海老三昧の新メニューだ!
「よし、じゃあこの海老の身を、こんな感じに薄く切って、と」
長いナイフを使って、まずは直径30センチは余裕である超デカい海老の身をできるだけ薄く切ってみる。
「お出汁は……ううん、やっぱりこれに合わせるならシンプル和風出汁かな」
そう呟きながら少し考えた俺は、作り置きしてある鍋用のスープの中から定番の一番出汁に醤油とお酒と味醂に少々の塩で味付けをした、シンプル和風出汁の入った寸胴鍋を取り出す。
「じゃあ、この土鍋に入れてっと」
一人用に買った小さめの土鍋に和風出汁を入れて火にかける。
「これが本当の、味見だな」
少し考えて、薄切りにした海老の切り身を十字に四分割した。
直径30センチ超えの切り身を一度にしゃぶしゃぶするのは至難の業だろうからな。
「お、沸いてきたな。じゃあこれをしゃぶしゃぶ、しゃぶしゃぶ……うおお、めっちゃ綺麗に花が開いたぞ!」
お出汁が沸いてきたところで、お箸で海老の切り身を摘んで鍋に入れる。
それで、そのままゆっくりとしゃぶしゃぶしたところ、予想以上に綺麗に仕上がったよ。
ぺっらっぺらだった切り身は、本当に花が開いたみたいになったんだよ。
「何それ! すっごい!」
目を輝かせたシャムエル様が、大興奮状態で高速ステップを踏み始める。
「一応お出汁に味は付いているから、まずはそのまま食べてみよう。薄かったらポン酢かゴマだれだな」
にんまり笑った俺は、まず最初のそれは小皿にのせてシャムエル様に渡してやる。
「いいの? ありがとうね。じゃあお先にいっただっきま〜〜〜す!」
目を輝かせたシャムエル様は、そう言ってやっぱり顔から突っ込んでいった。
「うわあ、これ、さっきのエビフライやバター醤油焼きとはまた全然違うね。しかもこれ、こんなに身が薄いのに食べるとプリップリだよ! 何もつけなくても美味しい!」
尻尾がいつもの三倍サイズになったシャムエル様の言葉に、俺は早速自分の分もお箸で摘んで鍋に入れた。
「しゃぶしゃぶ、しゃぶしゃぶ、よし、良い感じだ」
同じように身が開いて弾けたところで鍋から引き上げ、一旦小皿にとって少しだけ冷ましてからパクりと一口で頂く。
「んん〜〜〜! 何これ、めっちゃ美味しい! 確かに、これは何も付けなくていいな。あ、これはあの豚骨スープでしゃぶしゃぶしても絶対美味いはず。よし、今夜の夕食メニューのメインは、この和風出汁と豚骨鍋の海老しゃぶしゃぶで行こう。後は、エビフライとか色んなお寿司があればいいな。じゃあ、鍋用の仕込みをお願いしてもいいかな」
試食用の残り二枚もシャムエル様と半分こした俺は、待ち構えていたスライム達に、とりあえず下拵え済みの残りの巨大海老一匹丸ごと、全部薄切りにしてもらうようにお願いした。
よし、次に魚市場へ行ったら、巨大車海老もまとめてガッツリ買っておこう。これ、絶対に豆乳鍋やキムチ鍋でしゃぶしゃぶしても絶対美味しいだろうからな。
出来上がった大量の薄切りの身は、大きさごとに適当に分けて、食べやすいサイズに四等分や半分に切っておいてもらう。
鍋用の野菜や一応お肉も準備しておいてもらい、その間に俺は一番大きな土鍋を全部で四個取り出し、和風出汁と豚骨スープをそれぞれ二個ずつ準備しておいた。
『おおい。そろそろそっちへ行っても大丈夫か?』
鍋の準備が出来て、野菜を炊き始めたところでハスフェルから念話が届いた。
『おう。もう来てくれて構わないぞ。一応、揚げ物と握り寿司や巻き寿司、それからあのデカい海老を薄切りにして鍋で食べてもらう事にしたよ。他にも色々作れそうだけど、まあ今夜はこれだけあれば良いかと思ってさ』
『聞いただけで腹が減ってきたよ。じゃああいつらも誘って行くよ』
嬉しそうに笑ったハスフェルがそう言い、トークルームが閉じられる。ギイとオンハルトの爺さんは、いた気配はしたけど、特に会話には参加しなかったから聞いていただけみたいだ。
「お、良い感じに野菜も煮えてきたな。じゃあ一旦火を止めておくか」
土鍋に蓋をして一旦火を止めたところで部屋に戻り、おいてあったテーブルの横に手持ちの折りたたみ式の机と椅子も並べておく。全員来たら、椅子が足りないからね。
「お邪魔しま〜す!」
軽いノックの音がしたので、近くにいたアルファに扉を開けてもらうと、何やら大きな木箱を抱えたパロットさん達がハスフェル達と一緒に部屋に入ってきた。
「あれ? ケンさんがそこにいるって……今、誰が扉を開けてくれたんだ?」
鞄に入ってくれたサクラから寿司や揚げ物を取り出していた俺を見て、パロットさんが不思議そうにそう言って入ってきた扉を振り返る。
「え? もしかして、スライムが扉を開けたのか?」
まだ扉の横にいたアルファが得意そうにビヨンと伸びあがって触手を振っているのを見て、目を見開いたパロットさんがそう言って俺を振り返る。
「そうですよ。うちのスライム達はとっても働き者ですごく賢いんです。一度言った事は全部覚えて次からはその通りにしてくれますし、俺以外の人とは喋れませんが、人の言っている言葉は完全に理解していますからね。スライム達の前で悪口を言ったりしたら、全部聴かれていますのでご注意くださいね」
笑った俺が揶揄うようにそう言ってやると、さらにまん丸の目になったパロットさん達を見てハスフェル達が揃って吹き出していた。
「まあ、とりあえず座ってください」
一通りのメニューを並べ終わったところで俺が笑ってそう言うと、机の横に来たパロットさん達が揃ってお寿司が並んだお皿を見た。
「これ、もしかして生の魚か?」
「それを握り飯の上に乗せて食う?」
「そんな事して腹を壊さないか?」
完全にドン引き状態な彼らを見て、また吹き出すハスフェル達。
「まあ良いから座れ。言っておくがこれは寿司と言って最高に美味いぞ。俺はもう、早く海老の寿司を食べたくて仕方がないんだからな」
「俺も楽しみだよ。まあ騙されたと思って食ってみろ。この酢で味をつけたご飯との相性が抜群なんだ」
「ええ、生の魚だぞ? まあ、それ以外もあるみたいだけど、本当に大丈夫か?」
ハスフェルとギイの説明を聞いても全く信用していない彼らを見て、俺も笑いそうになるのを必死で堪えていたのだった。
俺にしてみれば、これだけ新鮮な魚介類が大量に目の前にある彼らが、今まで生で魚を食べてみようとしなかった事の方が驚きなんだけどさ。
「ああ、失礼した。ええと、これは俺達おすすめのここの地酒と地ビールだよ。ケンさんはビールがお好きと聞いたのでね」
改まってこっちを見たパロットさんの言葉に納得する。
成る程。あの大きな木箱の中身は食事代代わりのお酒だったわけか。
お礼を言って受け取り、各自席についてもらう。
「じゃあ、今夜は海老三昧ですよ。たくさん作ってありますのでお好きなだけどうぞ!」
しゃぶしゃぶ用の海老の切り身を見せた俺の言葉に、部屋は拍手喝采になったのだった。
よし、食おう!




