刺身祭りだ〜〜!
「じゃあ、準備するから適当に寛いで待っていてくれよな」
別荘に到着したところでそう言い一旦解散したんだけど、結局全員がリビングに集合していたよ。
リビングで好きに寛ぎ始めた皆を見て笑った俺は、そう言ってリビングに併設されているキッチンへスライム達を引き連れて向かい、早速刺身の準備を始めた。
まあ、せっかくマグロが大量に手に入ったのだから、もちろん刺身だけじゃあなくて今日も握るし巻くよ。
だって、俺が食べたいからね!
一応、今日のところは特に変わった料理はせずに各種魚の刺身とマグロの握り、それから鉄火巻きをメインにする予定だ。
まず昨日の半分の量ですし酢を作り、スライム達に酢飯を用意してもらう。
刺身用のカットはもちろん、俺が説明しながら少し実演しただけでスライム達が全部やってくれたよ。まあ、基本的には昨日の握り寿司と変わらないんだけどね。
ちなみに、ギルドで捌いてもらった際に、カジキと本マグロは部位ごとに分けてくれているのでそのまま受け取っている。でもって、本マグロの大トロだけは別にして俺が自分で収納してあるよ。
絶対美味しい超レアの部位。これを食べずして何を食べるのかって感じだよな。
まあ、これだって普通の本マグロよりかなり大きかったので当然大トロも大量にあるんだけどね。
もちろん筋や皮、骨も完璧に取り除かれているので、マグロだけでなく他の刺身用の魚の身だって、どの部位も艶々のピッカピカだよ。
大トロを握りにしたところで我慢が出来ず、一つだけ軽く醤油をつけて口に放り込む。味見だ味見!
「うおお、何、この濃厚な脂は! マジで、口の中でとろけたぞ!」
うっとりとそう呟き、思わずもう一つつまみ食いしたところで右肩に現れたシャムエル様に思いっきり耳を引っ張られた。
「ちょっと、何を一人でそんな良い事してるの! ほら、私にも味見させてください! あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
もふもふ尻尾を俺の首筋に叩きつけつつ高速味見ダンスを踊ったシャムエル様が、何故かドヤ顔で小皿を取り出す。一瞬ですっ飛んできたカリディアも、一緒になってもふもふ尻尾で踊りながら俺の首筋を叩いている。
これ、何のご褒美ですか?
「あはは、まあ味見は料理をする人の特権って事にしてくれ。はいどうぞ。これが大トロ。マグロの部位の中では最高に脂がのって美味しい部分だよ」
笑いながらそう言って、もう一つ大トロを握って差し出された小皿にのせてやる。
「お醤油をちょっとだけ垂らして〜〜では、いっただっきま〜〜〜す!」
嬉々としてそう叫んだシャムエル様は、やっぱり顔から握り寿司に突っ込んでいった。
「ふおお〜〜〜何これ! 岩豚並の脂の美味さだね!」
あっという間に完食したシャムエル様がキラッキラの目で俺を見つめるのを見て、俺は大トロをメニューには出さずに独り占めするのを諦めたのだった。
うん、これは数量限定にして、各自に先に取り分けてお皿ごと渡しておくのが正解な気がするよ。
いつものように並べて好きに取らせたら、間違いなく争奪戦で俺は完敗する未来しか見えないからさ。あはは……。
大根の細切りをスライム達に大量に作ってもらったのと、大葉もどきがあったのでそれを一口サイズに切り、水で戻したわかめも刺身を盛り合わせる際に適当に下に敷いておく。
一応これも食べられると言っておけば、あいつらならつまごと持っていってくれるだろう。
大きな大皿には各種魚をつまを使って高低差も作りつつ綺麗に盛り合わせ、中くらいのサイズのお皿にはマグロを部位ごとにこちらもつまで高低差を作って綺麗に盛り付けておく。
赤身と中トロの握りは四角い大皿にびっしりと隙間なく並べ、少し考えて、大トロは回転寿司みたいに二貫ずつを小皿に並べておいた。これは特別メニューなのでお皿ごと取ってもらう作戦だ。
