焼き魚の実食と即席丼
「おお、これは美味い!」
「確かにこれは美味い! また雨の後には釣りに来ないとな」
塩焼きのトラウトを豪快に一口齧ったハスフェルとギイが驚いたように目を見開いてそう言い、あとは夢中になって食べはじめた。
「へえ、粗塩を振って焼いただけなのに、こんなに美味しいんですね」
同じく塩焼きのトラウトを一口齧ったアーケル君の言葉に、新人さん達も齧った串焼きを持って揃って頷いている。
皆、まずはシンプル塩焼きから食べたみたいだ。
「トラウトって、こんな焼き方も出来るんだ。屋敷にいた頃は、もっと薄く切ったのをハーブを効かせて焼くか、粉をつけて焼いたのしか食べた覚えが無いなあ」
元貴族のマールの言葉に、思わずシャムエル様を見る。
「ううん。言われてみれば確かにそうかも。魚料理って、確かにあまり種類が無い気がするねえ。ケンの好きな西京漬けも、元はあのバイゼンにあったお店の初代店主が、手に入りにくいお魚を保存する為に考えたものなんだよね。あ、でもマギラスは色々考えて工夫してるよ。ケンがやっているみたいに衣をつけて焼いたり、煮込んだりしているね」
「へ、へえそうなんだ。俺的にはもっと魚料理が増えて欲しいんだけどなあ」
さりげなく焼き魚一式をシャムエル様の目の前にあったお皿に並べながら、そう言って自分のお皿の焼き魚を見る。
「それは、食べてみてからの事だね。では、いっただっきま〜〜す!」
いつものごとくそう宣言したシャムエル様は、手前側に置いてあった塩焼きに頭から突っ込んでいった。
「ふおお〜〜これは美味しい! へえ、焼くとこんな感じになるんだ」
頬いっぱいにトラウトを詰め込んだシャムエル様が感心したようにそう言って俺を見るので、思わずサムズアップした俺だったよ。
「じゃあ、俺もいただこう。うう、久々の焼き魚だ〜〜」
川魚みたいなのは何度か食べた事があるし、バイゼンで手に入れた西京漬けの切り身は、白身の魚だけでなく色々と入っていて、焼く時に選ぶ楽しみがあるんだよな。
あれはあれで美味しいんだけど、日本人的にはやっぱりシンプルに焼いただけに始まり、魚料理は色々食べたい。
いい感じに効いた塩味を満喫しつつ、熱々のご飯を口に入れる。
「ううん、やっぱり焼き魚にはご飯だよな。ああ、美味しい……」
思わず目を閉じて感動に打ち震える俺。そこからは、もう夢中になって食べたよ。
どうやらハスフェル達やリナさん達、それから新人さん達も皆魚料理は気に入ってくれたみたいで、早速追加を取りに行くハスフェル達を見てにんまりと笑った俺だったよ。
『なあ、ちょっといいか?』
口を開きかけて、慌ててトークルーム全開にしてハスフェルに話しかける。
『おう、どうした?』
食べながら当然のように念話で返してくれる。
『シャムエル様によると、明日になったら生魚も食べていいらしいんだ。続けての魚料理になるけど、明日の夜は刺身と寿司パーティでもしてみるか?』
『お! 生食解禁か。そりゃあ良いな。是非やってくれ。一応、明日にはもうここの砂地も完全に乾いてしまうから別の場所へ行って普通に狩りをするつもりだったんだが、なんなら別の湖でもう少し釣りをするか?」
笑ってそう言われて、思わず食べていた手を止める。
『ええ! ここみたいな砂場以外でも、魚を釣れる場所ってあるのか?』
『もちろん近くにいくつかあるぞ。ただそこで釣れるのは、せいぜい今日釣ったトラウトより小さいくらいの魚だよ。大物が釣れる場所へ行きたいなら、ターポートかハンウイックの海側辺りだな』
その言葉に咄嗟に街の位置が出てこなくて、慌てて収納していた地図を取り出した。
「ああ、ハンウイックの街がカデリー平原の河口にある街で、ターポートの街はハンプールから川を下った河口にある街か。へえ、海側でも釣りが出来るんだ」
思わずそう呟き、なんだか嬉しくなったよ。
「これは、まず行くなら距離的にターポートかな。解散してまた三人と俺だけになったら、転移の扉経由で行けば一瞬だからな」
この後の事を考えてニマニマ笑っていると、シャムエル様にこいつ何笑ってるんだ? みたいな目で見られたよ。解せぬ!
『まあ、遠くの街へ行くのなら転移の扉を使ったほうが早いから、解散してハンプールから旅立った後でもいいと思うぞ。じゃあ明日は、近場で魚が釣れる場所を希望します!』
最後はちょっと力を込めて念話でそうお願いすると、笑ったハスフェルと、一緒に聞いていたギイとオンハルトの爺さんにも笑って頷かれた。
よしよし、これでまた魚料理の種類が増えるぞ。
小振りの魚なら照り焼き風に煮付けてもいいし、梅干しと生姜で煮込んだり味噌煮込みとかも良さそうだ。
あ、生食解禁になったら、軽く表面だけ焼いたたたきとか、カルパッチョなんかもいいかも!
それから、後で師匠のレシピ本もチェックしておこう。確か魚の項目もあったはずだ。
それに、確か以前エビも海沿いの街では手に入るって聞いた覚えがあるぞ。
目指せエビフライだ!
バター醤油焼きをご飯に丸ごとのせてほぐして食べつつ、もう笑いを堪えられない俺だったよ。
「何それ! ねえ、それもください!」
即席バター醤油丼を見たシャムエル様が目を輝かせて新たな小鉢を取り出すのを見て、俺は先に追加のバター醤油焼きを一切れと別のお茶碗にご飯をよそってきてから、シャムエル様に即席バター醤油丼を作って分けてあげたのだった。
魚料理に関しては、シャムエル様に取られたとしても絶対に自分の分は確保するぞ!
残りを自分のお茶碗に戻しながら、密かに誓った俺だったよ。




