冒険者ギルドにて
「じゃあ、またあとでな」
「はあい、それじゃあまたあとで〜〜」
街へ入ったところで一旦解散した俺達は、笑顔で手を振るアーケル君達を見送ってからハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんと一緒にまずは冒険者ギルドへ向かった。
「おや、ケンさん。こんな時間に珍しいね」
俺達が冒険者ギルドの建物に入ると、ちょうどカウンターから出てきたところだったエルさんがいて、手を振りながら側へ来てくれた。
昼過ぎの時間は、いつもなら人が多い冒険者ギルドも閑散としている。
まあ、雨の合間の貴重な晴れ間も見える曇りの日だ。近場へ狩りに出ている冒険者も多いのだろう。もしかしたら、前回の俺達みたいにマッドフィッシュ釣りに行っているのかもしれない。
「ええと、手持ちの肉が減ってきたので、今回はお肉をがっつり捌いていただこうと思って来ました」
苦笑いしながらの俺の言葉に、エルさんが笑顔で頷く。
「もちろん喜んでお手伝いするよ。じゃあ奥へどうぞ。担当者を呼んでくるからね」
そう言ってエルさん直々の案内で奥にある別室へ通され、やってきたお肉担当と思しきハスフェル達並の筋骨隆々なスタッフの皆様達に取り囲まれた俺は、鞄に入ったアクアが出してくれるハイランドチキンとグラスランドチキンをはじめ、グラスランドブラウンブルとグラスランドブラウンボア、それから岩豚とレッドエルク、水鳥もまだまだあったのでそれぞれがっつり取り出して、エルさんとスタッフさん一堂に驚きと歓喜の悲鳴を上げさせたのだった。
まだまだ手持ちはあると聞いたエルさんの必死のお願いにより、それぞれ数頭ずつを丸ごとギルドに販売する事にしたよ。
マックス達によると、岩豚以外は狩りに出た時に見つければ時々こっちの在庫にも追加をしてくれているから、どれもまだまだ在庫は余裕らしい。
「そういえば、岩豚は冬限定なのか?」
手持ちの高性能の時間遅延の収納袋と一緒に捌いてもらう獲物各種を引き渡した俺は、嬉々として預かり票を書いてくれているスタッフさん達を眺めつつ側にいたマックスに小さな声でそう尋ねた。
「岩豚自体は、幾つか生息地域があってもちろん年中狩り自体は出来ますよ。ですが、あれくらいに脂がのっているのは冬限定ですね。今はまだ若干脂身が少なくなっているくらいで充分美味しいですよ。夏場は体が細くなって筋肉がグッと増える時期なので、脂身が減って肉は硬くなりますね。まあそれはそれで味があって美味しいんですが、人間はあまり好まないようですね」
「へえ、そうなんだ」
夏場と冬場でそこまで味が変わると聞いて、思わずそう呟く。
「ん? どうしたんだい?」
俺の呟きが聞こえたらしく、エルさんが手を止めてこっちを振り返る。
「いえ、今マックスから岩豚の冬と夏の肉の違いについて聞いて驚いたんです。夏と冬でそんなに違うんですか?」
間違いなく知っているであろう人に質問してみる。
「ああ、確かに全然違うね。普通に焼いて食べれば同じ岩豚だって言われても絶対納得出来ないくらいには違うね。夏場の岩豚は、とにかく硬いんだよ。なのでそのままではなく薄切りにして塩漬けや味噌漬け、あるいは小さめの塊にして燻製にしたり、ソーセージなどの加工肉にするのが主流だね。あれはあれで美味しいんだけど、冬場の脂身たっぷりの肉とは全くの別物だよ」
「へえ、そうなんだ。それはそれでちょっと食べてみたいかも」
思わずそう呟くと、すぐ横にいたマックスの目がきらりと光った。
「それならご主人、セーブルによるとカルーシュ山脈の奥地にも岩豚の生息地があるようですから、夏の早駆け祭りの前に一度行ってみましょう。岩豚なら簡単に狩れますから、好きなだけ取ってきて差し上げますよ」
「あはは、そうなんだ。じゃあせっかくだからお願いしてみようかな。でも無理はしなくていいからな。狩りの基本はお前達の食糧確保が第一なんだからさ」
「もちろんです。我らには大した事ではありませんよ」
俺の言葉に目を細めたマックスが、ちょっと得意そうにそう言って胸を張るように顔を上げた。その後ろでは猫族軍団をはじめとする従魔達も、それぞれドヤ顔で揃ってこっちを見ている。
「お前らも、いつもありがとうな。だけど今マックスにも言ったけど、無理はしなくていいからな。最優先はお前達の食糧確保なんだからさ」
「もちろん分かってるわ。大丈夫だから安心して受け取ってね」
こちらも目を細めたニニにまでそう言われて、笑った俺は手を伸ばしてニニのもふもふな首元も撫でてやった。
「いつもありがとうな。お前らのおかげで俺は楽させてもらっているよ」
大きく喉を鳴らしたニニの横から、マニが俺の胸元に飛び込んでくる。
「はいはい、マニも一緒だよな。皆に教えてもらって頑張って狩りもするんだぞ。でも、無理はしない事、いいな?」
「はあい、もちろんでしゅ〜〜〜」
何故か語尾が赤ちゃん言葉になったマニが甘えるように俺の腹に頭をぐりぐりとこすりつけてくる。
「ああもう、お前はなんて可愛いんだ!」
思わずそう叫んでマニの大きな顔を両手でギュッと抱きしめてやる。
そのままカッツェを先頭に従魔達総出で押し倒された俺は、歓喜の悲鳴をあげてもふもふの海に沈んで行ったのだった。
「相変わらずだねえ」
「まあ、従魔達とこれ以上ないくらいの相思相愛だからな」
「みたいだね。いやあ、最強の魔獣使いは連覇を逃しても健在のようで安心したよ」
「うっ、それを言われると、俺の賭け券を買ってくれた皆様に申し訳なくなるので勘弁してください!」
笑ったエルさんとハスフェルの会話が聞こえてきて、思わずもふもふの海から顔だけ出してそう言い返す俺。
顔を見合わせた俺達はほぼ同時に吹き出し、全員揃って大爆笑になったのだった。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




