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第八十六話 第一回講和会議終了

 講和会議は翌日も、そのまた翌日も続く。給仕の人間から情報を聞いたが、進展はまるでない。そもそも、山の独立を維持したい山の民と、山の民を従えて極東の国に攻め込みたいマオ帝国では妥協点がない。


 戦局もどちらに圧倒的に優位ではない。まだ一年と経過していないので、山の民もマオ帝国も兵糧も物資も尽きてはいない。更に三日が過ぎるが、進展なしとして講和会議は終了した。


 会議が終了すると、ミラが澄ました顔で命令した。

「後片付けを頼むわ。私は会議の終了を、領主様にお知らせするから」


 ミラはさっと帰って行く。いても気を遣うだけなのでさっさと帰ってもらってよかった。ミラは領主様の代理で、講和会議の接待役の最高責任者ではある。だが、現場はユウトたちが仕切っているので、いなくても困らない。


 ミラが帰るとアメイが館にやって来る。

 市内で見回りをしていたアメイもほっとしていた。

「やっと終わりましたね。庄屋様。極東の国のスパイも街を去りました」


 極東の国のスパイがどんな情報を持って帰ったかはわからない。とはいえ、山の民とマオ帝国の間では、実質何も決まらなかったので、漏れて困る情報もない。


「交渉決裂は当然と思いますが、俺としては戦争が終わらなかったのが残念です。あとは戦線が山の麓の村に後退してこない状況を望みます」

「山の雪も融けてくるので、戦争はまた激しくなるでしょうね」


 帝国はもう充分に広くなった。東の地まで治めたのだから、無理にさらに東の極東の地へ手を伸ばす必要はない、とユウトは思う。権力者とはどこまでも欲深い。


 アメイが表情を引き締めて切り出した。

「そういえば、庄屋様はゴブリン大使と何やらお話しになられたとか」


 はっきりとは聞いてこない。されど、密貿易の再開にあまり良い印象をアメイは持っていないと見えた。

「庄屋の辛いところ、とだけ申しておきましょう」


 勘のよいアメイのこと、何が話されたかは推測できていると見ていい。だが、何が話されたかをユウトはアメイに語らなかった。


 密貿易の話は最低限の者だけが知れば良い。あまり多くの人が知れば、露見する危険もある。露見時には、処罰される人が多くなる恐れもある。

「庄屋様の他に、会議の裏で動いていた者もおりますね。名はチドリといいます」


 マオ帝国の使節団の中にチドリはいた。チドリは文官の一人で交渉役だった。チドリが誰に会って、どんな話をしていたかが気になる。マオ帝国の武官と文官の仲の良さは知らない。されど、マオ帝国の中枢にあって、山の民と通じる者はいないように思える。


 アメイがすらすらと説明してくれた。

「チドリは帝国の頭脳である三軍師が一人テルマの弟子です」


 亡くなったカクメイが帝国に優秀な人間が三人いると噂していた。三軍師をもってすれば、山を落とせるとカクメイが評価していた。三軍師がどれほどのものか知らない。


 だが、あのカクメイをもってして知恵者だというのだから傑物なのだろう。三軍師と評される人物が動くのなら、今年は山の戦局が大きく動く、か。密貿易をする庄屋の立場からすれば、切れ者が現地入りするのは嬉しくはない。


「チドリとテルマについて知っている情報があれば教えてください」

「チドリについては知りませんが、テルマについては知っています。カクメイ様のお弟子さんです。カクメイ様曰く、私より頭は良いが、あれは危うい、と」


 またなんとも何かをしでかしてくれそうな人だな。警戒が必要か。

「テルマの弟子のチドリは誰と会っていたのです」

「バードマンのホークです」


 山の民の使節団の中にホークはいた。だが、あまり印象がないので、積極的な発言はしていない。てっきり、ダーク・エルフが暴走しないようにとのお目付け役かと思ったが違うのか? バードマンもまた種族として何か企み始めたか。


 山の民の足並みが揃わなくなってきたのなら、山は落ちるかもしれない。

内情はよくわからないので、決めつけや思い込みは危険だ。


「ホークとチドリは何を相談していたのですか?」

「警備が厳重なのでわかりません」


 アメイは腕の立つ間者だ。それがわからないと言うのだから、なかなかガードが堅い。気にはなるが、これはチドリに尋ねるしかない。簡単には教えてくれないだろうが。


 夜にはアメイが帰った。溜まっていた庄屋の仕事をしていると、扉が開いた。扉から黒尽くめの怪しい男が入って来た。ユウトは驚いたが、恐怖心はなかった。

「ママルさんや警備の武僧の目を盗んでここまで侵入するとは大したものですね」


 正直な感想だった。並の間者には不可能な芸当だった。暗殺者にしてもカトウと同等なら騒いでも意味がない。ママルが来るまでに殺される、相手はそれだけの技量を持っていた。


 黒尽くめの男が戸口で尋ねる。

「ゴブリン大使と話をしていたな。何を話していた?」

「別に接待役ですから」


 黒尽くめの男がユウトを殺す気なら殺せる。だが、拷問に掛けるには時間も場所もない。さすがに大きな音を立てれば、ママルが飛んでくる。黙っていれば秘密は守れる。


 黒尽くめの男は淡々と語る。

「警備の人間なら来ないぞ、。全員、俺が始末した」

「それは嘘だ。ママルさんが貴方に負けるわけがない」


「婆の一人も始末できないと思ったか?」

 なぜだが、ママルが近くにいる気がした。

「では聞きますがね。貴方の後ろにいるのは誰です?」


 黒尽くめの男は後ろを気にしない。いないと思ったのが、黒尽くめの男の浅はかさだった。黒尽くめの男の背後から槍が突き出る。槍は男の胸を貫通したかに見えた。


 黒尽くめの男が軽く驚いた。

「本当にいたのか?」


 仕留めそこなったと知ったママルが素早く槍を突きだす。早い! 一呼吸の間に十回は突いた。だが、黒尽くめの男の姿が薄くなり消える。幻術か?


 ママルが窓に駆け寄ると、槍を投げる。ママルが悔し気な顔をする。

「口惜しい、逃げられた。僧正様はご無事ですか?」

「大丈夫ですよ。ママルさん。助かったよ」


 ママルは険しい顔で謝る。

「私がこの館にいながら賊の侵入を許すとは」


 ママルほどの達人の目を盗んだ男がユウトを殺す気なら、今頃は死体だ。過去に極東の国の陰謀で殺されそうになった過去がある。極東の国の手の者なら死んでいた。ユウトが生きているなら、黒尽くめの男は極東の国の間者ではない。マオ帝国の密偵か? 


 そうだとするなら、テルマがチドリに付けた秘蔵っ子だろうか。あのクラスの人間に動き回られては秘密を守れない。これは早急にチドリに会って懐柔したほうがよい。


 次の日、チドリの宿泊している宿を訪ねた。宿屋の主人が愛想よく教えてくれた。

「チドリさんなら、今朝早くにお連れのと共に出て行ったよ」

「どちらに行くとか言ってましたか?」


「さあ、わからないね。人に会うってだけいっていたな」

 逃げられたのか? それとも本当に誰かに会うために早くに宿を出たのか。どちらとも考えられるが、無理に追う必要はない。追っても会えない、と思った。


 密貿易はすぐに始めるのは危険だな。遅くなるとミラから圧力が掛かる。でも、安全を確保できるまでは、どうにかミラの催促はかわすしかない。

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