「ご主人、お刺身の盛り合わせ、言われた分は全部出来たよ〜〜〜〜!」
「マグロのお刺身も、準備完了で〜〜す!」
「マグロの握りと鉄火巻きも、準備完了で〜〜す!」
次々にスライム達から出来上がった報告が届く。
サクラが全部収納してくれたところで、俺は笑ってスライム達が入った鞄を手にリビングへ戻ったのだった。
「お待たせ〜〜〜って、なんだよ。もう飲んでるのか」
リビングへ戻ると、壁面に設置された大きなテーブルにはいつものように氷が入った大きな桶が並べられていて、俺の大好きなビール各種がしっかりと冷やされていた。
もう一台並んだ隣のテーブルには、同じく氷の入った桶に突っ込まれた吟醸酒と白ワインの瓶が並び、その横には業務用サイズとしか思えないサイズのワインをはじめとした各種お酒がぎっしりと並んでいた。
もう、飲む準備万端整ってます! って感じだ。
そしていつもの位置に座った全員の前にはワインの入ったグラスやビールの入ったジョッキサイズのグラス、それから吟醸酒の入ったやや小さめのグラス等々、もう宴会が終わった後なのかと突っ込みたくなるレベルで大量に並べられていたんだから、ここは突っ込んでおかないとな。
「いやあ、昨日のお寿司があれだけ美味しかったんですから、さらに具材が増えた今日のお刺身とやらも、そりゃあ期待しかないですって! そう話していたら、刺身にはどれが合うのかって話になりましてね、まずは飲み比べをしていたんですよ」
満面の笑みのアーケル君の言葉に全員が吹き出し、これ以上ない笑顔で拍手をしてくれる。
「あはは、生のお魚料理を気に入ってくれて俺も嬉しいよ。じゃあ出すぞ〜〜〜!」
笑っていろんな魚を色とりどりに盛り合わせた大皿をまずは取り出して置く。
「きゃあ〜〜〜なんですかそれ! いろどりがとっても綺麗で美味しそうですね!」
目を輝かせたリナさんが、アルデアさんと手を取り合ってそう叫ぶ。その隣では草原エルフ三兄弟も同じく手を取り合って飛び跳ねているし、新人コンビやレニスさんをはじめ、マールとリンピオも揃ってキラキラに目を輝かせてお刺身の大皿を見つめている。
「マグロはこれな。こっちが本マグロで、これはカジキマグロ……じゃなくて、ええと、ああそうそう、俺が釣った超デカかったソードフィッシュだよ。ちなみにこっちの方が、本マグロよりもややさっぱり風味だよ」
一応説明しつつ順番に並べていく。
「それでこれは数量限定だから一皿ずつ取ってくれよな。本マグロの一番美味しい部位で、他よりも量が少ない大トロだよ」
俺の説明に、皆興味津々だ。
「ほう、他とは色が違うな。この白さは、もしかして全部が脂か? 冷たい生魚にこれほどの脂があると、食べた時に口の中が脂だらけになるのではないか?」
オンハルトの爺さんが、大トロを不審そうに見ながらそう尋ねる。
「そうそう、その白さは脂だよ。だけど魚の脂って、肉の脂と違って口の中でとろけるからね。まあ、食べてみれば違いが分かるって」
「ほう、まあそういうのならば一ついただいてみるとするか」
まだ不審そうにしているオンハルトの爺さんの言葉に、アーケル君達は若干引き気味だ。うん、俺が責任を持って片付けるから取らなくていいからな。
「じゃあ、まずは俺にも冷えた白ビールをください!」
笑った俺の言葉の直後、全員から白ビールを渡され大爆笑になったよ。
「よし。では刺身祭りの始まりって事で、今日も一日お疲れ様でした〜〜〜愉快な仲間達、最高〜〜! 乾杯!」
笑顔の俺の乾杯の言葉に、あちこちから笑いが起こり乾杯の声が上がる。
白ビールをぐいっと一口飲んだ俺は、早速大トロの小皿を確保してから自分の分を確保するために張り切ってお皿を手にマグロ争奪戦に参加したのだった。




