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第八十話 会議の前の一仕事

 休戦の情報が入った。正式発表はないが、街では講和会議が噂される。出所は街の役人や世話人たちかもしれないが、怒りはしない。どうせ、準備すれば、誰にでも予想が付く流れだ。


 会議場は街の集会場を使う。マオ帝国のお偉いさん用には宿を手配しておいた。村から街に発展する過程で、商人、職人、技術者が多く逗留するようになっていた。急ではないので宿は確保できそうだった。


 異種族側の使者の宿泊先は寺の宿坊を使うと決めた。寺は警備がしやすく、武僧たちは異種族を恐れない。反感もあろうが、僧正の威光を使い納得してもらった。


 さすがに異種族の使者とはいえ、先日まで戦争をしていた相手だ。軍に囲まれて、では落ち着かない。その点、僧は表向き非軍人であるので便利だった。


 寺は建立時には本山から寄付を受けたので、格式もある。清掃も行き届いている。料理はマオ帝国の南方風ではあるが、不味くない。異種族の使者が揉め事を起こす気なら別だが、充分な接待ができる。


 ヴァンパイア・ロードは山の民の遊撃部隊または工作部隊だった可能性がある。休戦時に山の中まで追いかけると、外交的にまずい。


 先に背後関係がない魔獣を処分すると決めた。魔獣といえば、オリバである。

 オリバの家に行くと、オリバは縁側で矢を作成していた。


「精が出ますね。狩りに行く準備ですか?」

 オリバは元気だった。機嫌も良い。

「冬はネズミ捕りを作って雑貨屋に売っていましたよ」


 山岳地方ではネズミ捕りはネズミの他にリスを獲るのにも使える。リスの毛皮や肉は売ることができるので、罠猟に使えた。餌は南瓜の種が使われる。


 オリバが空を見上げて微笑む。

「もう直、雪解けですよ。近場で畑に播いた種を狙う雉や鳩を狩ろうと思いましてね。飲み(だい)ぐらいは稼げる」


 街では入居時に持参金を納めれば以後、家賃と食費は発生しない。

 老婆・ロードの影響下では、寝たきり老人でも働けるまでに容易に回復する。持病がないと、死ぬ直前まで元気でいられる。


 元気になったお年寄りは暇なので、オリバのように小遣い稼ぎをする。

 雉や鳩を撃っての換金は可能。大衆酒場なら一杯は飲める額になる。また、お百姓さんも畑を荒らす害獣が消えるので喜ぶ。お年寄りは街の仕事の隙間を埋めてくれる。


「実は以前、吸血鬼除けの太鼓も作ってもらった件です。吸血鬼の他に魔獣がいました」

 オリバは気の毒がった。


「それでは魔獣による犠牲者が出たでしょう」

「いいえ、それが魔獣は太鼓の音を嫌ったようです」


 オリバは作業の手を止める。オリバは難しい顔をする。

「あの太鼓の音を嫌う魔獣ならヤンマガルでしょうな。とすると、厄介だ」


 さすが熟練の猟師、魔獣の正体を知っているのか。

「どんな魔獣ですか?」


「全身が真黒でコウモリに似た翼を持つ魔獣です。不思議な音で、こちらを惑わせます。音を敏感に聞わけ動きも素早い。空も飛ぶ。性格は用心深いですが、人を襲います。特に女と子供が狙われます」


 人を襲うのは厄介だ。また、空に逃げるのなら下手をすれば捕まらない。

「退治するには、どうしたら良いですか」

「熟練の猟師が三人。素人が一人必要です」


 熟練が三人必要なのはわかるが、なんで素人がいるんだ?

 オリバは眼光も鋭く発言する。

「素人は囮です。囮を集団から引き離そうとするヤンマガルを倒すのです」


「囮役は素人でなくても、それらしい代役を立てればよいでしょう?」

 厳しい顔で、オリバはユウトの考えを否定した。

「ダメです。ヤンマガルは、プロが素人の振りをしても見抜くのです」


 狩りの素人なんて、どこにでもいるから、問題ない。なら、熟練者を探してもらおう。

「手間賃を払うので人を探してくれますか?」

「お急ぎですか?」


 できれば、ちゃっちゃっと方を付けたい。講和会議前の決着が望ましい。

「できれば、早く村人を安心させたい」


 オリバは否定的だった。

「となると、難しいですな。ヤンマガルは狩った経験者がいないと長期戦になる。熟練猟師でも、ヤンマガルを狩った経験者がいない猟師では、一回か二回は失敗するでしょう」


 問題は次々と解決していかないと処理できなくなる。長期戦は困る。

講和会議失敗後、村が火竜に急襲されるかもしれない。村からは街に逃げる間に、村人が次々と犠牲になったら嫌だ。

「オリバさんは、ヤンマガルを狩った経験はありますか?」


 誇らしげに答える。

「五度ありますね。あと、チョモさんも息子さんのチャドさんと協力して三回ほど狩った経験があるとか」


 弱い魔獣ではないので、オリバの腕は、なかなかのものだ。

 金を準備できれば、チョモ爺とチャドなら問題なく協力してくれる。熟練狩人枠にチョモ爺、オリバ、チャド、を配備。素人枠で俺が入るなら、狩れるかな。危険に曝されたくはないが、俺がいれば、チョモ爺とオリバの能力は全開になる。



「提案です。四人でいきましょう」

 オリバは首を傾げる。


「私、チョモさん、チャドさん、それで、あと一人は誰です? 危険な役ですよ」

「俺です。俺が囮役になります」


 オリバは渋って、計画の欠点を指摘する。

「私やチョモさんは高齢です。短期決戦ならいざ知らず、長期戦は苦しい。体力が保たない。それに、庄屋様だってそんなに街を空けられないでしょう」


 これには勝算がある。

「村まで氷竜でひとっ飛びで移動、一泊二日で決着を付けましょう」

「体力的に一泊二日の狩猟なら、問題ないです。ですが、勝負を決められるか不明ですよ」


「失敗したら、また考えましょう」

 オリバは乗り気ではなかったが、説得に応じてくれた。


 翌朝にはオリバから知らせがくる。チョモ爺もチャドもオリバの誘いを断らなかった。

 ただ、準備があるので、五日ほしいと頼まれた。


 ユウトは待つ間にコタロウに氷竜を飛ばす話をする。

 コタロウは乗り気だった。

「魔獣の肉は氷竜の体を丈夫にします。ヤンマガルの肉なら是非に欲しい」


 利害は一致した。ヤンマガルを狩れば氷竜の餌代節約になるか、なら嬉しい。

 やるか、ヤンマガル狩り。

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