ルベルの危険性と従魔達の役割
「どうやらもう大丈夫なようだな」
「そうだな。無事で何よりだ。いやあ、今回ばかりは割と本気で心配したぞ」
「全くだ。あんなに焦ったベリーを見たのは初めてだったからなあ」
ため息を吐いた俺がルベルから手を離したところで、笑ったハスフェル達にそう言われて思わず背後にいたベリーを振り返った。
苦笑いしたベリーは、こちらも一つため息を吐いてから小さくなったルベルを指先で突っつく。
「私には、人の子の体の中の状態なども鑑定の術である程度は分かりますのでね。さすがに、さっきのケンの状態を見れば、これは放置は出来ない緊急事態だと判断出来ましたから、急ぎ高位の癒しの術をかけさせていただいたんです。間に合ってよかったですね」
苦笑いしつつも割と本気で心配そうに言われて、俺も思わずルベルを見る。
「す、すまぬ、力加減が完璧に出来るようになるまで、我はご主人には近付かぬようにした方がよさそうだ」
しょんぼりしつつもそう言うルベルに、従魔達が揃って大きなため息を吐いてから、そろってもの凄い勢いで頷かれた。
うん、さっきの俺って割と本気で危なかったみたいだ。
「あはは。俺も命は惜しいから、頑張って力加減を覚えてくれよな。じゃあそれまでは、俺がルベルを撫でてやったり抱きしめてやればいいんだな。こんな風にさ」
誤魔化すように笑った俺は、そう言って今は子猫レベルに小さくなったルベルを両手でそっと抱きしめてやった。
確かに、今のルベルは従魔としては危険な存在かもしれないけど、せっかく従魔になる事を受け入れてくれたんだから、それを後悔したり諦めたりするような事にはなって欲しくないからな。
コロコロと可愛らしい音で喉を鳴らしたルベルは、遠慮がちに俺の手に頭を擦り付けてきた。
それはもうそっと、割れ物に触るかのような力でね。
笑った俺は、今度は遠慮なくルベルを丸ごとおにぎりにしてやったのだった。
しばらくして、顔を上げたルベルが俺から離れてパタパタと飛んでいきマックスの頭の上に留まる。
「自分の危険性を理解出来たところで、今日から特訓よ!」
「そうよ! 従魔がご主人に怪我をさせるなんて絶対に駄目なんだからね!」
「私達が徹底的に教えてあげるわ!」
「今日から特訓よ!」
「覚悟しなさい!」
何故か大張り切りな従魔達に、若干引き気味のルベルはしかし小さく頷いて頭を下げた。
「う、うむ。すまぬがよろしく頼む。確かに、意図した事では無いとはいえご主人に怪我をさせるなど、従魔失格だな」
そう言って、しょんぼりと頭を下げてまたしても凹んでいるルベル。
だが、どうやら従魔にとってのご主人の大切さと自分の危険性はしっかり理解してくれたみたいだ。
そして従魔である自分の立ち位置も、これまたしっかりと理解してくれたらしい。
まあ、大きさこそ自由に変えられるジェムモンスターとはいえ、これは元々のパワーが違いすぎるが故の弊害だな。
人間なんて、アサルトドラゴンのルベルからすれば、冗談抜きで、ちょっとした力の入れ加減であっけなく壊れる薄いガラスのグラス程度の感覚だろう。
いやいや、割り砕かれるのは俺としても絶対に遠慮したいので、ここは従魔達に頑張ってもらおう。
うちの子達の力加減は完璧だからな。
普段から、モーニングコールの度に結構な力で噛まれたり舐められたりしているけど、本当に俺の体には全く傷跡が残らない程度の完璧な力加減なんだからさ。
是非ともその見事な技術を、ルベルに徹底的に教育してやってください!
そう、主に俺の身の安全の為に……。
若干遠い目になった俺がそんな事を考えて黄昏ていると、笑ったハスフェル達に肩を叩かれた。
「じゃあ、落ち着いたところで一旦部屋にもどろう。俺は腹が減ってきたよ」
その言葉に俺も吹き出し、とりあえずスライムベッドから立ち上がった。
「確かに俺も腹が減ったな。じゃあ、部屋に戻って食事にしよう。でもって、今日はもう早めに休んで、明日はオレンジヒカリゴケの採取かな?」
「そうだな。じゃあそれで頼むよ」
笑ったハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんも頷き、とりあえずこの後の予定が決定した。
って事で部屋に戻って作り置きで食事を終えた俺達は、今日は大人しく解散してそれぞれの部屋に戻った。
二日続けて宴会のまま寝落ちは勘弁してほしいからな。




