ドワーフさん達と
「よし、これくらい出来れば、まああとは何とかなるんじゃあないですかね」
「ありがとうございました!」
ずらっと並んだ料理の数々を前に満面の笑みで揃ってお礼を言うドワーフさん達を見て、俺は安堵のため息を吐いたのだった。
結局、あれから三日がかりでドワーフさん達に料理講習を行い、収納袋に入っている様々な調味料の扱い方や食材の下拵えの仕方に始まり、あのレシピノートに書かれていた料理の作り方を実演しながら詳しく教えていった。
その結果、簡単な炒め物や煮込み料理、それから蒸し料理くらいは五人とも作れるようになったみたいだ。
あとはご飯の炊き方や色んなおにぎりの作り方、簡単なサンドイッチやバーガー系の作り方を教えてあげたところ、ドワーフさん達の食事環境は劇的に改善されたらしい。
またしても大感激状態のドワーフの皆さん達から何度もお礼を言われて、もう笑うしかない俺だったよ。
ちなみに、今後の料理当番はこの五人が交代で務める事になったらしいんだけど、それって裏を返せば狩りに行く機会がこの五人だけ減るって事だよな。
その辺りは大丈夫なのかちょっと心配になってこっそり確認してみたところ、何とこの遠征でドワーフさん達が集めたジェムと素材は、一旦全て集められてギルド連合の管理となるんだって。
この遠征にかかる費用は全てギルド連合が出資しているから、まあそれは当然か。
それで、遠征の参加者達に素材が配布され、ジェムはそのままギルド連合が管理して非常時用の保存分と販売用に分けられるらしい。
一応、参加者達への素材の配布は上限数が決められていて、その数までならどの素材でも貰えるらしい。
もちろん種類ごとに貰える数の上限数は決められているから、ヘラクレスオオカブトの角をあるだけ全部、なんて無茶は出来ないらしい。まあ、それも当然だな。
とは言え、参加者達は武器職人だけでなく防具職人、武器も防具も何でも作るお助け人的な人もいるし、それこそナイフを専門に作る武器職人なんかもいるんだって。
他にも飾り細工などを作る職人さんや、クーヘンのようにアクセサリーなどの宝飾品を作る装飾品専門の細工職人さんなど、様々な職人さん達がいるから、案外欲しい素材はバラバラでほとんど希望通りのものが貰えるんだって。
「へえ、ちなみにユンゲルさんは何を作るんですか?」
料理を教えたうちの一人、背は低いんだけど俺の太ももレベルの腕の持ち主ユンゲルさんは、俺を見上げて笑顔で力瘤を作って見せた。
「俺は、元々は包丁やナイフを作っていた鍛治職人です。今は自分の店や工房は持たずに幾つかの工房と契約して応援要員として働いています。今回の遠征で手に入れた素材は、ギルドで工房を借りて自分で大小のナイフに加工して、ドワーフギルド経由で販売してもらう予定です」
「へえ、そんな方法もあるんですね」
「もちろん、自分の店や工房を持つのがほとんどの職人にとっては夢でしょうが、そうなるといわば経営者的な視点や能力も必要になりますからなあ。特に事務的な事が苦手な者は、逆にそういった事はしなくてもいい、雇われ職人の道を選ぶものも一定数おりますよ。俺もその一人ですわい」
苦笑いするユンゲルさんの言葉に納得する。
確かに、お店を経営しようとしたら事務能力は必須だろうし、仕入れ先や販売先との交渉や、作る材料や素材の在庫を管理する能力だって必要だろう。
いくらギルドで基礎的な部分は教えてもらえると言っても、自分の店や工房を全部管理するのはそれは大変だろうから、そういった雑務にかかる時間を嫌がって、物作りだけをしたいから雇われ職人って道を選ぶ人がいるのも頷ける話だ。
「そう言えば、確かフュンフさんは、武器職人だけど道具屋も経営しているって言っていたな」
初めて会った時の事を思い出しつつそう呟くと、ユンゲルさんだけでなく他のドワーフさん達も揃って笑顔になった。
「ジェムが激減してしまい、ジェムモンスターの素材を使った様々な道具作りがほとんど出来なかった時期に、日銭を稼ぐために道具屋や雑貨屋、金物屋なんかをしていたやつは多かったですよ」
「剣匠フュンフ殿までが道具屋を始めたと、当時の職人達の間で密かな話題になりましたからなあ」
苦笑いしながらのドワーフさん達の話を聞き、やっぱりフュンフさんは職人達の中でも有名な人みたいだと密かに感心していた。
「その頃、空樽亭で水煙草を吸うフュンフ殿と話す機会がありましてな。その際に彼はこう言ったんですよ。いつか必ずジェムモンスターは帰ってくる。だからそれまで何があろうとも物作りはやめない。石にしがみついてでも生き延びてみせる。道具屋で売る品物には仕入れている物もあるが、腕を鈍らせないためにも自分で作っている物も多くあるのだとね」
笑ったユンゲルさんは、俺が先ほど淹れてあげた緑茶の入ったマグカップをゆっくりと揺らした。どうやら猫舌らしく、さっきからずっとそうやって冷ましている。
「剣匠フュンフ殿がそこまで覚悟をして小物の道具を嫌がりもせずに作るのだと聞き、自分も覚悟を決めて仕事を選ばずなんでもする事にしたんです。世話になっていた八百屋の一角を借りて何でも屋の看板を上げてもらい、それこそ迷子の猫探しから家の大掃除の手伝い、引っ越し手伝いから荷物運びまで、もう何でもしましたぞ」
ようやく冷めたらしい緑茶を飲み干してカラカラと笑うユンゲルさんの言葉に、物を作る職人さんとしての覚悟を見た気がして、ちょっと感動のあまり涙目になった俺だったよ。
「良かったですね。頑張って、ここで集めた素材で良い物を作ってください」
「もちろんです!」
涙目を誤魔化すように笑ってそう言うと、五人のドワーフさん達はもうこれ以上ないくらいの良い笑顔で頷き、揃って俺に向かってサムズアップをした。
「次にバイゼンへ行った時に、どれくらいのものが出来ているか、楽しみにしていますね!」
もちろん俺も笑ってそう言い、サムズアップを返したのだった。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




