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第八十一話 ビースト・テイマー 対 魔獣ヤンマガル

準備が整ったので、夜明けと共に街を出る。氷竜は全長七mほどに成長していた。大人を五人乗せてだが、悠々と空を飛ぶ。重そうな気配はない。まだ、倍以上に成長するのだから怖くもあるが、頼もしくもある。


 馬橇ばそりでも六時間は掛かる道のりだが、コタロウの操る氷竜では一時間と少ししか掛からない。エリナの村に着いた時には年寄役の老人が出迎えてくれた。

 村の人間は氷竜が襲わないと知らされていたが、それでもビクビクしていた。


 オリバがコタロウに頼む。

「我々が山に入ってしばらくしたら、氷竜で山の上空を飛んでください」


 コタロウは得心がいったと応じる。

「魔獣を空に逃がさないためですな。いいでしょう、もし空に逃げてきたら氷竜の餌にしてくれる」


 氷竜はまだ幼いが、立派な飛行を見せた。餌が充分で骨格や翼が丈夫なのは実証済み。爪や牙もコタロウが世話しているので鋭い。氷竜に戦闘経験が少なくてもコタロウが操るのなら問題ない。


 山には、まだ雪が残っているので(かんじき)を履く。ユウトの樏だけ素材が竹だった。

 歩くたびにギシギシと鳴るが、作りが弱いわけではない。


 オリバがユウトに指示する。

「荷物は囮役の庄屋様が背負ってください」


 荷物はユウトの背丈ほどもある。これは重労働と覚悟した。

 背負うと見た目ほど重くはない。ただ、動きは大きく制限される。


「荷物の七割は丸めた紙と綿です。危なくなったら捨ててください。あと、私が庄屋様と呼ばず、ユウトと呼んだときは注意してください」


 いかにも狙い易い奴がいますとアピールするための荷物か。ヤンマガルにしても嵩ばる不用品を持って山に登ってくるとは思うまい。ここら辺は猟師と魔獣の知恵比べだ。


 渡された武器も脇差のような短い刀だった。戦闘には不向きな武器だった。だが、いざとなったら背負い紐を切って身軽になる分には、問題ない。ユウトの装備は襲う側には、まさに狙い目だった。


 山道を歩く。歩きづらいが進めなくはない。オリバ、チョモ爺、チャドは雪山にも慣れており、体力がある。足取りは、しっかりとしている。ユウトが一番若いのだが、ついて行くのがやっとだった。


 天候は曇り。雨や雪はないが、風は少しある。気温はこの季節にしては低めだった。雪崩の心配はない。


 それでも、雪道を歩くので重労働であり汗を掻く。ユウトが着て居る防寒着は高級品。水滴は通さないが、汗は外に逃げる構造なのが有難かった。


 静かな雪山を無言で歩く。三人は装備の関係か、音がしない。ユウトの荷物には丸めた紙が詰まっている。歩くたびにカサカサと音がする。雪を踏みしめると、ギュッギュッの音がする。竹製樏のしなる音もする。


 四人で歩けば、ユウトだけが音を立てている状況になる。耳が良いヤンマガルのことだ。どこかで音を聞いている。音を立て、動きが鈍いとなれば、ユウトが注目を浴びる。囮役だとして、役目は充分に果たしていると感じた。


