大人気な新メニュー!
「へえ、こんな食べ方は初めてだけど、これは良いな」
「おう、確かにこれはいい。何より見た目が華やかだな」
パロットさん達がお箸を使えるかどうかわからなかったので、しゃぶしゃぶ用に小さめのトングをいくつか用意しておいてあげたら、鍋の前に陣取った彼らは、予想通りにお箸ではなくトングを使って海老を挟んでしゃぶしゃぶを楽しんでいた。
そしてハスフェル達は宣言通りにまずは海老の握り各種を山盛りに取り、特に生海老の甘さに大感激していた。
もちろん、俺もまずは海老の握り各種をがっつり楽しませてもらったよ。
「それ、本当に大丈夫なのか?」
「おう、騙されたと思って食ってみろ。美味いぞ」
ドン引き状態のパロットさんの言葉に、にんまりと笑ったハスフェルがそう言って生の海老の握りとマグロの中トロの握り、それから鉄火巻きをそれぞれ一つずつ小皿に取って渡す。
その際に、ちょっとだけ醤油をかけてやったからそのまま食べられる状態だ。
「その、黒いソースは醤油だな。それは知ってる。ううん、本当に食って良いものなのか?」
どうやら、生の魚はお腹を壊すので食べてはいけない。みたいな思い込みがあるようだ。
「もちろん、水揚げしてから時間の経った古い魚介類を生で食べるのは駄目ですが、これは本当に新鮮ですからね。美味しいですよ」
一応、俺もそうフォローしておく。
真顔になって小さく頷いたパロットさんが、少し考えてから生海老の握りを一つ、フォークですくってそのまま一口で食べた。あ、尻尾ごといったよ。
もぐもぐ、もぐもぐ……。
しばし無言で咀嚼していたパロットさんだったけど、ごくりと飲み込むなり次の中トロを速攻口に入れた。
もぐもぐ、もぐもぐ……。
先ほどよりも早く咀嚼してから飲み込んだパロットさんは、歓喜の雄叫びを上げてから仲間達を振り返ると両手でサムズアップをした。
「なあこれ、めちゃくちゃ美味しいぞ! 何だよこれ! 今までこんな美味しいものを食い損なっていた自分に腹が立つよ。ケンさん! これの作り方を商人ギルドのギルドマスターに教えてやってくれるか。これは絶対に流行る。間違いなく街の特産品になるぞ!」
キラッキラに目を輝かせながら残る鉄火巻きを食べて、もう一回歓喜の叫びを上げたパロットさんだったよ。
それを見て、恐る恐るって感じにクラウスさん達も生海老の握りを食べ、揃って歓喜の雄叫びを上げてから他のお寿司も慌てたように山盛りに取り始めたのだった。
それを見てちょっとドヤ顔になった俺だったけど、ここはドヤっても許されるところだよな?
結局、用意した新メニューはほぼ食い尽くされ、後半は予想通りに完全なる飲み会と化していたのだった。
ちなみに差し入れてくれた地ビールは色々あったんだけど、当然、全部常温だったのでこっそりスライム達にお願いして時間経過で冷やしてもらって飲んでみたら、これがどれも最高に美味しかったんだよ。
その中でも、ちょっとスパイシーな香りのするクラフトビールは特に味の濃い豚骨鍋との相性が抜群で、豚骨鍋を一つ確保してひたすら海老しゃぶを楽しんでいた俺は、もう途中からひたすらこればっかり飲んでいたよ。
「パロットさん。このビールめっちゃ気に入りました。まとめ買いしたいので、後で売っているお店を教えてもらえますか!」
途中、空になったビールの瓶を上げてそうお願いすると、気に入ってくれて嬉しいと何故だか大喜びされた。
聞くと、何とこのクラフトビールを作っている工房はパロットさんの弟さんが立ち上げた工房らしく、特に俺が気に入ったちょっとスパイシーな香りのするこのクラフトビールは、弟さんが十年近くかけて開発した新製品なんだって。
それは素晴らしい。是非ともまとめ買いさせていただこう。
はあ、それにしてもどのビールも美味しいなあ……。
翌朝、俺は酷い頭痛で目を覚ました。
「ううん、飲みすぎた……」
眉間を押さえながら小さくそう呟くと、抱き枕役だったマニが俺の鼻先をペロンと舐めた。
「うわっ!」
「ご主人起きたの?」
俺が悲鳴を上げるのと、マニが俺の胸元に頭を突っ込んでくるのはほぼ同時だった。
「うん、起きたんだけど……ちょっと頭痛が……」
「あれれ? もう起きたの? ご主人。私達の仕事を取らないでくださ〜い」
「そうだそうだ」
耳元で聞こえたのは、張り切ったローザとブランの声。
「いやいや、たまには俺だって早起きするよ……」
まだほとんど目は開いてないけど、一応目が覚めた俺は笑いながらそう言って手を伸ばし、近くにいた子を捕まえてやった。
「このもふもふは誰だ? あ、これはローザだな」
冠羽が顔に当たったのでそう言い、マニと一緒にまとめて抱きしめて隙間に顔を埋める。
「はあ……やっぱり頭痛が酷いよ……サクラ、美味しい水……ください……」
もふもふに顔を埋めたまま何とかそう言ったんだけど、残念ながらここで俺は力尽きてしまい、大きなため息をひとつ吐いてからさらにもふもふの中へ潜り込んでいった。
「あれあれ、珍しく自力で起きたのかと思ったけどまた寝ちゃったみたいだねえ。じゃあ、一休みしたらもう一回一から起こしてあげればいいんじゃない?」
「そうですね。どうやら二日酔いみたいですから遠慮はいらないと思いますよ」
「やっぱりそうよね! ご主人は私達が起こしてあげないとね!」
薄ぼんやりとした意識の中で少し遠くから聞こえてくる話し声。
でもってシャムエル様だけでなくベリーまでそんな事を言い、当然とばかりに張り切るお空部隊の子達の声まで聞こえてきて、遠くなる意識の中で思いっきり焦る俺だったよ。
でも残念ながら完全に二度寝の状態になっていた俺の目が開く事はなく、そのまま気持ちよく二度寝の海へ墜落していったのだった。ぼちゃん。




