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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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出掛ける前の朝の一幕

「ご主人、綺麗にするね〜〜!」

 冷たい水で顔を洗ったところで、跳ね飛んできたサクラが一瞬で俺を包み込んでくれる。

 解放された時には、濡れた顔だけでなく若干汗ばんでいた体も髪も、それから少し伸びていた髭まで綺麗さっぱり。もう完璧だよ。

「いつもありがとうな。ほら、行っておいで」

 笑ってサクラを捕まえて両手でにぎにぎとおにぎりにしてやってから、今日は野球のオーバースローで水槽めがけて投げてやる。

 若干コントロールが悪かったけど、自力で軌道修正して水槽に飛び込むサクラ。

「ご主人! アクアも〜〜〜!」

「アルファもお願いしま〜す!」

 それを見たスライム達が、そう言いながら次々に跳ね飛んで来る。

 だけどさすがに全員をオーバースローで投げたら冗談抜きで肩が壊れそうなので、途中からはいつものフリースロースタイルで放り投げてやったよ。

 もちろん投げる前には、しっかりおにぎりにしてからな。

 スライム達全員にこれをするのは結構大変なんだけど、これはスライム達にとっては俺と一対一で接する貴重な機会だから、絶対に適当になんてしないよ。

 最後のクロッシェまで、全力でお相手させていただきました!

 スライム達全員を投げ終わったところで、水遊び大好きマックス達とお空部隊の子達がすっ飛んでくる。

「じゃあ交代な。水遊びするのはいいけど、ちゃんと後片付けしてくれよな」

 笑って場所を譲ってやり、今日のところはそのまま戻る。

 出かける前に、水遊びで体力消耗するのはさすがにごめんだからな。



「ええと、今日は出掛けるからいつもの防具をフル装備だな」

 自分で収納してある防具一式を取り出してそう呟き、一応確認しながら装備していく。

「もう、これもすっかり慣れたよなあ。サラリーマン時代とは雲泥の差だよ」

 胸当てを装備したところで、軽くそれを叩いて小さくそう呟く。

 一応、会社指定の制服はあったが営業で外に出る機会の多かった俺は、安物だけど毎日背広にネクタイで通勤していたのを不意に思い出し、今との差にちょっと笑ってしまったのだった。

 うん、自由なる冒険者生活、万歳だな。



『おおい、起きてるか?』

 剣帯を締めていたところで、タイミングよくハスフェルからの念話が届いた。もちろん、トークルームは全開状態だ。

『おう、おはよう。今、装備を整えているところだ。じゃあリビング集合な』

 ヘラクレスオオカブトの剣を装着しながらそう答える。

『了解だ。じゃあ後でな』

 笑ったハスフェルの言葉の後に、ギイとオンハルトの爺さんの笑う声も聞こえてからトークルームが閉じられる。

「よし、準備完了だ。じゃあリビングへ行くから水遊びは終わりだぞ〜〜〜今日は郊外へ出るから皆一緒に行くぞ〜〜」

「は〜〜い!」

 俺の呼びかけに、まだベッドで転がっていたニニと猫族軍団プラスアルファの面々が嬉しそうにそう言って一斉に飛び起きて集まってくる。

 水遊びチームが戻ってきたところで、全員引き連れた俺はリビングへ向かった。



「おはよう。じゃあまずは朝飯だな」

 到着したリビングにはすでに三人とも集まってきていて、慌てていつものモーニングメニューを順番に取り出していく。

「今日はおにぎりの気分だから、こっちにしよう。郊外へ出るのなら、何があるか分からないからしっかり食べておくべきだよな。サクラ、おにぎりの盛り合わせとだし巻き卵も出してくれるか。それからワカメと豆腐のお味噌汁もお願い」

