飛び地に到着!
「さてと、それじゃあ行くとするか」
新人さん達の講習会も無事に終わり、準備万端整えた俺達は早めの朝食を食べてから別荘を後にした。
今からカルーシュ山脈の奥地にある飛び地へ向かうので、もう皆やる気満々だよ。
いつもの貴族用の城門から外に出た俺達は、少しだけ街道の端を一列になって進み、周囲が開けたところで街道から飛び出して一気に走り出した。
しばらく街にいたので、従魔達も鬱憤が溜まっていたらしくそりゃあもう全員揃って巨大化してご機嫌で全力疾走していた。
「うひゃあ〜〜速い! でも気持ちいいぞ〜〜〜!」
マックスの背の上で、俺も吹き付ける風に目を細めつつあまりの快適さに声を上げて笑っていたのだった。
街の中にいる時はもう初夏と言ってもいいくらいの気温だったんだけど、街の中と違って郊外へ出るとまだまだ気温は低めだ。
昼休憩を挟んでひたすら走り続け、途中のピルバグの発生場所では従魔達によるピルバグサッカー大会なんかも急遽開催され、午後の遅い時間になって俺達はようやく目的の飛び地に到着した。
「うええ〜〜こんな硬いイバラ、どうやって切り開くんですか!」
「絶対無理ですよ。これどうやって入るんですか?」
ムジカ君とシェルタン君が、側にあった腕くらいある太いイバラの枝を叩いて呆れたようにそう言ってこっちを見る。
『ええと、恐竜の子達に巨大化して踏み越えてもらうんだよな?』
まさか、ここでギイに金色のティラノサウルスになってもらうわけにもいかず、こっそり念話でそう尋ねる。
『ああ、お前のプティラにも巨大化してもらってくれ。俺のデネブと一緒ならこれくらい余裕だよ』
笑ったギイの答えに、思わず小さくなっているプティラを見る。
「じゃあ、ここはお任せを!」
ちょっとドヤ顔になったプティラがそう答えると、一気に巨大化する。
おお、改めて近くで見るとやっぱり恐竜なんだなって気がするぞ。
プティラの場合、巨大化している時ってほぼ上空にいる時だから巨大化したシルエット自体は見慣れているけど、案外近くで見た事って少ないんだよな。
まあ、あの悪夢の地下迷宮水路落下事件の時、文字通り命懸けで俺の所へセルパンと一緒に来てくれたプティラはそりゃあ頼もしく見えたんだけどね。
「ああ、じゃあよろしく。でも無理はしないでくれよな」
腕を伸ばして、巨大化したプティラを撫でてやる。
妙に静かになったと思って振り返ると、ムジカ君達だけでなくボルヴィスさん達まで巨大化したプティラを見て呆然としている。
「普段は小さい姿ですけど、この子も恐竜ですからね。巨大化すればこれくらいにはなりますって」
ちょっとドヤ顔でそう言ってやると、新人コンビとレニスさんは格好良いと言って目を輝かせ、ボルヴィスさんとアルクスさんは、これは絶対に後日地下洞窟へも行くべきだなと言って真顔で頷き合っていたのだった。
って事で、巨大化したデネブとプティラが文字通りバキバキザクザクとイバラを蹴り飛ばしては踏み固めてくれ、更にその後ろを最大サイズにまで巨大化したセーブルが、時折飛び跳ねながら折れた枝などを危なくないようにしっかりと踏み固めてくれ、おかげで俺達は全く苦労せずに安全に飛び地に入る事が出来たのだった。
「あれ? 先客がいるな」
飛び地特有の緩衝地帯である石の河原のような場所に到着した俺は、かなり奥のところにベースキャンプらしき大きなテントが幾つも張られた場所があるのに気付いて足を止めた。俺の言葉に、当然全員が足を止める。
「ううん、これはどうするべきだ? 同時に飛び地に入るのを嫌がる冒険者もいるからな。ちなみに皆はどうだ?」
困ったように腕を組んでそう言ったハスフェルが、最後は振り返って仲間達を見る。
「俺達は全然気にしませんよ。そりゃあ同じ場所で狩りをして、意図的にこっちの邪魔をされたりしたら怒りますけどね」
「それは俺でも怒る。じゃあそっちは大丈夫だな」
アーケル君の言葉にハスフェルも笑いながら頷き、リナさん達とランドルさん、それからボルヴィスさんとアルクスさんも同意するように頷いている。
新人さん達は、そんな彼らを見てから顔を見合わせて笑顔で頷き合った。
「俺達は、そもそも連れて来ていただいているので文句を言えるような立場ではないです。でも、個人的な意見を言わせていただけるなら、先ほどのアーケルさんの言葉に全面的に同意します」
右手を挙げたシェルタン君の言葉に、こちらも全員が笑顔で頷いている。
「って事は、こっちは問題なし。となるとあとは向こう次第だな。ううん、ちょっと俺達が行って様子を見てくる。もし誰もいないようならとりあえず入ろう。中で出くわしたらそれはそれだ」
苦笑いしたハスフェルとギイがそう言い、シリウスと元の大きさに戻ったデネブに乗って遠くに見える幾つも並んだテントのところへゆっくりと近寄っていった。
まあ確かに、俺や草原エルフの皆さん、それから新人さん達のような見かけが普通の人が行くよりも、ヘルハウンドとブラックラプトルに乗った金銀コンビが行く方が、友好的にお話が出来る気がすると思うのは間違っていないよな。
並んだテントのすぐ側まで近寄った二人がテントに向かって声をかける。さすがの俺の耳でも、あれだけ離れたら声は聞こえない。
テントから誰か出てくるのが見えて、俺達は息を呑んでその様子を見つめていたのだった。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




