大宴会!
「最強の魔獣使い殿に乾杯!」
「あはは〜〜〜、愉快な仲間達にかんぱ〜〜〜い!」
もう、何度目か数える気もない乾杯の言葉に、俺も笑って手にしていた吟醸酒のグラスを高々と掲げる。
「ご主人、飲み過ぎですよ。とても強いお酒の香りがします」
その時、背後から呆れたようなマックスの声が聞こえてきてグラスの中身をぐいっと飲み干した俺は、グラスを置いて振り返りすぐ側にあったマックスの大きな顔に力一杯抱きついた。
そのまま鼻歌混じりに抱きついたマックスの頭を俺の体ごと右に左に揺らしてやる。
「これは、ルベルを、無事に、テイム出来た、お祝い、だから〜〜〜、いいの! それに〜〜、無茶、しようと〜〜〜、した〜〜〜、フランマも、無事、だった、から〜〜〜、だから、乾杯してるの! 分かった?」
「まあその気持ちは分かりますが、でもやっぱり飲み過ぎだと思いますよ」
大真面目なその言葉に、俺は笑いながらもう一回マックスに力一杯抱きついた。
「もう、マックス君は真面目ですねえ〜〜〜」
クフクフと笑いながらそう言って、抱きしめたマックスの額に自分の頭を擦り付ける。
我ながら酔っ払ってるなあと密かに呆れていると、軽く羽ばたく音がしてルベルがマックスの頭の上に飛んできて留まった。
大きな爪はむくむくなマックスの毛に埋もれているけど、マックスが痛がっている様子は無いので器用に痛くないようにして留まってくれているのだろう
「ご主人、確かにこれはマックスの言うとおりで飲み過ぎだな。我をテイムした事を祝ってくれるのは嬉しいが、そろそろ打ち止めにした方が良いのでは?」
「ええ〜〜、お祝いなんだから、そんな事言うなよ〜〜、あ! そうだ! 主役なんだから、ルベルも飲みなさい!」
笑ってそう言った俺は、収納していたグラスを取り出し、側にあった吟醸酒を並々とグラスに注いだ。ついでに自分の空になったグラスにも並々と注ぐ。
「ほら、ここに来て! 愉快な仲間達に、かんぱ〜〜い!」
そう言って、バンバンと机を叩き、手にしていたグラスを机に置いたままのグラスに軽くぶつける。
「ああ、こぼれた! 勿体無い!」
置いていたグラスと俺が持っていたグラスの両方から、ぶつけた拍子に吟醸酒がこぼれて机の上に広がる。
「綺麗にしま〜〜す!」
待ち構えていたスライム達が一斉に集まってきて一瞬でこぼれたお酒が無くなったよ。
スライム達は、こんな風にグラスやお皿からこぼれたり落ちたりしたものは食べてもいいと言ってあるので、俺達が飲み食いしている間は側にいて、文字通りおこぼれに与っているのだ。
「ふむ、これはなかなかに良い香りだな」
マックスの頭の上から机の上に飛んできたルベルは、置いてあったグラスを覗き込むようにして香りを嗅ぎ、嬉しそうにそう言うなりグラスに小さな頭を突っ込んでグビグビと吟醸酒を一気飲みした。
「おお、これは美味い。ご主人、もう一杯いただけるか」
グラスから顔を上げて上を向き、味わうかのように目を細めたルベルは、軽く羽ばたいてから俺を見てそう言った。
「おお、いける口か。これは嬉しいねえ。じゃあ次はこれをどうぞ! 愉快ななかまたちにかんぱ〜〜〜い!」
さっき飲んだのは、オンハルトの爺さんが出してくれたお酒で、次に俺が手にしたのはバイゼンの街にある、あのめっちゃ美味しい豆腐懐石料理を出していた和食のお店で買った吟醸酒のうちの一つだ。
祝い酒って名前が付いている。まさに、今日の為にあるような名前だよな。
「おお、これはまたさっきとは香りが違うな。これの方が我は好みだ」
笑ったルベルが、またグラスに頭を突っ込んでグビグビと飲み干す。
「これは驚きました。ジェムモンスターがお酒を飲むなんて初めて見ました」
それを見ていたベリーが目を輝かせながらすっ飛んでくる。
「我もこんな美味い水を飲んだのは初めてだよ」
笑ったルベルの言葉に、もう一杯祝い酒をグラスに注いだ俺が顔の前で手を振る。
「これは米から作ったお酒だから、水とは違うよ」
「ほう、人の世界にはこういう水もあるのかと思っていたが、そうなのか。これを米から作るとは面白い事をする」
面白がるようなルベルの言葉に、笑ったベリーが嬉々としてお酒の作り方をルベルに詳しく説明していた。
どうやら俺達だけじゃあなくて、ベリーもかなり酔っ払っているみたいだ。
俺達はそのまま日が暮れるまで飲み続けてそのまま夕食に移行して、結局ここで一晩過ごす事になったのだった。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
しょりしょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
翌朝、いつもの従魔達のモーニングコールに叩き起こされた俺だったけど、残念ながら全く目が開かない。
ちなみに、頭の中もいつもとは違っていて全然起きていない。
なんと言うか、全体にぐだぐだだ。
うん、これはアレだな。宴会でそのまま寝落ちってパターンだ。でもって思いっきり二日酔い決定。
「うん、起きてるよ……」
そんな事をぼんやりとした頭で考えつつ半ば無意識でそれだけ言った俺は、そのまま気持ち良く二度寝の海へ落っこちていったのだった。ぼちゃん。
はあ、飲んだ翌朝の二度寝、最高〜〜〜。