「はあい、これだね」

 即座にそう答えたサクラが、俺が言ったメニューを次々に取り出してくれる。

「ええと、シャムエル様はいつものタマゴサンドかな?」

 お皿を手にそう尋ねると、俺の右肩から一瞬でテーブルの上に現れたシャムエル様が何やらもの凄く悩んでいる。

「ん? 何をそんなに悩む必要があるんだ?」

 不思議に思いそう尋ねると顔を上げたシャムエル様は、テーブルに並ぶタマゴサンドを見てからだし巻き卵を見た。

「ケン、これは究極の選択だよ。朝からだし巻き卵なんて、そんな贅沢を見過ごすなんて有り得ない! でも、タマゴサンドも食べたいの!」

「あはは、そっちの悩みか。まあ、気が済むまで悩んでくれたまえ」

 笑った俺は、まだ悩んでいるシャムエル様はそのままにしておき、まず一つ目のお皿にいつものタマゴサンドを一切れ取り、別のお皿に大きく焼いてカットしてあるだし巻き卵を二切れ取り分け、少し考えてもう一切れ追加しておく。

 それから、また別のお皿にシャケのおにぎりと肉巻きおにぎり、高級梅干入りのおにぎりを取ってから、お味噌汁も準備する。

「岩豚トンカツも美味しそうだから、ちょっとだけもらおう」

 揚げ物コーナーに並ぶ岩豚トンカツの小さめのを一切れとったところで、キラッキラに目を輝かせるシャムエル様に気付いた俺は、黙ってもう一切れ取り分けたのだった。



 まずは、スライム達が準備してくれたいつもの簡易祭壇に俺の分のお皿と味噌汁のお椀を全部並べる。今日のドリンクは冷えた麦茶だよ。

「ええと、今日は和風の朝食です。少しですがどうぞ」

 手を合わせて目を閉じてそう呟く。

 すぐに俺の頭を何度も撫でられる感触に目を開けると、収めの手がもう一回俺の頭を撫でてから並べたお皿を撫でまわし、最後に持ち上げる振りをしてから消えていった。

「ちゃんと届いたな。よし、じゃあ食べよう」

 収めの手が完全に消えるまで見送ってから、お皿を手に急いで席に戻る。

「ああ、待っていてくれたのか。ありがとうな。じゃあ、いただきます」

 食べずに待っていてくれた皆にお礼を言い、改めて手を合わせてからいただきますを言う。

「で、結局どうするんだ?」

 笑った俺の言葉に、大きなお皿を手にしたシャムエル様が踊り始める。

「両方ください! 別にどちらか一つしか食べちゃ駄目って決まりは無いもんね!」

 予想通りの答えに吹き出した俺は、タマゴサンドを取り分けていたお皿に岩豚トンカツを一切れと、だし巻き卵は一番大きなのを一切れ丸ごと並べてやる。

「おにぎりはどうする?」

「ええと、その肉巻きおにぎりを半分だけください!」

「了解、ちょっと待ってくれよな」

 これまた予想通りの答えに笑った俺は、装備していたナイフを抜き肉巻きおにぎりを半分に切り分けてやった。

 汚れたナイフは側にいたサクラに綺麗にしてもらい鞘に収める。

「はいどうぞ。味噌汁とお茶はどこに入れるんだ?」

 一瞬で持っていたお皿を収納したシャムエル様が、いつもの小さなお椀とショットグラスを取り出して並べる。

 スプーンを取り出してお味噌汁を取り分けてやり、お茶も入れてやったところで俺もようやく食べ始めた。

 ご機嫌で岩豚トンカツを齧り始めたシャムエル様の尻尾をこっそりともふりつつ、俺も久々の和食な朝食をのんびりと味わっていただいたのだった。



挿絵(By みてみん)

2025年11月14日、アース・スターノベル様より発売となります「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」十二巻の表紙です。


もちろん今回も、れんた様が最高に可愛い表紙と挿絵を描いてくださいました!

前巻に引き続き、冬のバイゼンで楽しく大騒ぎです。

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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