グダグダな朝
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
しょりしょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるって……」
いつもの従魔達総出のモーニングコールに起こされた俺は、半ば無意識にそう答えながら腕の中にいた抱き枕役のマニを抱きしめた。
あれ? 一緒に捕まえていたはずのローザがいないぞ?
頭の中でそんな事を考えたが、残念ながら寝汚い俺の体は全く動いてくれない。でもって、酷い頭痛で冗談抜きで頭が割れそうだ。喉もカラカラで声がかすれてるよ。
確か今朝の最終モーニングコールは、お空部隊のはず……起きろ俺の体。マジでこれはまずいって……。
痛む頭を我慢しつつ必死になって考えているんだけど、やっぱり起きてくれない俺の体。
まあそうだよな。これ、思いっきり二日酔い状態だし……あのビール。美味しかったんだけど、案外アルコール度数が強かったのかも。
ほとんどビールしか飲んでいないのにこれだけ酷い二日酔いって事は、恐らくそうなんだろう。あのビールを飲む時は、他の軽めのビールと合わせて飲むようにしよう。うん、それがいいよな。
ぼんやりとそう考えている間に、気持ちよく二度寝、いや三度寝の海へ落っこちて行ったのだった。ぼちゃん。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
しょりしょりしょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、だから起きてるって……」
でもってやっぱり起こされても目が開かない俺の体。
ついでに言うと、酷い頭痛と喉の乾きがさっきよりも悪化している気がする。マジで、誰かが俺の頭を一定間隔でもってハンマーでぶん殴っているみたいだよ。
「ご主人、起きたほうがいいと思うにゃ」
腕の中に収まっている抱き枕役のマニが、笑いながらそう言って俺の顎の辺りをペロリと舐める。
「痛いって。マジで今朝は駄目……」
何とか動いた右手でマニの顔を押さえながらそう言った直後、軽い羽ばたきの音と共に額の生え際と上唇と下唇、それから右の脇腹を二箇所、力一杯ペンチでぐりっとつねられた。
「痛って〜〜〜〜〜〜〜〜! げふう!」
さすがの攻撃に悲鳴を上げた直後、逃げるマニに下っ腹を力いっぱい蹴っ飛ばされて吹っ飛ばされる俺。でもってそんな俺を何かがさらに吹っ飛ばす。うん、これはルベルだな。
勢い余ってぐるっと一回転した俺の体は、そのままスライムベッドから転がり落ちた。
「ご主人、危ないよ〜〜」
気が抜けそうなくらいにのんびりしたアクアの声の直後、触手に受け止められた俺の体はポーンと飛ばされて、ニニの腹の上にもう一回転してから落っこちて止まった。
「ふ、振り出しに戻った……」
笑いながら痛む頭を押さえてそう呟き、何とか目を開いて起き上がってからニニに寄りかかったまま周りを見る。
広い部屋は、文字通り屍累々状態になっていたよ。
一応、全員がスライムベッドで寝ているんだけど、誰も起きていない。
「あはは、やっぱり全員寝落ちったか」
さっきの俺の悲鳴は割と本気だったと思うんだけど、あれを聞いても誰一人起きていないのは、ちょっと笑える。
一応、ハスフェルとギイは起きてはいるようだが、横になったまま二人揃って頭を抱えて唸っているし、オンハルトの爺さんも似たような有様。パロットさん達は完全にまだ寝ているみたいで身じろぎもしない。
恐らく、床で寝ていた彼らをスライム達が気を利かせてスライムベッドに引き上げてくれたんだろう。若干不自然な寝相になっているのもちょっと笑える。
あれ、大丈夫かね? 首とか背中とか、起きた時に寝違えていないといいけど。
「はあ、とりあえず起きよう。サクラ、美味しい水を出してくれるか」
ここは二日酔いの特効薬、美味しい水の出番だよな。
「はいどうぞ。ご主人」
目の前までにょろんと伸びた触手が、美味しい水の水筒を渡してくれる。
もちろん、蓋を開けてくれてある気遣いっぷりだ。
「ありがとうな。はあ。美味しい」
ゴクゴクと遠慮なく飲み、半分くらい飲んだところで大きなため息を吐く。
残りも一気に飲み干したところで、何とか酷い頭痛は無くなったみたいで安堵のため息を吐いた俺だったよ。
「まあ、完全復活とはいかないけど、これなら大丈夫だな」
そう呟いてからスライムベッドから降りた俺は、ゆっくりと首を回し、思いっきり腕を上げて伸びをする。
それからラジオ体操みたいに腕を振り、腰を回し、ちょっと全体に体を動かしてもう大丈夫なのを確認してから顔を洗いに水場へ向かった。
「ご主人、綺麗にするね〜〜!」
冷たい水で顔を洗ったところで、サクラが跳ね飛んできて一瞬で包んでくれる。解放された時には、ちょっと伸びていた髭も、汗ばんでいた服もサラッサラだ。
相変わらず良い仕事してくれるよ。
「いつもありがとうな。ほら、行ってこい!」
捕まえたサクラをしっかりおにぎりにしてから、水の流れる水槽に放り込んでやる。
「ご主人、アクアも〜〜!」
「ゼータもお願いしま〜〜す!」
次々に跳ね飛んでくるスライム達を受け止めては、水槽にフリースローで投げ込んでやる。
今はパロットさん達がいるので、クロッシェはアクアの中から出て来ていないし金色合成なんかも禁止だ。
マックス達やお空部隊の子達に場所を譲ってやって、もう一回伸びをした俺はまだ誰も起きてこない部屋を見回して小さく吹き出した。
ちなみに窓の外を見る限り、もう朝とは言えないような時間だよ。
「じゃあ、二日酔いの朝の定番メニュー、お粥と雑炊でも用意してやるか。サクラ、遊んでいるところ悪いけど、飯の準備するから戻ってきてくれるか」
「はあい、今行きま〜〜す!」
ご機嫌な声が聞こえた直後、水槽の中から飛び出してきたサクラが俺のところまで跳ね飛んできてくれた。
「一応、パロットさん達に見られるといけないから、サクラはこの中でな」
いつ目を覚ますか分からないから、サクラには鞄の中にいてもらうよ。
「はあい、了解です!」
開いてやった鞄に飛び込んだサクラが、順番に取り出してくれるいつもの二日酔いメニューをテーブルに並べながら、それでもまだ起きてこないハスフェル達とパロットさん達を見て、もう笑いが止まらない俺だったよ。
うん、飲み過ぎ注意! だな。




