クーヘンの店とジェムの委託
「おお、相変わらず大人気だなあ」
到着したクーヘンの店は、いつも通りに大行列が出来ている。
思わず少し離れたところで立ち止まって店の様子を眺めていたら、俺達に気が付いた行列していたお客さん達が次々に前の人の肩を叩いてからこっちを振り返り、納得した前の人がまた前の人を叩くと言った具合に、あっという間に伝言ゲームが完了して、しばらくしてクーヘンが店から飛び出してきた。
この店のクーヘン自動呼び出し機能は、変わらず健在だった模様。
「いらっしゃい。待っていましたよ! どうぞ皆様もお入りください!」
笑顔のクーヘンにそう言われて、行列している人達にお礼を言って横の入り口から厩舎へ向かい、小さくなれる子達には限界まで小さくなってもらって、とにかく厩舎に入ってもらった。
ここの厩舎は広いから、何とか全員の従魔達に入ってもらう事が出来たよ。
クーヘンが追加の干し草を出してくれるのを見て慌てて俺達も手伝おうと駆け寄ったら、鞄から出てきたスライム達が一瞬で干し草を準備してくれた。
まあ、バイゼンのお城でも厩舎の干し草はスライム達が管理してくれていたからね。
お空部隊は厩舎の上側の太い梁にくっついて並んで留まり、体の大きさを変えられないマックスを始めとする魔獣達には無理そうなので裏庭へ行ってもらった。
まあこっちも広いとはいえこれだけの魔獣が集まればさすがにちょっと窮屈そうではあるが、何とかそれなりに休んでもらえたので順番に撫でてやってから俺達は裏口から中へ入らせてもらった。
「あ、そう言えば、戻ってから一度もジェムの在庫確認をしていないよな? 冬の間に、在庫はかなり減っているんじゃあないか?」
店の奥にある休憩用の部屋に入ったところで、思わずそう言ってハスフェル達を振り返る。
「ああ、確かに。ここへ来てからすぐに別荘へ行って、新人達の教育係をやってそのまま早駆け祭りだったからな。それじゃあリナさん達にはここで休んでいてもらって、俺達は地下の倉庫で先にジェムの委託をするか」
「そうだな。じゃあちょっと頼んでくるよ」
苦笑いしたハスフェルの言葉に、俺も苦笑いしながら頷いて店へ向かった。
「ああ、今義姉さんがお茶の用意をしてくれていますから、休憩室で待っていてください」
恐らく別注品なんだろう大きな木箱に入った在庫を抱えたクーヘンが、俺に気がついて慌てたようにそう言ってくれる。
「おう、ありがとうな。それよりジェムの委託の在庫ってどうなってる? バイゼンでも色々と確保して来ているから、減っているようなら追加するよ」
笑った俺の言葉に、クーヘンも嬉しそうな笑顔になる。
「是非お願いします。特に、恐竜系のジェムの在庫がほぼ全滅なんですよ。王都から来た商会の方々が、そりゃあもう張り切って買って行ってくださったので、もし在庫があれば恐竜系は多めにお願いします。絶対王者であるティラノサウルスのジェムは、いくつも追加の注文が来ているので、入荷を待っていたところなんですよ」
「お任せあれ。恐竜系は冗談抜きで腐らないか心配になるくらいに大量にあるから、じゃあ遠慮なく置いてこよう」
もちろんジェムや素材が腐る事なんてないけど、思わずそう言いたくなるくらいに在庫があるもんな。
特に、恐竜系はお城の地下のダンジョンやバイゼン郊外の地下洞窟から、そりゃあもう大量に集まっているからさ。
「ではよろしくお願いします。これを置いたら兄さんと一緒に鍵を開けに行きますので待っていてください」
嬉しそうにそう言ったクーヘンが店に駆け込んでいくのを見送り、俺達は顔を見合わせて頷き合ってから地下の倉庫へ向かったのだった。
クーヘンとお兄さんがすぐに来てくれて二重鍵を開けてくれたので、俺達は中に入ってジェムの委託を先に準備する事にした。
一応、クーヘンの義理のお姉さんであるネルケさんが、リナさん達に先にお茶とお菓子を用意してくれたらしい。
まあ、さっきお茶をしたところだけどね。
って事で、俺達はそれぞれの在庫を確認して早速準備を始めた。
「なあ、今思いついたんだけどさ」
相当に減った在庫のリストを確認していて不意に思いついてハスフェル達を振り返る。
彼らも各自の委託の在庫を確認していたんだけど、俺の言葉に驚いたように顔を上げてこっちを振り返った。
「委託する時にいつも普通の袋に入れているけどさあ。これを収納袋にして預ければもっと入るんじゃね?」
単なる思いつきでそう言ったら、振り返ったハスフェルが苦笑いして首を振った。
「確かにそれなら大量に委託出来そうだが、残念ながらそれは無理だよ。以前にも言ったと思うが、何かを収納した収納袋はそれ以上は収納出来ない。つまり、収納袋に入れて預けるのなら、そのまま袋で渡すしかない。ここには、ジェムの在庫を収納した収納袋は入れられないよ」
そう言って、いつもジェムを入れている例の引き出しを叩いた。
「あ、そうか。収納袋を大量に手に入れた時に、確かそんな話を聞いたな。何かを収納した収納袋は、それ以上収納袋に入れられないんだっけ。その引き出しも同じか」
「そうだ。俺達のように収納の能力持ちは、何かを収納した収納袋を収納出来るが、そこまでだな」
「ううん、大量に収納袋があるから、委託の際の入れ物に出来るかと思ったけど無理か〜」
笑った俺の言葉に、ハスフェルは笑って壁面を指差した。
「まあ、ここの倉庫の安全度は相当高そうだからな。逆に価格帯の安い昆虫や小動物系のジェムを委託するのは大容量の収納袋に入れてこっちに置いておき、高額の恐竜のジェムなんかをこっちに入れればいいんじゃあないか?」
壁面には、以前には無かった木製の棚が並べられていて、割ったジェムの在庫の袋がいくつか並べられているだけで、他は空いている。
「じゃあ、それで行こう」
笑ってサムズアップした俺達は、袋に入れたり運んだりするのはスライム達にも手伝ってもらいつつ、ひたすらに委託のジェムの数を数えてリストに書き出して行ったのだった。




