生姜の甘酢漬け作りと鰹のたたき
「さて、これで完了かな。他に用意するものってあったっけ?」
試食を食べ終えたシャムエル様が満足そうに尻尾のお手入れを始めたのを見て、苦笑いした俺は立ち上がった。
もう、ああなっては尻尾は触らせてもらえない。
「紅生姜も少し刻んでおくか。本当ならガリが欲しいんだけど、あれってどうやって作ったっけ? 確か定食屋で店長が作っていたのを手伝った覚えがあるけど、詳しいレシピは覚えてないなあ……」
前回思ったんだけどやっぱりガリが欲しい。そう、寿司にはつき物の、甘酢で漬けた薄切りの生姜だ。
新生姜は見つけて買ってあるので、ガリは出来れば作りたい。
しばし無言で考えた俺は、こんな時の参考書、師匠のレシピ帳を取り出して開いた。
探したのは材料別の索引ページで、生姜の項目だ。
「あ、ある! 新生姜の甘酢漬け。よし、作ってみよう!」
期待通りにレシピを見つけ、まずは書かれたそれを熟読する。
漬ける部分の時間経過はスライム達にお願い出来るので、早速材料をサクラに取り出してもらう。
用意したのは新生姜の塊と塩、米酢と砂糖だ。
それから、別の鍋に水をたっぷり入れて火にかけて沸かしておく。
「じゃあ、この新生姜を全部、こんな風に皮をむいて薄切りにしてくれるか。それでこっちのバットに全体に広げておいてくれるか」
少しだけ見本を作って見せれば、あとは待ち構えていたスライム達がすぐに準備してくれる。
新生姜を飲み込んだ子達がモゴモゴし始めたのを見てから、大きめの片手鍋を手にした俺は、米酢と砂糖を師匠のレシピに書かれた配合通りの量で計り、軽く火にかけて温めて酢に入れた砂糖を溶かした。
「ん、もうちょい甘めかな」
一応味見をしてみて、まだかなり酸っぱかったのでもうちょい目分量で砂糖を追加する。
「よし、これでいいな。ああ、そっちも準備完了だな」
コンロの火を止めてから振り返ると、作業台に並んだバットにぎっしりと薄切りの新生姜が広げられていた。
「ありがとうな。じゃあこれに軽く塩を振って、と」
塩の入った瓶を片手に、広げた薄切りの新生姜の上に塩を振りかけていく。
「ええと、これ一時間くらい進めてくれるか」
「はあい、一時間くらいならすぐだよ!」
俺の指示に、待ち構えていたスライム達がバットを次々に飲み込んでいく。
「じゃあ、出来上がったらこっちのザルに新生姜を入れてまとめてくれるか」
一番大きな金属製のザルを取り出しておく。
「はあい、じゃあ入れるね〜〜!」
時間経過を終えた新生姜のスライスをザルにまとめたら、沸いてきた熱湯を回しかけて塩を流す。
そして、用意しておいた大瓶に軽く水気を切った新生姜の薄切りを入れて、先ほど作っておいた甘酢をその上からたっぷりと流し入れる。
残りも順番に同じように作っていくよ。
途中で、用意していた甘酢が足りなくなって急いで追加を作ったから、思ったよりも新生姜の塊が大きかったみたいだ。
「じゃあ、これ三日くらい時間経過をお願い。ちょっと赤い色が出るけど大丈夫だからな」
出来上がった大瓶にしっかりと蓋をしたら、時間経過をお願いしておく。
「はあい。了解です! ちょっと時間がかかるけど頑張りま〜〜す!」
さすがに三日の時間経過はすぐってわけにはいかないみたいで、三匹ずつくらい合体したスライム達が全部で五個用意した大瓶を一つずつ飲み込んでモゴモゴし始めた。
「じゃあよろしく。さて、寿司の仕込みは完璧だし、ちらし寿司もたくさん作ったからもういいかな? 他に何か……」
生魚の材料はまだまだあるから、出来ればもう一品くらい作りたい。
しばし考えた俺は、にんまりと笑って鰹の身の塊を手にした。
これは背中側の分厚い方の身だ。
「さすがに藁はないから、コンロの火で炙るか。ええとこれは火が跳ねる可能性があるから、離れていてくれるか」
