大型水棲恐竜のジェム
「おお、これは素晴らしいですね。来月にはまた別の商人の方々が団体でお越しになる予定ですから、これだけあれば満足していただけると思います」
手渡した委託のリストを見たクーヘンが、それはそれは嬉しそうな笑顔でそう言って頷いている。
「売り上げ、期待しておくから頑張って商談してください。ああ、こっちのジェムも値段が決まったから、後でまとめて収納袋に入れてリストと一緒に渡すよ」
そう言って、ギルドマスターからもらった評価価格の書かれたリストを見せる。
「こ、これは……未発見の大型水棲恐竜のジェムですって? しかも素材の骨や鱗、ヒレや角まで! す、素晴らしい……」
俺が見せたリストを確認して、固まったままプルプルと震え始めるクーヘン。
「是非! 是非とも思いっきり好きなだけ置いて行ってください! 私が責任を持って販売させていただきます!」
唐突に我に返ったらしいクーヘンがキラッキラに目を輝かせて叫ぶ言葉に、俺達はもう乾いた笑いしか出ない。
「以前、王都の商人から聞いたのですが、王都の貴族の方々は、他の人が持っていない珍しい物にはそりゃあもう平然ととんでもない金額を出してくれるのだとか。これが市場に出ればどれほどの騒ぎになるか……これはちょっと楽しみですね」
満面の笑みのクーヘンの言葉に、もう一回乾いた笑いをこぼした俺達だった。
「ですがこれは、誰に最初に売るかによって、今後の付き合いが変わりそうですねえ。ううん、これは大変だ」
腕を組んで考えていたクーヘンの苦笑いしながらの言葉に、ギルドマスター達も揃って苦笑いしている。
その後、クーヘンとお兄さんまで加わり、ギルドマスター達と何やら顔を寄せて真剣な様子で話を始めた。
どうやら、まずどこの商会にこれを売るか、冗談抜きで相談しているみたいだ。
まあ。この辺りに関しては俺達は正直に言って全然分からないので、もう全部まとめてお任せの丸投げだよ。
「あ、でも……」
そう考えていて、不意にある事を思いついて小さくそう呟くと、聞こえたらしいエルさんが凄い勢いで振り返った。
「どうしたんだい? 何か問題でも?」
真顔のエルさんはちょっと怖い。
「ええと……」
困ってハスフェル達を振り返ると、彼らも揃って不思議そうにしている。
「どうした?」
「何か問題でもあるか?」
彼らにまで揃って不思議そうに聞かれて、俺はクーヘンから返してもらった評価価格の書かれたリストを見る。
「うん、俺達が持っているこの未発見の大型水棲恐竜のジェム。委託するのは全然問題ないんだけど、これって持っているのは俺達だけじゃあないよな?」
俺の言葉に、ハスフェル達が納得したように大きく頷く。
「そうか。これは彼らも持っていたな」
「彼らって誰!」
ギルドマスター三人の声が綺麗に重なる。
「リナさん一家だよ。冬籠りの間中、彼らもケンタウロス達と一緒に何度も最下層の水没地帯に入っている。ランドルも水没地域へは入っていないが、ケンタウロス達によるとランドルにもそれなりの数で渡していると聞いているよ」
「リナさん達も、自力で確保したジェムと素材に関しては全部持っているはずだから、それなりの数になっているはずだ。もしかしたらもう、何処かで売っているかもな」
笑ったハスフェルとギイの説明に、ギルドマスター三人の悲鳴が重なる。
そして揃って真顔になった三人は、またしても顔を寄せて真剣な様子で相談を始めた。
今回はクーヘンとお兄さんは不参加だ。
「しかし、万一にもこれがすでに市場に出ていたとすれば……」
「いや、それは有り得なかろう。これが市場に出れば、俺達の耳に入らない筈はない」
「でも、これを持って王都へ行っているんですよね。だとしたら、売らない方が不自然です」
しばらく相談していた三人は、揃って大きなため息を吐いてからこっちを振り返った。
「とにかく、一旦ギルドへ戻りましょう。それで向こうに部屋を用意しますので、クーヘンへの委託分も含めてギルド連合と改めて商談させてください。それからそのランドルさんとリナさん一家の持っているジェムと素材については、彼らに直接確認します。もしも何処かにすでに売っているなら、大至急そこと連絡を取って、誰に売ったのか確認します」
「だな。それがいいだろう。じゃあひとまずギルドへ戻ろう」
苦笑いしたハスフェルの言葉に、俺はリストを自分で収納して立ち上がった。
お兄さんはお店に戻り、クーヘンも一緒にまずはギルドマスター達と一緒に冒険者ギルドへ戻ったのだった。
一応、各自の用事を済ませたら冒険者ギルドで集合する予定にしていたから、あそこで待っていればリナさん達やランドスさんも戻ってくるだろうからね。
マックスの背の上で揺られながら、貴族相手の商売って大変なんだなあと、ちょっと遠い目になっていた俺だったよ。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となります「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にてコミックス第四巻が、2025年3月12日に発売となります!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむく第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




