大注目!
「うわあ、大注目だ〜〜〜」
ムービングログを進ませながら、俺は周りの街の人達の様子を見て思わずそう呟いた。
「そうだよな。ムービングログはバイゼンの外にはあまり出ていないって言っていたし、王都ならいざ知らず、さすがに遠いハンプールにはまだ来ていなかったか」
いつもよりもかなりゆっくりとムービングログを進ませながら小さく吹き出し、もう笑うしかない俺だったよ。
何しろ、ムービングログに乗った俺を見たほぼ全員が、ポカンと口を開けてこっちを見たまま固まっているんだからさ。もう見事なまでに全く同じ反応。店の人も通行人も、ほぼ全員がその状態だ。
それで、俺が通り過ぎたところで一気に喋り出すもんだから、俺の背後が何やら大変な騒ぎになっている。
「おいおい、ケンさん。一体それは何なんだい?」
いつもお世話になっている八百屋のご主人が笑いながらそう言ってこっちに向かって手を振っていたので、ムービングログをそっちへ向けて進ませて店の前で止める。
「はい、これはムービングログって言いまして、ジェムで動く乗り物です」
「ムービングログ?」
八百屋のご主人だけでなく、周りにいた人ほぼ全員が一斉にそう言ってまた黙り込む。でも、全員の視線はムービングログに張り付いたままだ。
「ええ、ここへ来る前、俺達は冬の間中バイゼンにいたんですよ。そこで買ったジェムで動く最新式の乗り物です。ほら。前だけじゃあなくて後ろにも進むんですよ」
笑ってそう答えて、ゆっくりと止まってから後ろに体重をかける。
俺の体重移動に合わせてゆっくりと後ろに進み始めたムービングログを見て、周囲から一斉に驚きの声が上がる。
「こりゃあ驚いた。へえ、さすがは世界に名だたる工房都市だねえ。そんな乗り物、俺は生まれて初めて見たよ」
感心したような八百屋さんのご主人の言葉に、これまたあちこちから同意の声が上がっている。
「まあ、普段はマックスがいるから乗らないんですけどね」
苦笑いしつつそう言うと、あちこちから、そうだそうだ。ケンさんはマックスに乗るべきだって声が上がって、もう一回堪えきれずに吹き出した俺だったよ。
その後で八百屋さんで色々と春野菜を買い込み、それ以外にも声をかけられる度に店に立ち寄りもう大丈夫だと思うまでガッツリと買い込んだのだった。
「よし、これくらいあれば大丈夫かな。じゃあギルドに戻って皆と合流したら別荘に戻って料理だな」
手にしていた鞄を背負ってムービングログに乗った俺は、またしても街中の人達の大注目を集めつつ冒険者ギルドへ戻って行ったのだった。
「ええ? ケンさん、何だよそれ!」
俺が冒険者ギルドに到着して、ムービングログから降りたタイミングで中からエルさんと何人かの職員さん達が駆け出してきた。
その後に、中にいた冒険者達も続いて駆け出してくる。
出かける時には冒険者ギルドを出てからしばらくしてこれに乗ったから、どうやら中にいたエルさん達はこれに気付かなかったみたいだ。
皆、興味津々でムービングログに大注目だ。
「ええと、冬の間にいたバイゼンで購入した最新式のムービングログっていう乗り物です。ジェムで動きます」
俺の説明に、エルさんが納得したように大きく頷く。
「ああ、これが噂のバイゼンの創作の女神が作ったっていう新作の乗り物、ムービングログなんだね。へえ、話には聞いていたが、本当に人を乗せて動くんだね、こりゃあ凄い」
どうやらギルドマスター間での報告書的な何かで、エルさんのところにはムービングログの報告が来ていたみたいで、名前は知っていたらしい。とは言え実物を見た訳ではないので、ジェムで動く乗り物と言われてもどんな物なのかを想像出来なかったんだろう。
腕を組んでしきりに感心するエルさんは、まるで子供みたいにキラッキラの目をしている。
「ええと、よかったら後で少し乗ってみますか?」
小さな声でそう言うと、顔を上げたエルさんは首がもげそうな勢いで何度も頷いていた。
って事で、一旦ムービングログを収納してエルさんと一緒に建物の中へ入る。
ちなみに俺がムービングログを収納した途端に、集まっていた冒険者達は苦笑いしながら散っていった。
「おかえりなさ〜い」
奥の壁面のテーブル横では巨大なもふ塊が出来上がっていて、俺を見て眠そうにしつつ手を振ってくれたアーケル君達だけでなく、ハスフェル達も含めた全員があちこちに埋もれていた。
「人が食糧調達に行っている間に、何をそんな楽しそうな事してるんだよ! 俺もまぜろ〜〜!」
笑いながらそう叫んで、マックスとニニの間に飛び込んでいく。
「ご主人きた〜〜〜!」
「おかえりなの〜〜〜!」
それを見たヤミーとマニが、その上から飛びついてくる。
当然そのまま俺はもふもふの海に沈んでいったよ。
「はあ、癒される……って駄目だって。ここで寝てどうするんだって」
マックスとニニのもふもふに埋もれて小さくなったヤミーとまた一回り大きくなった気がするマニを両手で抱きしめた俺は、吸い込まれそうな睡魔に一瞬負けかけて慌てて起き上がった。
マニが不服そうに鳴いたので、笑って大きな顔を両手で力一杯おにぎりにしてやる。
「くっつくのは別荘に帰ってからな。よし、じゃあ帰るか」
俺の声に、従魔達がゆっくりと起き上がったり動いたりしてもふ塊に埋もれていた全員が苦笑いしつつ立ち上がる。
「ええ、帰っちゃうのかい?」
背後から聞こえた悲しそうな声に、振り返った俺は思わず吹き出したよ。
だって、そこにはエルさんだけでなく、さっき外に駆け出してきた職員さん達までもがすっごく悲しそうな顔でこっちを見ていたんだからさ。
「ああ、そうだった。ええと、エルさん達がムービングログに乗ってみたいんだって。帰る前に、皆の手持ちのムービングログも少しだけ貸してもらってもいいか? 俺の一台だけだと、絶対に今日中に別荘に帰れないだろうからさ」
苦笑いした俺の言葉に、ハスフェルとギイが驚いたように俺を見た。
「お前、あれに乗って買い物に行ったのか?」
「おう、マックスも置いて行ったから、歩くよりこっちの方が早いし楽だからな。あれ? もしかして乗っちゃあ駄目だった?」
特に他の街で乗るなとは言われていなかったので気にせず乗ったんだけど、もしかして駄目だったんだろうか?
不意に心配になってそう尋ねると、笑ったハスフェルとギイが揃って首を振った。
「いや、その逆だよ。他の街でもどんどん乗ってくれってギルドマスター達に言われているよ。一応、各街のギルド経由で問い合わせや販売が出来るようになっているらしいから、どんどん宣伝して欲しいらしいぞ」
「あはは、成る程ね。自分の屋敷の敷地内で主に乗る王都の貴族の人達と違って、俺達は街の中で乗るから宣伝効果が高いわけだな。じゃあ遠慮なく乗らせてもらおう。それで何か聞かれたら、各ギルドに問い合わせてくれって言えばいいんだな」
「ああ、それでいい……んだよな?」
最後は、笑顔でこっちを見ているエルさんにそう尋ねるハスフェル。
「ああ、それでいいよ。バイゼンのギルド連合からもそう報告を受けているからね。じゃあ運動場へお願いします!」
笑顔のエルさんの言葉に、もう笑うしかない俺だったよ。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




