いつもと違う朝と賑やかな一幕
ぺしぺしぺし……。
「うん、起きてるって……」
小さな手で額を叩かれた俺は、半寝ぼけのまま小さくそう呟いた。
「いい加減に起きて欲しいんだけどなあ〜」
笑ったシャムエル様の声が耳元で聞こえる。
「いやだ、もっともっと、ずっとこの最高なもふもふを満喫するの!」
柔らかな尻尾の毛に顔を埋めつつ、抗議する様にそう言って首を振る。
はあ、やっぱりこのふっかふっかは最高だね……。
「駄目! もう起きなさい!」
その言葉の直後、俺の腕の中にあったもっふもっふな巨大尻尾が、突然スルスルと小さくなっていったのだ。
「ああ、駄目だって〜〜いかないでくれ〜〜〜!」
慌てて目を開いてそう叫んだ俺だったけど、残念ながら一瞬でいつもの大きさに戻ったシャムエル様に思いっきりあっかんべーをされてしまった。
「お触りタイムはもう終わりです! 以上終了! 早く起きなさい!」
そう言って笑いながらぴょんと飛び上がったシャムエル様に腕を蹴られてしまい、わざとらしく悲鳴を上げた俺は腕を押さえる振りをして小さくなったシャムエル様を両手で包み込んだ。
「捕まえた〜〜〜!」
笑いながらそう言い、もふもふの小さな尻尾に顔を埋める。
「やめて! もう定期浄化の術は解除されてるんだから!」
割と本気のシャムエル様の叫びに驚き、一瞬顔を上げたらそのまま手の中から消えたシャムエル様は、すぐベッドの端っこに現れた。
「はあ、私の大事な尻尾の毛が、誰かさんに抱きつかれたせいで変な癖がついちゃってるじゃない! もう! どうしてくれるんだよ!」
「サーセン!」
自分の尻尾を引っ張って確認したシャムエル様の言葉に、思わず謝る俺。
どうやら、寝ぼけた俺のよだれは定期浄化で防げたらしいが、物理的に抱きついた事によって長い毛に癖がついてしまう問題は解決されなかったらしい。
「サーセン!」
即座に尻尾のお手入れを始めたシャムエル様にもう一回謝った俺は、ため息を一回吐いてから広いベッドから降りて立ち上がった。
「ふああ〜〜とりあえず顔洗ってこよう」
大きな欠伸を一つしたところでそう呟き、水場へ向かう。
「ご主人、綺麗にするね〜〜!」
冷たい水で顔を洗ったところで跳ね飛んできたサクラがそう言って一瞬で俺を包む。
解放された時にはサラッサラ、もちろん伸びていた髭まで綺麗にしてくれる徹底っぷり。相変わらずいい仕事するねえ。
「おう、ありがとうな。ほら行っておいで〜〜」
笑って元に戻ったサクラを捕まえ、まずは軽くおにぎりしてからフリースローで水槽めがけて放り込んでやる。
それから、次々に跳ね飛んでくるスライム達を一匹ずつ捕まえてはおにぎりにしてから、水槽めがけてフリースローで投げ続けた。
普段は出てこないクロッシェもご機嫌で跳ね飛んできたから、力一杯おにぎりにしてから投げてやったよ。
「じゃあ戻るから、水の後始末はちゃんとするんだぞ〜〜」
「はあい、ちゃんとしま〜〜す!」
笑った俺の言葉に、スライム達が一斉に良い子な返事をする。
いつもならマックス達やお空部隊の子達がいるから賑やかなんだけど、今朝はスライム達だけだからなんとなく寂しそうだ。
「やっぱり俺も参加するぞ!」
戻りかけたところで笑ってそう呟き、踵を返した俺はそのまま水槽めがけて走っていき、スライム達が泳いでいる水槽に手を突っ込んだ。
「うおりゃ〜〜〜!」
両手で水をすくい、そのまま浮いていたスライム達の上に撒き散らかしてやる。
「きゃあ〜〜!」
「濡れちゃったよ〜〜〜!」
「きゃあ〜〜〜〜!」
しぶきのかかった子達が笑いながら悲鳴を上げる。
「いやいや、水に浮いた状態で濡れちゃったって悲鳴は違うだろう!」
笑ってそうツッコミ、もう一回水に手を入れて思いっきり撒き散らかしてやる。
もう全身びしょ濡れだけど気にしない。
キャーキャーと楽しそうな悲鳴を上げつつ逃げ回っていたスライム達が、一斉にこっちを向いたかと思うとこっちに向かって触手を伸ばして水を噴き出し始めた。
もう全身シャワー状態だよ。
「うひゃあ、ちょっと待てって!」
笑って顔を覆ってなんとか直撃は防げたけど、もう髪の毛の中までびしょ濡れ。
水も滴る良い男の出来上がりだ。
その後も水槽に手を突っ込んではバシャバシャと水を跳ねまくり、俺は久しぶりの水遊びをスライム達と一緒に満喫したのだった。
ちなみに、ハンプールや北方大森林の森林エルフの木の家の水よりもこっちの水温の方がかなり低くて、最後は冗談抜きで体が冷え切ってしまい、寒くて震えていた俺だったよ。
なので少し遅めの朝食は、たっぷりの温かいコーンスープとカリカリに焼いたフランスパンがメインになったのだった。
さてと、少し休んだら新メニュー目指してスープ作りの開始だ。
うん、鍋の定番メニューになる様な美味しいスープ目指して頑張るぞ!