長い鉄の串を手にした俺の言葉に、作業台の上でモゴモゴしていたスライム達や、使った道具を綺麗にしてくれていた他の子達が、揃って慌てたように離れてくれた。
「おう、それじゃあこれを串に刺してっと」
充分に離れたのを確認した俺は、笑ってそう呟きながら用意した鰹の身を鉄の串に刺していく。
「コンロの火は強くして、周りをしっかりと一気に焼いていくぞ!」
そう言って強火にした炎で豪快に焼いていると、時折パチパチと音がして小さな雫が跳ね始めた。
「熱っ!」
腕に飛んだ雫に小さく悲鳴を上げつつ、一気に焼いていく。
「ねえ、それは何をしているの?」
右肩に現れたシャムエル様が、恐々と俺の手元を覗き込みながらそう尋ねる。
「これは鰹のたたき。表面だけこんな風に火を入れて、分厚めに切った身は、青ネギと青じそを細かく刻んだのと一緒に盛り付けるんだ。それで、ポン酢でいただく刺身の一種だな」
「へえ、火を入れた刺身もあるんだね。これの試食は?」
興味津々のシャムエル様の言葉に、堪え切れずに吹き出す俺。
「薬味の準備をするから、もうちょっと待ってくれよな」
最後の一つを焼き終えた俺は、コンロの火を消してから一旦焼いた鰹は全部まとめて自分で収納しておく。
「ご主人、使うのはネギと青じそですか?」
俺とシャムエル様の会話が聞こえていたらしいサクラが、そう言いながら青ネギと青じその刻んだのを取り出してくれる。
刻みネギは普段から何かと使う薬味なので、下準備をしたのをまとめて用意しているんだよな。
青じその刻んだのも、この前刺身のツマを作った時にまとめて用意してもらってあるからそれを使うよ。
「おう、ありがとうな。じゃあこれを厚めに切ってくれるか」
焼いた鰹を全部取り出してスライム達に切ってもらう。
大皿にたっぷりとネギと青じそを盛り付け、その上に切った鰹を盛り付ければ完成だ。
「鰹のタタキの完成だよ。はい、これが味見な」
先ほどから高速ステップを踏んでいるシャムエル様の前に、小皿に盛り付けた鰹のタタキを置いてやる。
使ったのは師匠特製のポン酢だよ。
「うわあ、美味しそう! では、いっただっきま〜〜〜す!」
大興奮状態でそう宣言したシャムエル様は、やっぱり顔から突っ込んでいった。
「うん、お刺身とはまた違った食感だね。これ好き〜〜〜!」
どうやら気に入ってくれたらしく、あっという間に一切れ食べたシャムエル様は、今から収納しようと思っていた山盛りの鰹のタタキの大皿を見てから、俺を見上げた。
「はい、もう一切れだけな。あとは向こうで好きなだけどうぞ」
苦笑いしてもう一切れ、大きそうなのを取ってやった俺は、そう言いながら半分くらいになったネギと青じその上にそれを置いてからポン酢を回しかけてやった。
「ありがとうね! 美味しい〜〜〜!」
ご機嫌で追加を食べ始めたシャムエル様の尻尾をこっそり突っついた俺だったよ。
さて、準備も整った事だし、いよいよ二度めの寿司パーティーの開始だぞ!
クーヘンやバッカスさん達も気に入ってくれるといいのにな。
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にてコミックス第四巻が、本日、2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむく第四巻を、どうぞよろしくお願いします!
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となります「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついに、もふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!




