魚市場へ出撃だ!
「お待たせしました〜〜〜!」
とりあえず、借りた宿泊所の部屋と厩舎に従魔達を残した俺達は、スライム達だけを鞄に入れて急いで冒険者ギルドへ戻った。
生ものを扱うお店へ行くから、今回は全員に留守番してもらう事にしたんだよ。
「おう、じゃあ行こうか」
待っていてくれたパロットさん達がそう言ってくれたが、何故かアレクさんがいない。
「ああ、アレクなら漁師仲間達に呼び出されて行ったよ。明日の漁の打ち合わせがあるんだと。一応、彼のおすすめの店も一通り聞いておいたから、俺が案内するよ」
ちょっとドヤ顔になったパロットさんの言葉に、彼の仲間のユーニンさんとクラウスさんも笑っている。
「じゃあ行こうか。今なら午後から水揚げされたものがそろそろ店に並んでいるだろうからな。新鮮さは保証するよ」
「はい、よろしくお願いします!」
目を輝かせてそう言い、そのまま全員一緒にギルドの建物を出てパロットさんの案内でまずはここへきた一番の目的地である魚市場へ向かった。
「こっちが朝市の出る通りで、魚市があるのは向こうの港側の通りだよ」
大通りを歩きながら、パロットさんから朝市の出る通りや魚市場の場所だけでなく、街の中にあるおすすめのお店も教えてもらった。
当然だけど、街の中には露天ではなく実店舗のお魚屋さんもあるわけで、そういった固定店舗では仕入れた新鮮な魚介類だけでなく、お店で調理した魚料理や焼き魚、店によっては干物なんかも売っているんだって。
だけど今日のところは、まずは魚市場を見に行くよ。実店舗の探索は明日以降だな。よし!
目を輝かせる俺を見て、パロットさんはそんなに喜んでくれたら案内のし甲斐があると言って笑っていた。
「うおお! 魚市場だ! 魚だ! 魚介類だ〜〜!」
到着した魚市場のある通りは、本当に文字通り魚介類を売る屋台がぎっしりと並んでいて、もう俺のテンションは爆上がり状態だよ。
「ああ! エビフライに使えそうな海老発見!」
そこにあったのは、大きなカゴに山盛りになったお頭付きの海老で、俺的には超デカい車海老サイズ、まさにエビフライの為にあるようなサイズだ。
「多分、頭を外せば身の部分は……15センチくらいだろうか。いや、これならお頭付きのまま揚げるのもいいかも。ああ、でもこのサイズだと逆にお頭付きにしたらフライパンに入らないかも。入っても一匹か二匹程度だな」
俺的には十分大きいサイズだが、これはハスフェルから聞いた、一山幾らで売られているのだという小さいサイズなのだろうと思われる。
「いらっしゃい。こっちの雑魚海老は、どれでもカゴ一つが銀貨一枚だよ」
俺が山盛りになった海老をガン見していると、やや年配の店主さんが笑顔でそう言って海老の山を指差して値段を教えてくれる。
「ざ、雑魚海老……」
あんまりなネーミングと予想外の安い値段に、思わず吹き出す俺。
「まあ、学者さんならこれだってそれぞれに名前がある! とか言うんだろうけど、市場ではこのくらいの大きさまでのやつは、全部まとめて雑魚海老って呼ばれてるよ。美味いんだが、殻を剥くのが面倒だから扱う人が少ないんだ。おすすめは粗塩を振って串に刺して強めの火で一気に焼くか、丸ごと茹でて殻を剥きながら食うかだね。ちょっと面倒ではあるが、先に頭と殻と尻尾まで全部外しておけばいろんな料理に使えるから、俺はこの小さいのが好きなんだよ」
「いいですね。じゃあ、とりあえずこれとこれをください」
銀貨を二枚取り出して渡し、パッと見て一番大きそうなのと一番小さそうな海老が山盛りになったカゴを選んだ。これ、何匹くらい入ってるんだろう?
でも、こっちの小さい方ならお頭付きのエビフライになりそうだ。
笑顔で銀貨二枚を受け取った店主さんは、俺を見てから背負っている鞄を見た。
もちろん、この中にはスライム達が入っているよ。
「これを入れられる袋か、入れられるような大きな器を持っているか? 無ければこれに包むぞ。ただし、水気が濡れるからその鞄には入れない方がいいぞ」
そう言って取り出したのは、この世界では包装紙がわりによく使われている笹っぽい大きな葉っぱだ。
「ああ、じゃあここにお願いします!」
サクラに頼んで取り出した大きめのバットに、大小の海老を分けて入れてもらう。
「おお、兄さんは収納の能力持ちか。いやあ、羨ましい限りだねえ」
満面の笑みになった店主さんにそう言われて、ちょっとドヤ顔になった俺だったよ。
「ああ、めっちゃデカい海老発見!」
次に見た屋台に並んでいたのは、まさに2メートルクラスのお頭付き超巨大車海老と、頭だけを落とした超巨大車海老だった。
「いらっしゃい兄さん、これはまさに今入荷したばかりの海老だよ。どうだい? こっちの頭のあるのは一匹単位、頭を落としてあるのは量り売りだよ」
デカイ包丁と鋏を手にした若い店主さんの言葉に納得する。
確かに一般家庭の台所で、このサイズの海老を丸ごと調理するのは至難の業だろう。物理的に無理そうだ。
でも、俺にはスライム達がついているから気にせず買うよ。
「じゃあ、こっちのお頭付きのを……とりあえず一匹貰えますか」
いろんなお店で買ってみたいので、とりあえず今日のところは様子見で少なめに買うよ。
「おお、丸ごと買ってくれるとは嬉しいねえ。銀貨五枚だよ」
これまた予想外の安い値段にビックリ。ううん、この値段でこれだけのものが買えるって、最高だな。わざわざここまで来た甲斐があったってもんだよ。
大感激しつつ、ここでも収納の能力者である事を教えて、巨大お頭付き車海老をそのまま受け取って収納したのだった。
その後も順番に屋台を見てまわり、いくつかの店で大小の雑魚海老だけでなく、超巨大なお頭付き車海老も色々と買い込んだのだった。
だけど、噂の鎧海老がどこにもない。
「なあ、鎧海老も欲しいんだけど、この辺りの店には売っていないな。もしかして専門店があるとか?」
ここは案内人に聞くべきだよな。
そう考えてパロットさんにそう尋ねると、一瞬驚いたように俺を見たパロットさんは納得したように笑って教えてくれた。
「そうか。ケンさんはこの街は初めてだったな。鎧海老は漁の出来る日が決まっているから、その時以外は市場には並ばないよ。鎧海老を扱う店なんかは、ある時にまとめて必要分を仕入れて、高性能の収納袋に保存しているんだ」
「成る程。それでアレクさんが漁の打ち合わせに行ったんですね」
納得した俺を見て、パロットさん達はそうだなと言って笑っていた。
この後も順番に屋台を見て回りいろんな焼き魚も買いまくったよ。
それから、普通サイズのホタテとちょっとしたテーブルくらいはありそうな超巨大ホタテを発見して、またしても俺のテンションは爆上がりしたのだった。
よしよし、これでまた料理のメニューが増えるぞ。
色々と安い値段で手に入って、どれから作ろうか考えてワクワクしている俺だったよ。
そして、俺の右肩ではこちらも超ハイテンションになったシャムエル様が、さっきからずっと高速ステップを踏みながら大喜びで踊りまくっていたのだった。




