二日酔いの朝食メニュー
「おおい、飯の準備が出来たから起きてくれよ〜〜」
一通りの二日酔いメニューを机の上に並べた俺は、にんまりと笑うとまだ熟睡中のパロットさんのところへ行き、大きな声でそう話しかけながらスライムベッドを思いっきり揺らしてやった。
当然、ちゃんと心得ている他のお二人を確保している子達までが、それに合わせて一緒になってゆっさゆっさと揺れてくれたもんだから、突然の事に飛び起きたパロットさん達の悲鳴が揃って部屋に響き渡り、俺は思いっきり吹き出したのだった。
「あいたた……ううん、さすがにちょっと飲みすぎたな……」
飛び起きたパロットさんが頭を抱えて唸るようにそう呟き、まだ寝転がったままで呆然と天井を見上げている。
「そろそろ起きてくださいよ〜〜」
笑ってもう一度声をかけてやると、もう一回唸り声を上げたパロットさんがゆっくりと腹筋だけで起き上がった。
おお、さすがは上位冒険者。よく鍛えてるねえ。
二日酔いでも全くブレていないそのなめらかな動きに密かに感心していると、大きなため息をひとつ吐いてからゆっくりと目を開いたパロットさんが、自分が座っているスライムベッドを見た。
しばしの沈黙の後、周りを見回して同じくスライムベッドでまだ呆然としているユーニンさんとクラウスさんを見てから、もう一回自分の座っているスライムベッドを見た。
それからゴシゴシと目を擦り、もう一回周囲を見渡してまだ寝転がったままなハスフェル達のスライムベッドも見た。
でもって、もう一回ゴシゴシと目を擦り、もう一回周囲をぐるっと見回して、ここでようやく俺の存在に気が付いた。
「ケ、ケンさん……これって……今俺が寝ているこれって、スライム……だよな?」
「ええ、そうですよ。俺の従魔のスライム達が、いつもやってくれるスライムベッドです。なかなかの寝心地だったでしょう?」
にっこりと笑ってそう言ってやると、もう一回自分が座っているスライムベッドを見てから、パロットさんはパタリと仰向けに倒れ込んだ。
「最近テイマーになった冒険者の知り合いが、スライムは良いぞと力説しているのを聞いても、へえ、そうなのか。くらいにしか思っていなかったが……これは予想以上だ。めちゃくちゃ寝心地良い。冗談抜きで、俺もテイマーになりたい」
おお、この街でもテイマーさん達が新たに誕生しているみたいだ。
「パロットさんがあんな事を言ってるけど、どう? 才能ありそうかな?」
俺の右肩にいつの間にか座っていたシャムエル様に、こっそり確認してみる。
「ううん、どうだろうねえ。全く才能が無いってわけではなさそうだけど……魔獣使いになるのはちょっと無理そうだねえ。仮になれたとしても、テイマーくらいかなあ?」
「あれ、そうなんだ。でも全く才能が無いわけじゃあないのなら、スライムくらいはテイム出来るのかな?」
「そうだね。スライムとか小動物系くらいなら、まあなんとかなる……かな?」
「そっか、じゃあ後でご本人に改めて確認してみて、一度郊外へ出てチャレンジさせてみてもいいかもな」
改めて起き上がったパロットさんが、スライムベッドを優しく撫でながらお礼を言っているのを見て、思わずちょっとお節介を焼く気満々になっている俺だったよ。
ちなみに、ユーニンさんとクラウスさんも、スライムベッドをべた褒めしてくれた挙句、俺もテイマーになりたいと二人揃って真顔で言っていたよ。
一応シャムエル様曰く、彼らもパロットさんと同じでテイマーとしての才能は皆無というわけでは無いらしい。
スライム程度ならなんとかなるみたいなので、こちらも後で希望を聞いて、ちょっとくらいは面倒見てやってもいいかもしれない。なんて考えていた俺だったよ。
「おお、飲んだ日の翌朝にこれを当たり前のように出してくれる、ケンの有り難さ、だな」
「そうだな。本当にいつもながら有り難いよ」
ようやく復活したらしいハスフェルとギイが並んでいる鍋を見ながらしみじみとそう言い、オンハルトの爺さんもその横で笑いながら頷いている。
「え〜全員二日酔いみたいなので、今朝は二日酔いメニューです。こっちから順番に、玉子粥と、アオサ海苔のお粥、こっちは湯葉と裂いたササミ入りお粥で、こっちが野菜と玉子入り雑炊。最後のこれは、ちょっと濃厚味の鶏がらスープと豚骨スープのつみれ入り雑炊だよ。お好きなのをどうぞ」
お椀を一つ手に取りそう説明すると、皆嬉しそうにそれぞれお椀を手に好きな鍋に突撃していった。
俺は少し考えて、野菜と玉子入り雑炊とあおさ海苔のお粥をそれぞれのお椀に取り分けた。
「ええと、シャムエル様は何がいい?」
「じゃあ玉子粥と、鶏ガラと豚骨スープの雑炊をここにください!」
いつもよりちょっと大きめのお椀を二つ差し出されて吹き出した俺は、そのお椀を受け取りご希望の玉子粥と鶏ガラと豚骨スープの雑炊を、それぞれこぼさないように気をつけつつたっぷりと入れてやった。
「一応、お供えしておくべきかな」
俺が小さくそう呟いた瞬間、ササッと動いたスライム達が速攻でいつもの簡易祭壇をセットしてくれた。
それを見て、目を見開いて驚いているパロットさん達と、得意げにビヨンと伸びるスライム達。
俺には分かるぞ。あれはドヤ顔だ。
笑った俺は、そのまま自分の分のお椀を簡易祭壇に並べてからそっと手を合わせた。
「ええ、おはようございます。昨日は飲みすぎて全員揃って二日酔いなので、今朝はお粥と雑炊です。少しですがどうぞ」
小さな声でそう呟くと、いつもの収めの手が現れて俺を何度も撫でてから、お椀を撫でて持ち上げる振りをしてから消えていった。
「ちゃんと届いたみたいだな。よし、じゃあ食べよう」
酷い頭痛こそ治ったものの、まだ若干フラフラしているし口の中が乾いている。
改めて席に座ってから手を合わせた俺は、まず麦茶を取り出して一気飲みしたのだった。
「はあ、朝飯までご馳走になってすまなかったな」
「でも、どれも最高に美味しかったよ」
「確かにどれも最高に美味かったな。では次は、ドワーフおすすめの地酒を持ってこよう」
嬉しそうな三人に、ちょっとだけドヤ顔になった俺だったよ。




