遊覧飛行?
「おお、まさかこの距離でアサルトドラゴンを観察出来る日が来ようとは……」
「全くだ。俺はまだ夢を見ている気分だよ。見ろ、この鱗の美しい事……」
「確かに美しい。ああ、本当に夢のようだよ」
「夢ならお願いだから醒めないでくれ……ああ、本当に素晴らしい……」
散々周りを走り回ってルベルにも触れたエーベルバッハさんとヴァイトンさんは、今は二人並んで少し離れたところから、最大サイズにまで巨大化したルベルを見上げては感激して感想を言い合っている。
そんな二人のベタ褒めな言葉に、ルベルがドヤ顔になっているのを見て笑ったのは内緒だ。
「喜んでくれたみたいで俺も嬉しいですよ。じゃあ、せっかくなので最大サイズのルベルに乗ってみますか?」
「「よろしいのですか!」」
笑った俺の提案に、キラッキラに目を輝かせたお二人の声が揃う。
「もちろんです。その為にこんな誰も来ない僻地にまで来たんですからね。じゃあルベル、お二人が乗りやすいように、ちょっと伏せてやってくれるか」
「うむ、ではこれで良いか?」
俺の言葉に目を細めたルベルが、ゆっくりと頭を下げて体全体を地面に伏せるような体勢になってくれる。
「これなら腕伝いに背中へ上がれますね。じゃあどうぞ」
伏せてくれたルベルを見たエーベルバッハさんとヴァイトンさんは、それはもうこれ以上ないくらいの良い笑顔でルベルに向かって深々と一礼した。
「「では、お言葉に甘えてその背中に乗せていただきます」」
これまた綺麗に声が揃う。
「うむ、構わぬから乗りなさい」
まだドヤ顔のルベルの言葉を通訳してやると、大感激したお二人は頷き合ってからルベルの腕に這い上がり、そこから二人で協力して腕伝いに背中まで上がっていった。
「ううん、もう見慣れて気にならなくなっていたけど、ああやって改めて最大サイズのルベルに人が乗るのを見ると、やっぱりあのデカさが際立つなあ」
「確かに、比較対象があると逆に大きさが際立つな」
俺の呟きが聞こえたらしいハスフェルが、面白そうに笑いながらそう言って何度も頷く。
「じゃあ、お二人が落ちないように上で支えてやってくれるか」
足元に転がっていたスライム達に声をかけてやると、一斉に集まってきたスライム達のうちの何匹かが、勢いよく跳ね飛んでルベルの背中に上がった。
「おお、見事なジャンプ力だねえ。ひとっ飛びであの背中に乗れちゃうんだ」
感心したようにそう呟き、直後に背中からお二人の悲鳴が聞こえた。
苦笑いした俺は、一応安全確認の意味もあるのでそのままルベルの腕から腕伝いに背中へ上がった。
「大丈夫ですよ。スライム達はお二人が落っこちないように確保してくれますから、気にせず体を預けてください。何しろルベルの背中はツルツルなので、背中に乗る際にしがみ付けるものが無いんですよ」
「ああ、成る程。そういう事でしたか」
「いきなりスライム達にくっつかれてちょっと驚いてしまいました。失礼しました」
「よろしくお願いしますね」
「どうかよろしくお願いします」
笑った二人が笑顔でこっちを見たので、俺も笑って手を振ってから地面に降りた。
『ご主人、ちゃんとお二人確保したよ〜〜』
アルファの念話が届いて、頷いた俺はまだ伏せたままだったルベルの脚を軽く叩いた。
「じゃあ、準備が出来たみたいだから、ひとっ飛び頼むよ。せっかくだから、それなりに楽しませてやってくれるか」
最後は小さな声でそう言ったが、当然ルベルには聞こえている。
「それなりに、で良いのか?」
「お前の考える、それなり、で良いよ」
にんまりと笑った俺がそう言うと、首を曲げてこっちを見たルベルが面白がるようにうんうんと頷くみたいに首を上下させた。
「了解した。ではちょっと軽く飛んでみるとしよう」
大きな翼をググッと広げたルベルは、そう言うとゆっくりと起き上がってこっちに背を向けて走り出した。
ドスドスと地響きが響く中、大きく翼を羽ばたかせたルベルの巨体がふわりと浮き上がる。
「いつもはその場で羽ばたいて飛ぶのに、あれもサービスかね」
ルベルの背中から何やら大感激した様子の叫ぶ声が聞こえてきて、一気によく晴れた空へと飛び立つルベルを見送りながら、俺達は揃って大爆笑になったのだった。
そのまま俺達の頭上を何度か旋回したルベルは、そのまま山側へと一気に飛んで行った。
「ご主人、私達も行ってくるわね!」
「なんなら、上空からお二人の様子を見てみますか?」
その時、巨大化したローザとネージュがそう言い、他のお空部隊の子達もその言葉に頷いて一気に巨大化した。
「あはは、そりゃあ良いねえ、じゃあ乗せてくれるか?」
側に来てくれたネージュの背中に上がる俺を見て、ハスフェル達もそれぞれ自分の翼を持つ子達の背中に上がった。
「よし、じゃあお願いするよ!」
笑った俺の声を合図に、巨大化したお空部隊の面々が一斉に羽ばたいて空へと舞い上がる。
俺達が来たのに気付いたルベルが、それはそれは張り切っていきなり空中で一回転をしたもんだから、当然背中にいたお二人が揃って悲鳴を上げる。
その後、お空部隊の子達が乱入して一緒になって空中ループや急降下、トルネード飛行などの曲芸飛行を披露して、その度に空に何度も響き渡る悲鳴を聞きながら大爆笑した俺達も一緒になって遊び、全員揃ってしばしの曲芸飛行を楽しんだのだった。
ま、これも一つの遊覧飛行って事で良いよな?