 チャモが弓を天に向かって射った。少し先に何かが落ちた。近寄ると雁だった。

 雁は全長が六十㎝と小振り。よくこんな小さな空飛ぶ鳥を射落とせたと感心する。

弓の名人だったが、名乗るだけのことはある。


 オリバもチャドの腕前を褒めた。

「やりますな、さすがはチョモ爺さんの息子だ」

「それほどでもない。飛ぶ鳥を落とせないようでは、喰ってはいけない」


 チャドは雁の首を落とし、血抜きする。

 ある程度、血が抜けたところで、首を下にして腰からぶら下げた。チャドが歩く後に、血の染みがポツポツと残る。血の跡と臭いで居場所をヤンマガルに教えているな。


 日が暮れてくるが、まだヤンマガルの襲撃はない。

「見られているな」と、チョモ爺が呟く。


「まだ、用心していますね」と、オリバが返す。

 ユウトにはまるでわからない。発見してくれてよかった。あとは襲ってくれれば良いのだが、下手にキョロキョロすると、襲ってこないかもしれないので、注意する。


 夕暮れが近づく頃、何かが飛び出した。何かわからなかったが、オリバが小刀を投げる。

 相手は白兎だった。オリバの小刀は白兎の首に命中。一発で仕留めた。


 夕暮れで視界が悪くなってきた中での一撃。しかも仕留めた獲物は、雪の上の白兎なのだから、オリバの腕も、なかなかだ。


 暗くなる前に雪が浅い場所を見つける。枯れ木を拾って焚火をする。

 荷物から鍋を出す。雪を融かして、雁を捌いて雁鍋にした。


 適当にどうでも良い世間話をする。和んでリラックスしている演技だった。

 ユウト以外の三人は、酒を出して軽く飲む。

 酒の匂いは酒場で漂う匂いと違う。薬酒の類だ。


 オリバが提案した。

「夜営の順番を決めよう。俺、チャドさん、ユウト、チョモ爺さんの順だ」


 庄屋と呼ばず、ユウトと呼ばれた。夜襲があると悟った。

 ユウトが起きている時間が、ちょうど夜更けだ。自分の見張りの時に襲撃がある。


 ユウトは、寝られなかった。他の三人は、きちんと寝ているようにも見えたが、真相は不明。

 チャドに起こされユウトが見張りの番になった。


 静かな夜の闇の中、ちらちら雪が降ってきた。薪が弾ける音しかしない。とても近くに狡賢い魔獣が潜んでいるとは思えない。


 じっと焚火を見ていると、カクンと顔が前に倒れた。急激な眠気だ。

 おかしいと、思っていると、女性の歌声が微かに聞こえる。歌声がした方向を振り向くと、闇に赤い光が二つ灯っていた。


 ユウトの意識はそこでいったん途切れた。

「ギャー」と大きな叫び声が聞こえた。


 朦朧とする頭を無理に起こす。目の前ではチャドとオリバが弓で戦っていた。

 相手は大きなまっくろな塊。全容は見えない。ただ、皺だらけの狒々の顔が目に入った。顔は大きく、口から覗く鋭い牙は人間の頭を容易に砕けそうだった。


 オリバとチャドが放った矢が狒々の両目に刺さる。狒々の首に太い鎖が回る。

チョモ爺がヤンマガルの背に飛び乗り、鎖で首を絞めていた。ヤンマガルが闇に消えた。辺りの木々にぶつかる音がする。ヤンマガルはめちゃめちゃに暴れている。


 チャドとオリバが闇に駆け出した。二分ほど若木が折れる音がする。シーンとなる。どうなったかと不安になると、三人が戻ってきた。


 オリバが疲れた顔で告げる。

「なんとか、狩れたよ。でも、あれがもうひとサイズ大きかったら、危なかった」


 オリバ、チャド、チョモ爺は何事もなかったのかのように眠る。

 ユウトは、どきどきして寝られなかった。朝になり確認する。


 黒い毛を生やして、腹が出た魔獣がいた。蝙蝠の羽を持ち長い尻尾がある。全長は八mと大きい。噂に聞いたヤンマガルの姿だった。


 狼煙を挙げると氷竜に乗ったコタロウがやってきた。

 氷竜はすぐにでもヤンマガルに囓りつこうとする。


 コタロウが氷竜を怒って止める。

「おあづけだ」


 氷竜は吠えたが、コタロウが睨むと頭を下げて従った。

 オリバがウサギ汁の準備をしながらコタロウに頼む。

「朝飯を食べてから山を降りるので、先に運んでおいてください」


 チョモ爺がユウトをちらりと見て尋ねる。

「ヤンマガルの内臓は薬になるが、竜の好物でもある。どうする?」


 季節は冬だが、内臓はすぐに悪くなる。氷竜も食べたいだろう。

「コタロウさん、先に運んで解体してください。内臓は餌にしていいですよ」


「かたじけない」とコタロウは喜ぶ。

 氷竜は自分と同じくらいあるヤンマガルを掴むと、易々と飛んだ。


 麓に降りた時には解体が始まっていた。村の取り分もある。解体処理が終わったら、取り分を引いて、素材を馬で送ってもらう算段をする。

 氷竜で街に帰った時には昼過ぎだったが、一泊二日で勝負が着いた。

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