巨大車海老の調理法
「さてと、まだ時間はあるからあとは……やっぱりこれだな」
にんまりと笑って取り出したのは、そう、あの超巨大車海老だ。
「ううん作業用のテーブルいっぱいに一匹の海老が広がるって、なかなかにシュールな光景だな」
改めて見た予想以上のデカさに、もう笑いしか出ない。
「ご主人、それもお料理するの?」
ぴょんとテーブルに飛び乗ってきたサクラが、伸ばした触手で巨大車海老を突っつきながらそう尋ねる。
「おう、せっかくだから料理してみようかと思ったんだけど、改めて見るとあまりのデカさにどうしようか考えていたところだよ」
手を伸ばしてサクラを撫でながらそう言うと、ビヨンと伸びたサクラがこっちを向いた。肉球マークがこっちを向いたので、多分そうなんだろう。
「じゃあ、これも下拵えしますか?」
そう聞かれて考える。
どう考えてもこのままでは調理出来ない。
バーベキューコンロで丸焼きにするって手もあるだろうけど、この身の分厚さを考えると肉の塊を焼くより大変そうだ。
でも確か、ハスフェル達は殻ごと塩焼きにすると美味いって言っていたから、この世界ではそれがこの海老の定番の食べ方なのかもしれない。
そう考えると、逆にそれ以外の調理法で試したくなるよな。殻ごとの塩焼きは、今度バーベキューをする時にやってみればいいからな。
「そうだな。じゃあとりあえず洗ってぬめりを取ってから頭を取って殻を剥いてみるか。下拵えはお願いしてもいいか? 俺は料理の準備をするからさ」
「はあい、お任せくださ〜〜い!」
得意そうにそうサクラが答えた直後、キッチンの床に転がっていたスライム達が一瞬で集まってきて合体した。
「じゃあやりま〜〜す!」
得意そうにそう言い、全員合体したスライム達が一瞬で巨大車海老を飲み込む。
そのままわしゃわしゃと伸びたり縮んだりしてから綺麗に下拵えの終わった巨大な海老の剥き身を取り出してくれた。背ワタ取りまで完璧だよ。
「頭はどうしますか?」
差し出されたそれの中には、美味しそうな味噌が詰まっている。
「じゃあ、頭は一旦置いておいてくれるか。他は食べちゃっても良いぞ」
「はあい、じゃあ頭はサクラが収納しておきま〜す」
大きな頭は一瞬で収納され、少しの間モニョモニョしていたスライム達が一斉にばらけたので、あれでお食事は済んだみたいだ。
あの巨大な頭こそ、そのままバーベキューグリルの網で焼いてみたい。
間違いなく絶対美味いのが出来る気がするぞ。
そして、スライム達が下拵えしてくれた巨大海老の剥き身を前にして固まる俺。
「ううん、剥き身になってもやっぱりありえないデカさだな。普通、殻を剥いたらグッと小さくなるんだけどなあ。まあいい。とりあえず切ってみようか」
しかし、一番大きな包丁を取り出してみたがどう考えても包丁のほうが短い。これで切ったら断面がぐちゃぐちゃになりそうだ。
「サクラ。手持ちのナイフで、一番長いやつを出してくれるか」
ふと思いついてそうお願いする。
「はい、じゃあこれだね」
そう言って取り出してくれたのは、日本刀みたいな片刃のナイフだ。
もちろん、日本刀とは違って真っ直ぐなんだけどね。
「ああ、これなら確かに切れそうだな。よし、じゃあ切ってみよう」
ナイフを受け取った俺は、鞘を一旦サクラに返して、とりあえず真ん中あたりで二つに切ってみる。
「おお、めっちゃ美味しそうだ。でも、このデカいのを生で食うのは逆にちょっと大変そうだし、切り身にしちゃうと海老だって分からないから見かけがイマイチだな。それじゃあこの輪切りは、とりあえず塩胡椒をしてからバターで焼いてみるか。あとは、薄切りにしたのでしゃぶしゃぶが出来るかどうかやってみよう」
にんまりと笑った俺は、用意しておいた大きなフライパンにまずはバターの塊を落とし、弱火でバターを溶かしていった。
「これ、変に何度もひっくり返すよりも、蓋をして蒸し焼きにするのが良さそうだな」
とりあえず片面をしっかり焼いて焦げ目を付けてから、少し考えて蓋をしてみた。
「おお、良い感じかも。あ! これは絶対にこっちの方が美味いよな」
パチパチと音を立てて良い感じに火が通った分厚い切り身を見て、ある事を思いついた俺はにんまりと笑った。
「やっぱりここは醤油だよな〜〜」
そう言いながら蓋を開け軽く転がして側面にも焼き目を入れてから、鍋肌にゆっくりと醤油を回しかけた。
「ううん、この香り。もう最高じゃん!」
思わず深呼吸をすると、俺の右肩の上でシャムエル様も一緒になって深呼吸をしていたよ。
しばし待ってから、火を止める。
「よし。とりあえず試食だ! これは食べずにはいられないよな!」
ナイフとフォークを取り出しつつそう呟く。
「しっしょく、イエ〜イ! しっしょく、イエ〜〜イ! しっしょく、しっしょく、しっしょくイエ〜〜〜イ!」
謎のしっしょくの歌を歌いつつ、高速ステップを踏むシャムエル様。当然、カリディアが一瞬ですっ飛んできて完コピして踊り出す。
「それ、失職に聞こえるからやめてくれ」
苦笑いしつつそう言い、焼けた切り身をナイフで半分に切ってみる。
「お、案外硬そうだな。焼くならもうちょい薄めでも良かったかも」
今のこの切り身、分厚さは5センチくらいで直径は30センチを余裕で超えるデカさだから、確かに焼くにはちょっと分厚かったかも。
「まあいい。とりあえず食べてみよう。はいどうぞ。試食だから半分こな」
半分に切った片方を、そう言いながら取り出したお皿にのせてテーブルに置く。
当然のようにお皿の前にシャムエル様が一瞬で現れる。
「わあい。では、いっただっきま〜〜〜す!」
目を輝かせたシャムエル様が、そう叫んでやっぱり頭から突っ込んでいった。
「ケン! これ美味しい! 身がプリップリだよ!」
尻尾を三倍サイズに膨らませたシャムエル様の叫びに吹き出す俺。
「じゃあ、俺も食べてみよう。やっぱりここは、丸齧りしてみるべきだよな」
にんまりと笑ってそう呟き、豪快にフォークを切り身に突き立ててから大きな口を開けて齧ってみた。
「何これ、めっちゃ美味しい! 本当に身がプリップリだ!」
バターと醤油の香ばしさと相まって、もう冗談抜きで美味しいしか感想が出てこない。
「これ、薄切りのをしゃぶしゃぶにしたら、蟹しゃぶをした時みたいに身が弾けて花みたいになるかも。よし、これを食べたらやってみよう」
焼いた切り身の断面が、ちょっと弾けて広がっているのを見て思わずそう呟く。
試食というにはかなり多めのそれを食べながら、あまりの美味しさにもう笑いが止まらない俺だったよ。




