サーベルタイガーのテイム!
「ご主人、完全に確保しましたのでもう安全です。せっかくですからテイムなさいますか?」
ちょっとドヤ顔になったセーブルにそう言われて、俺は驚きのあまり言葉が出ない。
「え、ちょっと待ってくれ……それ、テイム出来るのか?」
しばらくしてようやく我に返った俺だったけど、小さくそう呟いたきり動く事が出来なかった。
完全に仰向けに倒れ込んだ状態で、最大サイズになったティグとヤミーとランドルさんの従魔であるサーベルタイガーのクグロフに上半身を、そしてこれも最大サイズに巨大化したセーブルに下半身を完全に抑え込まれたサーベルタイガーは、低い唸り声こそ上げているものの特に抵抗する事もなく押さえ込まれたままじっとしている。
ハスフェル達は全員が呆気に取られたようにこっちを見ているだけで、誰も何も言わない。
「どうしますか?」
こっちを見たセーブルの言葉に、小さく唾を飲み込んだ俺はゆっくりとマックスの背から降りた。
「完全に確保したのか?」
「ええ、もう完全に確保していますから、今なら、ご主人であればテイム出来ると思いますよ」
笑ったように目を細めたセーブルの言葉に小さく頷いた俺は、仰向けに押さえ込まれたままこっちを睨みつけているサーベルタイガーを見た。
喉元に噛み付いているティグが普通の虎に見えるくらいに、このサーベルタイガーはとにかくデカい。
こいつは間違いなく雄だ。口元から飛び出す牙は、俺の腕くらいは余裕でありそうだ。
それでも、従魔達が文字通り身を挺して確保してくれたんだから、テイムしないと言う選択肢は俺には無い。
落ち着かせるように大きく深呼吸を一つした俺は、ゆっくりとサーベルタイガーに近寄っていった。
「おい待て。何をする気だ!」
「危ないぞ!」
焦ったようなハスフェルとギイの叫ぶ声が聞こえて俺は笑って振り返った。
「従魔達が確保してくれたんだ。せっかくだからテイムしようと思ってさ」
「はあ? そのサーベルタイガーをテイムするだと?」
「おいおい、マジか……」
呆れたような二人の声が聞こえて、リナさん一家をはじめほぼ全員の口から悲鳴のような叫び声が上がった。
「やめてください!」
「ケンさん、いくらなんでも無茶ですって!」
新人コンビの叫ぶ声に、俺は笑顔で振り返った。
「じゃあ、最強の魔獣使いのテイムを見せるから、今後の参考にしてくれよな」
ここは意地でも余裕がある振りをしてにっこり笑っておく。
まあ、実を言うと実際には膝が震えそうになるのを必死で我慢しているんだけどさ。
サーベルタイガーの側まで来た俺は、もう一度深呼吸をしてからそっとティグの背中を叩いた。
心得ているティグが、噛み付いていた口を離して少し下がってくれた。
おかげで無防備な喉元が丸見えになる。
ヤミーとクグロフは、左右から前脚の付け根から胸元の辺りに噛み付いて押さえ込んでいるのでそのまま動かない。下半身は、セーブルが大きな体を使って完全に押さえ込んでいる。
それでもまだ闘志を失っていないサーベルタイガーは、仰向けになったまま俺を睨みつけながら低い唸り声を上げている。
大きく息を吸い込んだ俺は、まずはいつものようにガッチガチに凍らせた氷の塊を作り出した。
それを見て、後ろに控えていたティグが俺のすぐ横まで来て、前脚を伸ばしてサーベルタイガーの喉元をぐいっと押さえてくれた。
驚いたようにサーベルタイガーが口を開いたタイミングで、俺は手にしていた氷をサーベルタイガーの口の中に力一杯押し込んだ。
咄嗟に噛み付いたサーベルタイガーだったが俺の作り出した最強の硬度を誇る氷が砕ける事はなく、氷を咥えたまま目を白黒させるサーベルタイガー。
俺は、そのまま無防備な喉元を右手で力一杯押さえた。
ティグもそのまま手を引かずに押さえてくれているし、他の子達もそれに合わせてさらにググッと力を込めて押さえ込んでくれる。
「俺の仲間になれ!」
仲間になるか? ではなく、ここは命令形だ。
低く唸るサーベルタイガーが、嫌そうに首を振ろうとしてティグのもう片方の脚でさらに頭も押さえ込まれる。
「もう一度言うぞ。俺の、仲間に、なれ!」
全体重を右手にかけて、声に力を込めて一言一句区切るようにしてそう言う。
しばしの沈黙の後、目を閉じたサーベルタイガーがゆっくりと喉を鳴らし始めた。
遠雷のような、ティグの喉を鳴らす音よりもさらに低い音が辺りに響き渡る。
「砕けろ!」
もう大丈夫と見て俺がそう言うと、サーベルタイガーの口に押さえ込まれていた氷が粉々になって砕け散った。
それを見て、ティグやセーブル達も手を離してゆっくりと離れる。
一旦転がってから起き上がったサーベルタイガーは、まだ喉を鳴らしたまま俺の前に改めて座り直した。両前脚をきちんと揃えた、いわゆる良い子座りだ。
「はい、貴方に従います」
低い声でそう答え、長い尻尾の先がゆっくりと左右に動く。
「紋章はどこに付ける?」
手袋を外しながらそう尋ねると、サーベルタイガーは座ったまま胸を大きくそらした。
「ここにお願いします!」
当然、巨大化した猫族軍団の皆が、同じように胸元に刻まれた紋章を見せていたからまあそうなるよな。
「お前の名前は、ファングだよ。よろしくなファング」
右手を胸元に押し当てながらそう言う。
まんま、牙って意味の英語だ。
だって、あの巨大な牙を見たらもうこの名前しか思いつかなかったんだから仕方ないって。
ピカっと光ったファングが、なんともう一回りググッと大きくなった。
ええ、まだデカくなるのか?
驚きに目を見開いた俺を見て、目を細めたファングは声のないニャーをしてからググッと小さくなった。
まあ猫サイズになってもランドルさんのクグロフと同じで不自然なほど巨大な牙が丸見えだから、猫だと言い張るにはかなり無理があるんだけどさ。
「では、普段はこれくらいの大きさになっておきますね。ご主人のお役に立てるように頑張ります」
得意そうな猫サイズになったファングの言葉に、俺は笑ってそっと小さくなったその体を抱き上げてやったのだった。
おお、これまたもっこもっこの毛並みだねえ。良き良き。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




