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第九十話 テルマからの試練

 密貿易の算段は進んでいるが、問題はテルマをどうするかだ。テルマと敵対する態度は得策ではない。どうにか、見逃してもらいたい。でも、テルマの考えをある程度理解した上で話を持っていかないと、ユウトだけが窮地に陥る。


 贈り物と一緒に手紙でも贈るか。しかし、帝国三軍師と呼ばれるのだから、かなり高給取りのはず、何が喜ぶだろう。贈り物を何にしようかと考えていると、ママルがやってきた。


「僧正様、お客がきました。パヤと名乗っています。用件は僧正様に直にお伝えしたいとのことです。パヤは庭で待たせています」


 聞いた覚えのない名前だった。誰かの遣いなら『誰々の遣いできた』とそう伝えるぐらいはしても良さそうなもの。秘密の使者か。


 厳しい顔でママルが進言する。

「僧正様の許可がもらえれば、警備の武僧と協力してパヤを討ちとうございます」


 いきなりの殺害宣言には驚いた。ママルは何か感じ取ったのだろうか?

「よってたかっていきなり討つって、尋常じゃないですよ。パヤは極東の国の暗殺者ですか?」


「どこの手の者かはわかりません。ですが、パヤなる男の気配には覚えがあります。先日、館に侵入を許した賊でしょう」


 なるほど、ママルが警戒する理由がわかった。先日の黒尽くめの男なら確実に討ち取りたい。でも、ママル独りでは不安なのか。


 どうしようか? ここで追い返してもやり手の間者ならどうとでもして会いに来るぞ。万全を期して討つなら、ダナム、チョモ爺、アメイも入れたいが、敵と決まっていないのに、いきなり武闘派は揃えるのもなあ。


「庭のキリンはパヤにどう反応しましたか?」

「キリンは無反応でした」


 キリンが敵意を示さないのなら、殺意はないのかな。キリンまで騙せるとは思えない。

「わかった、まずは会おう。ママルさんがいれば殺される展開はないでしょう」


 ママルは一礼して請け合った。

「命に替えても僧正様は御守りします」


 館の玄関を出ると庭に旅支度をした一人の男がいた。パヤは中肉中背、顔は凡庸で黒髪。どこにでもいるような普通の四十代の男のように見えた。とても先日に館に侵入してきた凄腕の間者に見えない。


 パヤは八人の武僧と雑談していたが、ユウトを見ると話を切り上げる。パヤは笑顔を浮かべてユウトに歩み寄ってきた。ごく自然な態度にユウトも気を緩めた。


 パヤがユウトから十歩の距離に来ると、ママルがユウトとパヤの間に立ちはだかった。

「そこで止まれ。用件を言え」


 ママルが厳しい口調で命令する。パヤが止まらないので、ママルは襲い掛かった。パヤはママルの素早い突きや鋭い蹴りを見切ってかわす。とても、常人の動きではない。警備の武僧も、パヤの動きの異常さに気が付いてママルの加勢に入った。


 館を警備している武僧は、武僧の中でも一級の技術の持ち主である。それがママルの加勢に入るのだが、パヤは見事に対応した。


 パヤは一番厄介なママルを相手にしながら、武僧の攻撃をかわし、反撃する。素手での応酬。幾多の蹴りや突きが繰り出されるが、パヤは負けない。その内、一人、二人と武僧が怪我を負っていく。


 ママルを含む九人の猛者を相手にしているのに、パヤが押していた。このままでは、武僧が全滅して、ママルも負けるかもしれない。武僧やママルが敵わないのであれば、ユウトなど相手にはならない。殺しに来たのなら逃げないとやられる。


 ユウトは迷った。中庭のキリンに目をやる。キリンは街の喧嘩を眺める野次馬のように戦いを見物していた。パヤは俺を殺しに来たのではないのか?


「婆様、加勢します」

 と、棍を持った孫のサジが現れ、ママルに加勢した。サジの棒捌きがパヤを襲うがパヤは綺麗に回避する。だが、サジの動きはママルにはわかるので、ママルがパヤの回避行動を先読みして攻撃する。


 パヤはサジを先に倒そうとしたが、素手と棍では間合いが違う。サジは無理に攻めないので隙が少ない。わずかに隙があっても、ママルに背を向けられるほどママルは弱くない。


 パヤに有利の形勢が、ママルとサジのコンビに優勢になってくる。パヤはそれでも逃げずに戦った。


 サジの攻撃が当たり、パヤの体勢が崩れた。ママルの猛攻が始まると、パヤは防ぎ切れなくなる。ママルの足払いが決まりパヤが倒れる。すかさず、サジがパヤの側頭部を殴りつけると、パヤはふらふらになった。勝負あった、とユウトは思った。


「そこまでです。降伏なさい」

 ユウトの声に場が一瞬止まる。パヤは息を切らせながら、地面に胡坐をかくように座った。武僧の一人が近づき、パヤを縄で縛りあげる。パヤは抵抗しなかった。


 パヤの捕縛に成功すると、ママルがサジを褒めた。

「サジよ、腕を上げたな」

「いつまでも、ママルの孫ではいられませんから」


 サジはママルに及ばないが日々の鍛錬で確実に腕を上げていた。

 ママルがユウトを見て尋ねる。

「こやつはどうしましょう? 処遇を任せていただけるのなら、後腐れないように始末します」


 パヤが敵対したら、次は止められる保証はない。だが、まだパヤが敵かどうかわからないのに処刑はできない。ユウトが考えていると、パヤが口を開いた。

「密書を持ってきた。密書はキリンに預けてある」


 武僧の一人が、何か思い当たる節があるのか、キリンに近付き調べる。

 武僧が手紙を掲げた。

「ありました。手紙です。さきほど、キリンに近付いた時に隠したようです」


「こちらへ」と武僧にママルが促す。ママルが手紙に毒針が仕込んでないかを確認してからユウトに渡した。手紙には文字が書かれているが読めない。


「マオ帝国の公用語ではないですね。旧王国の文字でもないですね」

 ママルに手紙を見せる。ママルは眉間に皺を寄せて意見する。


「極東の国の文字でもない。山の民が使う文字でもないようですな」

 謎の密書が手に入ったのだが読めないのでは意味がない。差出人も不明では扱いに困る。


「とりあえず、パヤは屯所の牢に入れてください。俺は密書の解読に当たります」

 ママルが縄を持ち、三人の武僧をお供に屯所に行った。


 暗号の類なら頭の良い人間に解読を頼むに限る。役所にいってサイメイを呼んで密書を見せる。サイメイは目を細めて密書を確認する。

「これは暗号ですね。解けるとは思いますが、時間がかかります」


 サイメイでも時間を要するのなら、なかなかの難題なんだろう。だが、差出人がテルマなら解けない問題は出さないはず。


「なら、ラジットさんと協力して解いて。仕事は暗号解読を最優先でお願いします。この暗号にはテルマが関与しているかもしれません」


 サイメイは露骨に嫌な顔をした。

「意地悪テルマの宿題ですか? なんとも、面倒な物が持ち込まれましたね」


 テルマはカクメイの弟子。サイメイはカクメイの孫。二人に接点はある。仲はあまり良くないのかもしれない。でも手口を知っているなら、ヒントにもなるはず。

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