑気に考えて自分に突っ込む。最後の四人でもう三人が出て行ったんだから……。
あれ? もしかして、俺が最後……?
「さて、最後の一人になりました。金銀コンビの乗る従魔達まで、全部こちらの彼がテイムしたそうです。確かに紋章は皆同じですね! これは凄い! では、紹介しましょう。超一流にして史上最強の魔獣使い!ケン! 騎乗するのは、ヘルハウンドの亜種のマックス! そしてチーム名は、愉快な仲間達!」
今までで一番大きな地響きのような物凄い大歓声が沸き起こり、かなりビビりつつ俺は舞台に上がった。
うわあ、全員が俺を見てるよ。
誤魔化すように笑って手を振ると、またしても物凄いどよめきと大歓声になった。
なにこれ、怖い。
舞台に、マックスと並んで立つ。
あの馬鹿達が最初に舞台の袖へ下り、順番に先に紹介された者から下がって行った。
最後まで舞台に立たされてて大注目を浴び続けました。
もう、ビビりでヘタレな俺は、正直言ってちょっと泣きそうだったよ




