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第九十三話 相撲勝負

 やる気になったのなら、さっさと勝負を付けたい。こちらは急ぎで来ている。チョモ爺がチャドから剣を借りた。寸止めで戦うのだろうか? 刃引きしていない武器では怪我をする可能性があるが、それくらいなら気にしないというのか?


 オーガの兄弟は別に気にした様子はない。チョモ爺は剣で地面に大きな円を描く。

「勝負は相撲でどうだ。円の外に体が出るか、足の裏以外が地面に付いたら負けだ」


 武器を手にして競うより安全な勝負方法だが、オーガ・ロード相手の相撲勝負にいい気はしない。体格がものをいう相撲ならチョモ爺やチャドが不利だ。


 ヤマンが鼻で笑って確認する。

「度胸は買うが、いいのか? 人間が力比べでオーガには勝てないぞ」


 ユウトもヤマンと同意見だった。チョモ爺とチャドは体格が良い。だが、それは人間基準ではの話だ。カワンもヤマンも大柄なチョモ爺より、横には一周り以上大きく、縦には頭一つ分以上高い。


 チョモ爺は胸を張って言い返す。

「嫌なら変えてもいいが、こちらはお前さんたちを負かすために金を貰っている。しっかりお前さんたちに参りました、と思わせねば仕事にならない。武器で戦って、ああすれば、こうだったら、とぐじぐじと未練がましく愚痴を垂れられてはかなわん」


 チョモ爺の挑発にヤマンは怒らずに笑った。

「結構、結構、自信のある奴を倒してこその戦いよ。どうれ」


 ヤマンが立ち上がろうとすると、カワンが止めた。

 カワンが自信たっぷりに立ち上がった。

「兄者は黙って見ていてくれ、二人纏めて俺が倒す」


 チャドが上着を脱いで準備する。チャドは物怖じせずに宣言する。

「男の勝負は一対一よ。まずは俺が一勝する」

「では合図は俺がします」


 ユウトが行司役に立候補した。異論は出なかった。チャドとカワンが向かい合う。並ぶとやはりカワンのでかさが際立つ。


 勝てるのか? と思ったが、チャドの顔には怯みの色はない。二人が少し下がって、腰を落とす。ユウトの合図で勝負が開始された。


 カワンが立ち上がったタイミングでチャドが仕掛けた。チャドは両手を使いカワンの顔の前で両手を叩いた。猫騙しだ。一瞬、カワンが怯んだすきにチャドがさっとカワンの後ろに回ってカワンの腰巻を掴んで持ち上げた。


 地面が足から浮いてしまったら、いくら怪力でも踏ん張りが効かない。チャドはそのままカワンを土俵の外まで運んで投げ飛ばした。

「勝負あり勝者チャド」


 ユウトが勝ち名乗りを上げると、カワンが顔を怒りに歪める。

「姑息な手を使いやがって」


 チャドは自信たっぷりに言い返す。

「別にイカサマも反則もしていない。勝ちは勝ちだ。どうしてもいうなら頭を下げろ。もう一番相手をしてやってもいいぞ」


 余計な言葉は慎んでくれとユウトは冷や冷やした。猫騙しは奇襲戦法。二度は使えない。正面からやってはチャドが負ける気がしてならない。


 カワンは頭を下げるのが嫌なのか、もう一番とは口にしない。ヤマンが豪快に笑った。

「弟よ。これは一本取られたな。気にするな、俺が二勝すればいいだけだ」


 ヤマンは負けるとは思っていなかった。むしろ、楽しんでいるように見えた。ヤマンが立ち上がると、チョモ爺が声を上げる。

「どれ、次は俺が出よう。ガキの使いじゃないんだ。働かないで金を貰っては庄屋殿に悪い」


 チャドはちらりとチョモ爺を見て心配した。

「親父は歳だろう? 黙って見ていたらどうだ。次も俺が勝つ」


 チョモ爺はチャドの心配をせせら笑った。

「馬鹿にしおって、まだまだヒヨッコには負けんわい」


 老婆ロードの力は老いによる衰えを打ち消す。本来ならチャドのほうが強いが、ユウトの傍ならチョモ爺のほうが強い。今のチョモ爺には全盛期の肉体に技術と知恵が備わっている。逆にこれで勝てなければ、こちらの勝利は薄い。


 ヤマンとチョモ爺が土俵に上がる。やはり、ヤマンはでかい。近くで見ているだけでも威圧感を感じる。オーガ・ロードは筋肉の小山だ。二人が見合う。ユウトが合図をすると二人は正面からぶつかって組み合った。力と力の勝負だった。


 これはまずい、チョモ爺が負けると焦った。ユウトの不安通りにチョモ爺の体がずるずると後退していく。このままチョモ爺が円から押し出されるのではと、目を覆いたくなった。


 だが、円の外の数㎝手前で動きが止まった。チョモ爺が苦しいが耐えている。ヤマンの筋肉が膨らむ。チョモ爺を押し切ろうとするが、進まない。


 チョモ爺がひとこと唸った。すると、今度はチョモ爺がじりじりとヤマンを押し始めた。ヤマンが後退していく。このまま押し切れるかと思ったが、中央でヤマンが止まった。ヤマンに押し返されるかとはらはらしたが、そのまま二人は中央で止まった。


 チャドが苦々しく発言する。

「力が拮抗している。これは技の切れが勝敗を分けるぞ。どのタイミングで投げるかで決着する」


 投げ技の対決になると思うが、どちらも投げにいかない。相撲で勝つなら投げ合いにもっていけばいい。だが、チョモ爺もヤマンも力対決に拘った。じりじりと時間が経つ。それほど時間が経ってはいないが、長く感じる。


 二人はがっぷり四つに組んだまま動かない。カワンもチャドもコボルドもはらはらしながら見守る。二人は全力で押し合っているためか、汗を掻いていた。息も切らしていた。だが、勝敗は付かない。


 力押し対決を先に放棄したのはヤマンだった。チョモ爺の息切れをみて投げに出た。これが勝敗を分けた。チョモ爺は重心を落として投げに耐える。ヤマンは投げそこなって体勢をわずかに崩した。


 チョモ爺が唸りをあげて押す。ヤマンの体が後退する。そのままヤマンは土俵の外に押し出された。勝負を急いだヤマンが負けた。チョモ爺の粘り勝ちだった。


 チョモ爺には経験があった。経験からどこまで耐えられるかチョモ爺は自分を知っていた。また、経験に裏打ちされた勝負勘が優れていた。対してヤマンは力負けした経験がなかったために、勝ちを急いで負けた。文句のない勝利だった。


 カワンがタオルを差し出すとヤマンが汗を拭う。ヤマンがサバサバした態度で認めた。

「俺たちの負けだ。約束は守ろう。銀山は守ってやる」


 ワワンがふーっと息を吐いた。報酬が二十倍も違うのだ、理解できる。ユウトは手が汗ばんでいるのに気が付いた。手に汗握る戦いだった。


 チャド親子とオーガの兄弟はその後、夜明けまで気分よく飲んでいた。夜明けと共に街に帰る。帰り道ではチョモ爺とチャドがうとうとしていたので、氷竜から落ちないかと心配だったが、無事に街に着いた。


 お昼前には着いたので、遅めの朝食を摂り、昼寝でもしようかとするとママルが来る。

「僧正様、お疲れのところ申し訳ありません。来客です。パヤを伴ってテルマ様がいらっしゃいました」


 やけに早く来たな。だが、こちらからお願いをする流れになるのなら、待たせるわけにもいかない。ユウトは身支度を済ませると応接室に向かった。

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