夕食のお誘い
「よし、いい感じに色々買えた事だし、じゃあ一度宿泊所へ戻って何か新作料理を作ってみようか」
魚市場を一通り見て回ったところで、暮れ始めた西の空を見て思わずそう呟く。
「ええと、パロットさん達ってこの街に住んでいるんですよね? ご家族と一緒にですか?」
定住する冒険者の方は、家庭持ちが多い。
彼らもそうなのかと思ってそう尋ねたんだけど、顔を見合わせた三人は揃って吹き出した。
「ケンさん。今、俺達は全員街に定住組だから、家庭持ちだと思っただろう?」
にんまりと笑ったパロットさんの言葉に頷きつつ、あれ? これって失礼な質問だったかなと思って密かに首を傾げていた。
どうもこの辺りの微妙な気遣いというか常識感覚みたいなのがいまだによく分かっていない俺は、内心焦りつつハスフェル達に念話でヘルプを求めた。
『なあなあ! ちょっと質問。今の俺の言葉って、もしかして失礼だったりしたか?』
焦る俺の質問に、ハスフェルとギイが揃って小さく吹き出して誤魔化すみたいに咳き込んでいた。
『別に失礼じゃあないさ』
『だが、今の答えを聞くに彼らは全員独り身のようだな。ケンがいいなら夕食に誘ってやれ。海老を使って何か新作メニューを作るんだろう?』
『せっかく新鮮な魚が常に手に入る地域なんだから、是非ともここにも刺身や寿司のメニューを流行らせてくれ』
後半は本音がダダ漏れのハスフェルとギイの答えに、堪えきれずに吹き出してしまい、二人と同じように咳き込んで誤魔化した俺だったよ。
「あはは、失礼しました。いや、新鮮な魚介類を色々と買ったので今から料理をしてみようかと思って。それで、せっかくなので皆さんもご一緒しませんかとお誘いするつもりだったんですよ。でも、家に誰かが待っておられるのなら駄目かなあとも思いまして」
ここはもう素直に白状すると、パロットさん達は揃って吹き出した。
「実は俺達三人とも、一度は結婚したけど今は独り身なんですよ」
「しかも、全員嫁さんに逃げられたクチだからなあ」
クラウスさんが肩をすくめながらそう言い、豪快に大笑いしている。
うんうん、人生色々あるよな。
でもまあ、こんな風に言って笑い飛ばせるのなら、まあ問題無いのだろう。
「ええと、じゃあどうしますか? 一旦解散してから、改めて宿泊所に来ていただいても構いませんし、このまま一緒に……ええと、宿泊所の部屋に泊まる人以外を入れるのは、もしかして駄目かな?」
元いた世界の場合は、これは基本的にNG行為だからな。
「まあ、泊まらせるのは褒められた行為ではないが、食事に招待するくらいなら別に良いんじゃあないか?」
「だが、ケンの新作料理だぞ。そのまま間違いなく宴会に突入して揃って酔い潰れる気がするがなあ」
「確かに。魚介類に合う酒はどれか、徹底的な検証が必要だと思うからな」
笑ったハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんが揃ってうんうんと頷きつつなかなかに無茶な事を言っている。
うん、でも俺もそうなる気がする。
「あはは、じゃあせっかくだから俺達も今夜は宿泊所に泊まらせてもらおう。それなら誰に憚る事なくケンさんの新作料理をいただけるし、遠慮なく酔い潰れられるからな」
「酔い潰れるの前提かよ!」
笑ったパロットさんの言葉に、思わず真顔で突っ込む俺だったよ。
って事で、パロットさん達が冒険者ギルドに宿泊の申し込みをしに行っている間に、俺達は一足先に宿泊所の部屋に戻った。
お留守番していた従魔達に大喜びで押し倒されたのは、まあ当然だろう。
もちろん遠慮なくもふり倒させてもらったよ。
「ううん、ここのキッチンはなかなか広いじゃあないか」
一応、宿泊所で一番広い部屋をお願いしますと言って確保した俺の部屋は、確かになかなかに広くて良い部屋だったよ。
それに、部屋に併設されていたキッチンもかなり広くて、これならあの巨大車海老も頑張れば調理出来そうだ。
「なあ、スライム達集合〜〜一応、今回はパロットさん達が一緒だから金色合成は禁止だぞ」
「もちろん分かってま〜〜す!」
「ちゃんとバラバラでお手伝いしま〜〜す!」
ビヨンと伸びたスライム達が、口々にそう言って触手を伸ばす。
「おう、頼りにしてるぞ。じゃあまずは雑魚海老の仕込みからだ。今からやって見せるから、よく見て覚えてくれよな」
スライム達に新しい事を教える際には、実際にやって見せるのが一番早いし確実だからね。
まずは取り出した大きめのバットに山盛りになった雑魚海老を流水でガンガン洗いながら、エビフライ以外に何を作ろうか考えていた俺だったよ。




